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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第七章
20/40

20.好きな女子はいるか

20.



「おぬしは好きな女子はいるのか?」

「なんですか藪から棒に」


 シロはこの海限定でバディを組むことになったアイリーフと一緒にいる。

とはいえ彼らの性格上特に会話があるわけでもなく、それぞれが付かず離れずの位置で思い思いのことをしていただけだ。

周りはすぐに打ち解けあって仲良さそうに遊んでいるのに。

普段彼と話すことの多い「緑」の少女が、即興で組んだ「青」の二年生男子と仲良く手をつないでいるのが見えた。

少し胸のあたりがチクチクする感じ。

ちょうどその時に、背後から彼女の声が聞こえてきたのだ。


「せっかく服を脱いどるんだ。心の服も脱ぎさって話をしたいじゃないか。それともわしの脱ぎ方では不満か?」

「いえいえいえもう十分です」

大げさ過ぎるほどのジェスチャーを交えてシロが反応する。

映像をお見せできないのが残念だが、せめて言葉の描写は頑張ってみようと思う。


 ぶっちゃけ、彼女は水着をつけていない。

この書き方では誤解が生まれるが、普通の水着をアイリーフは持っていないのだと言う。

彼女が持ってきていたのは二枚の貝殻とロングサイズのワカメ。

しかしそれでは理性を保てない男が出てしまうため、やむなくシロが持ってきていたもう一枚の水着とTシャツを貸してあげる形になった。


 ちなみに。

なぜ二枚も水着を持っていたかというと膝丈までのバミューダともっこり競泳パンツ、どっちを履くか直前まで悩んでいたためらしい。



「いませんよ」

 好きな子がいるかという質問に、シロは落ち着き払って答えた。

これがシロの悪い癖だ。

たとえいなくても、誰でもいいから女の子の名前を挙げればいいのに正直に答えてしまう。

これが女の子との会話が長続きしない理由であり、シロの女嫌いを育ててしまった原因だ。


 アイリーフは少し考えた後に質問を変えてきた。

「年頃の男子はみんな好きな女子の十人や二十人いるものだと思っとったのに、草食系か。

ならばここに来てる女子の中で一番可愛い子は誰じゃ」

「か、可愛い子…ですか?」

この質問に少し戸惑うシロ。

見事に釘を刺された。

「好きな子じゃなくて可愛いと思う子じゃ。今度は『いない』って答えはなしじゃぞ」

「えっとそれは」

辺りを見渡しながら困った顔をするシロ。

「照れるようなことじゃないじゃろ。遠慮せず言ってみろ」


「・・・ネさん」ぼそっと小声で話すシロ。

「なんじゃって?」アイリーフは名前を聞き取れない。


「・ローネさんです」

「聞こえんぞ、誰じゃ」もじもじと話すシロを急かす。


「メローネさんです」

「もっと大きな声で」


「メローネさんが可愛いです」

「もう一回もう一回」

「いやもう確実に聞こえてるでしょ」

 いつの間にか接近していた二人が距離をとる。

ちょっと大声を出してしまい、海の中でうずくまって火照った体を冷やす。

「そうか『緑』のあの子か。ならば同じ『緑』のわしにも可能性は残されとるのかな」

前髪をいじりながらアイリーフがそんなことを言うもんだからシロはまたしても戸惑ってしまう。

「えっ?」

「冗談じゃから恥ずかしがるな。『まじっすかーじゃあ付き合ってみます?』と返せるようになれば会話が弾むぞ」とアドバイス。

シロはわかったようなわかってないような曖昧な返事だけ残し、それからまた会話が途切れてしまった。



 海辺は静かだ。

ザザザー、ザザザーと引いては寄せる波の音が心地良い。


 遠くで聞きなれた先輩の声が聞こえる。

ゴム製のボートを引いて海を行く彼の元に、この海限定でバディを組むエルザらしき子が近づいていく。

二人はなにやら口論をしている。

フレッドが手元にあるゴムボートを叩きながらなにかを説得している様子だが、エルザの方は何度も首を横に振るばかり。

おそらくフレッドはエルザをボートに乗せて海をエスコートしたいのだろう。

しかし彼の思惑とは裏腹に彼女のほうは乗り気じゃない。

やがてぷいっときびすを返し、陸へ上がっていってしまう。

残された彼は急にこちらを向いてやれやれといった仕草を見せ、ゴムボートを担いで彼女の後を追う。



「すまんがもう一つだけ質問させてくれ」

 人差し指を立ててアイリーフが迫ってきた。

びっくりして仰け反り、そのまま水しぶきをあげて尻餅をつくシロ。

頭から海水をかぶった彼のことなどお構いなしに彼女は質問を投げかけてくる。


「エルザのことをどう思っとる? わしの知らん所で問題を起こしたと聞いたが」


 問題というのは入学式――バディが決定した日――の翌日のあの事件。

エルザがバディの交換を要求に近づいてきて、フレッドが勝手に承認して魔法バトルが始まってしまった一件のことだ。

当時まったく魔法が使えなかったシロは、そのバトルにおいてエルザが放つ電撃魔法に痛めつけられ極度に雷を。

しいては当の本人であるエルザを含む黄色の魔法使い達全般を恐れるようになってしまった。


 だけど。

「仲良くしたいという気持ちはあります。でもエルザさんはやっぱりおっかなくて苦手です。触るとビリビリするし」

シロはあれから成長した。

いまだ不安定ながらも魔法をある程度まで使えるようになっただけでなく、老若男女誰とでも変わらずに接する先輩と行動を共にしてきたことで内向的な性格がいくぶん改善されてきている。

女の子と話す時にはまだ緊張が止まらないのだが、話しかけることすらできなかった四ヶ月前に比べたら目覚しいほどの変化だ。


 それでもまだエルザは怖い。

その気持ちを日常、エルザとバディを組む彼女に偽ることなく話してみせた。

すると意外な返事が返ってきた。

「エルザも同じことをわしに相談してきたことがあったぞ。

仲直りをしたい男の子がいるとな。だけどどうしても上手くいかないと真剣に悩んどったな」



 そしてアイリーフの口から語られる。

エルザという少女の心の内を。



 続く。

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