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「まったく、人間というのは、そして人間が言う【正しさ】ってのは、本当に不思議だよね。」と彼は言った。彼は続けた。

「そもそもさ、人間は何を基準にして【正しさ】を唱えているの?」

「何って...そりゃ、【常識】とか【文化】とかそういった類のモノを基準にしているんじゃないの?」

「【常識】ねぇ...あまりピンっと来ないのは、僕が人間じゃないからかもしれないけど...」

そう言いながら彼は何かを思い出した様に「ニヤリ」と微笑んだ。

「けど昔...と言っても僕が覚えている範囲の昔だけど、面白い事を唱えていた人間がいたなぁー」

「えっ!?」

私は驚いた。彼が私の影に取り付いたのは今から約1年前。存在自体が脆い彼は、それ以前の記憶はまったく無いのだ。だから彼の言う【面白い事】を、少なくとも私も聞いている筈なのだ。私の影から出れない彼が知っている事を、私が知らない筈はないのだ。絶対に。

「唱えていたのは君の大学の教授だよ。」そう言って彼は何故か得意気に続けた。その教授が唱えたのであろう言葉を、彼は続けた。

「【言葉が連なり知識と成り、知識が連なり情報と成る。情報が連なり常識と成り、常識が連なり世界と成る。】」

私も思い出した。そんなことを言っていた人は確かにいた。けどそれは...

「【だから知識を得るために、ちゃんと勉強しましょう。先輩。】って、真似るなら最後までちゃんと真似るべきでしょ?そんな言葉を言えるのは、そんな言葉を私に言えるのは、ウチの大学教授を含めても、神鬼君だけだよ。」そう言いながら私も何だか微笑ましかった。彼の言葉を思い出せた事が、あまりにも生真面目な彼の言葉そのものが。

「話を、1つ前に戻そうか。」

そう私は切り出した。【人間の正しさ】についての話を私が彼に唱えるのは、私が結果的に彼と身体を共有することになったとしても、またそうならなかったとしても、私がしなくてはならない事の様に思えたからだ。

「そうだね。その後でも、例の約束を遂行するだけの時間はあるだろうから。」

そう言って微笑っていた彼の瞳は、相変わらず人間のそれでは、無かったのだ。

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