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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
次元華の咲く場所へ
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終章 次元華の咲く場所で

 空洞の一番奥に生えた、大樹のような植物は、天井に張りつくように蔓を広げ、いくつもの次元華が連なって咲いていた。

 美しい、と思った。

《やっとゆっくり話せるね。聖騎士レイダーク。おめでとう。あんたはアンティスダムのために探していたものを見つけたよ》

 三匹の蜘蛛が歩いてくる。アラニスは先頭にいて、細身の蜘蛛がその後ろに控えていた。

「ありがとう、アラニス」

 僕が礼を言っていると、皆集まって来た。

 カーニムはやっぱり梟の姿をしていて、アラニスの隣に降りてきた。アルフレッドとムイムは最初から僕のそばにいる。

 皆を見回していると、背中の荷物がごそごそと動いた。フェリアとシエルが出てきたのだ。二人はアラニスのそばへ飛んで行き、アラニスに何か言われたのか、そのまま彼女の上に止まった。

「ムーンディープの汚染は、放っておいても大丈夫な状態なのかな」

 僕が聞くと。

「師匠が長居しなければ。師匠は立派なひとですけど、それでもやっぱりコボルドなので、長居は良い影響がないかもしれません」

 フェリアにそう言われた。

「そうか。なら、アンティスダムに報告もしなければいけないし、すぐにでも僕はムーンディープを出ようかな。とはいえ、逆に心配になって来たんだけれど、アンティスダムがこの場所に入り込んで問題ないのだろうか」

 僕は急に不安になった。アンティスダムが入り込むと汚染されるようなことがなければいいのだけれど。

《長居しなければ大丈夫さね。次元華は摘んでも数日後にはすぐまた華が付くから、手入れも必要ないしね。必要な時だけ摘みにくれば問題ないよ》

 僕の不安が杞憂であることを、アラニスが教えてくれた。

「一番の不安は、グレイオスがこの場所を見つけたってことは、レダジオスグルムもこの場所をおそらく知ったってことじゃないかと思います」

 フェリアが告げて。

 フェリアとシエルは頷きあった。

「しばらくは私たちはちょっと動けそうにないですし、いつ頃回復するかも分かりません。師匠の旅の邪魔になるだけですし、ムーンディープにいれば少なくとも私の回復は早まりますから、私とシエルはこの場所に残ろうと思います。アンティスダム達が次元華を安全に回収できるように、アラニスさんと協力して、次元華を守っていくひとも必要になると思うんです。アラニスさん、いいですか?」

《もちろんだよ。ゆっくりしておゆき》

 アラニスは快諾してくれた。アラニスに任せておけば、確かに、フェリアとシエルは安全だろう。

「でも」

 アルフレッドが不意に口を挟んだ。何かをじっと見ている。うまく閉じられなかったのか、彼の視線の先には、グレイオスが開いたゲートが、まだ残っていた。

「グレイオスを野放しにする気もないのだろう? ラルフ」

「そうだね。いずれ追わなければいけないだろう」

 僕は頷く。すると、アルフレッドは僕の肩に手を置いて首を振った。

「このままだと探し出すのはかなり困難になるだろう。でも今なら、あのゲートを抜けることで、後を追える。君は彼等を追うべきだ」

 そうかもしれない。けれど、僕が行ってしまったら、誰がアンティスダムに次元華のことを伝えればいいのか。僕は少し考えこんだ。そんな僕にアルフレッドが言った。

「考えるまでもないよ。アンティスダムとは、ぼくもレインカースで面識がある。ぼくから伝えるよ。もう一度言うよ。君は、グレイオスたちをすぐに追うべきだと思う。君が言うように、君に、シュリーヴェに対する責任があるというなら、追わなければいけないよ」

「そうかもしれない」

 僕は皆を見回した。決心がつかなかった。

 皆、同じ目をしていた。行け、と言ってくれている。

「ムイム、君はどうする?」

 そう言えば、と聞いた。

「アンティスダムとの連絡役は必要でしょう。ボスがついて来いというならそうしますが、残れというなら、できることはいくらでも思いつきますから、残りましょう」

 確かに、ボスは僕だ。僕が指示をすべきだ。来てくれれば心強いけれど、その場合、実際ここが心配なのも本音だ。

 僕はしばらく目を閉じて考えこみ、それから答えた。

「グレイオスたちを見逃したのは僕で、彼等が他の次元で悪事を働くとして、それは僕に責任の一端がある。君たちにその責任を負わせるのは間違っていると思う。そして、この場所に咲く次元華にはアンティスダムの未来がかかっている。守っていくことに失敗は許されない。だから、僕の考えでは、ムイムにも、ここに残ってほしい」

 そして。

 こう続けた。

「それと、ムイム。あともう一つ頼みたいことがある。ボガア・ナガアがどの次元に飛んでしまったのかも、探してみてくれないか。僕も可能な限り探すつもりだけれど、僕は自分で次元を渡れるわけでないし、君の方が適役だと思う。もし見つけたら、サンドランドに送り届けてやってくれ。彼が望むなら、レインカースでもいいかもしれない」

「お安い御用で」

 いつものように、いつもの調子で、ムイムは答えた。

 指示すべきことは、これでいいだろう。

 それに、あまり長居をすべきでない。ゲートはいつ消えるか分からないのだから。僕は、皆に、

「僕はグレイオスたちを追う」

 とだけ告げて、グレイオスが残したゲートに向けて走り出した。

「ぼくはサンドランドにしばらくいるつもりだ。ぼくの力が必要になったら、サンドランドに来てくれ」

 アルフレッドが僕の背中に声を掛けてくる。心強い。サンドランドへ行けばおそらくムイムにも会えるだろう。僕自身には次元を越える力はないけれど、たぶん、マリオネッツに協力してもらえば難しくないはずだ。

 僕は走った。

 別れの言葉を交わしている暇はない。ゲートが安定しているうちに、行かなければならない。

 僕は後ろを振り返らずに叫びながら駆け抜けて。

 どこに続いているのかもわからない、ゲートに、勢いよく飛び込んだ。

 その先で何が起こるのかは分からない。

 ただ。


 仲間たちは、もういない。

 これからは、僕も、ひとりで立つのだ。


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