19.ドキッ! 女だらけの水着大回
19.
季節は夏!
サンサンと振り注ぐ灼熱の光が学園の生徒達のローブを一枚また一枚と脱がせていく。
大陸の南側に位置するオークロッテ地方は北方の豪雪地帯からも遠く、さらに盆地。
蒸し暑い日々が学園中から水分と集中力を奪っていく。
そして今なお活発に続く付近一帯の謎の地揺れが、生徒達のイライラを増長させていった。
だからこそ休日にみんなで遠出して海に行くという計画はすんなりと決まったのだ。
そして一行を乗せた馬車は軽快に坂道を下っていく。
海はもう目と鼻の先だ。
「僕、海に来るのひさしぶりです。いっぱい泳ぎたいですね」
長旅の疲れも忘れたかのように砂浜に立ち準備運動をはじめるシロ。
それをいつものように鼻先であしらうのが彼のバディ、フレッド。
「お前には聞いてねーよ。俺が興味あるのは女の子だけだ」
彼の視線の先にはたくさんの女の子たちがいた。
海に来たのは総勢八名の見知った顔ばかり。
第二~三章で一緒に戦ったサイダー&サラサの「青」の魔法使い兄妹。
第五章で知り合ったモカとメローネのバディ。
そしてもう一組。
馬車を降りた後、すたすたと木陰に逃げ込んでじっとしているバディがいる。
フレッドは第一章で知り合ったその子の元へ歩み寄る。
いつものキレイな金髪を、今日は後ろで結んでいるのはエルザだ。
入学初日からシロと一悶着を起こした彼女はフレッドに気付くと上目遣いで話しかけてきた。
「私、海は行くのも見るのも初めてなんだよね。ていうか水につかること自体ほとんどないし」
「それじゃ風呂も入らないの?」
「うん。ほとんどシャワーだけ」
「黄色の魔法使いだから?」
「うん、黄色だから」
黄色だから、なんだというのか。
遠くで話し声だけ聞こえていたシロがようやく追いついて聞き返した。
「黄色だからなんなんですか?」
「お、話に加わってきた」
エルザが新鮮な反応を見せた。
シロが女の子の自分に話しかけてくるのがそれほどまでに意外だったのだ。
「エルザちゃん泳げないんだってさ」
「泳げなくないよ。泳いだことがないだけ」
必死に訂正するエルザ。
一年生二人を見比べながらフレッドが提案する。
「そうだ。泳ぎの得意な女男君にマンツーマンで教わるのもいいんじゃないか? ま、ムリだろうがな」
手を口に当てながら笑いをこらえるポーズで挑発。
これまた入学初日の話を振り返る。
バディを組んだばかりの頃、フレッドはシロのことを見た目で女の子だと思い込み、下着が入った箱をぶちまけたことがあった。
その時に性別とともに判明したのが、シロは泳ぎが得意であるということだ。
これまでずっと忘れ去られていたこの設定が今回活かされようとしている。
だがしかし。
エルザという人物にあまり良い思い出がないシロは困った反応を見せる。
そしてエルザ本人もどうでもいいといった様子で座り込んでしまった。
進行上の都合触れてはいないが、入学式以降もエルザとは何度もニアミスしている。
その度に再戦を挑まれているがシロは逃げ惑うばかりだ。
今日はそんな二人の関係をどうにか修復できたらという淡い期待も込めて連れて来ている。
「バトルなら受けるけど」
髪をいじりながらぼそっとつぶやくエルザ。
二人の間に割って入りながらフレッドがどうにかなだめる。
「今回はバトル無しだ。楽しくいこうぜ」
「そうじゃぞ。海はなにかと危ないからな」
男らしいガサガサ声が隣から聞こえてきた。
そこには砂地に十枚ほどの葉っぱを並べて何事かをつぶやいている少女がいる。
体格は隣りに座っているエルザと変わらない。
そして今まで姿を見せなかった彼女こそが、何を隠そうエルザのバディ。
「占い師アイリーフ。いろんな通り名を付けられているが、一言でいえば変人だな」
変人。
その呼び方にあっさりと納得ができてしまうような身なりを彼女はしていた。
五~六箇所でくちゃくちゃに結ってあるボサボサの髪。丸い縁の大きいメガネ。
衣類も至る所に引っ掛けて破れたような跡があり、ジーンズのダメージも深刻だ。
「周りの言うことなんて関係ねぇ」とでも言わんばかり。
今も周囲の情報をシャットアウトして、砂地に並べられた葉っぱ達を食い入るような目つきで見つめている。
そんな感じの彼女のことを、今日が初顔合わせとなるシロにとりあえず紹介だけ済ませる。
やがて意を決したように彼女はその内から一枚の葉っぱを取り胸元に手繰り寄せ、大きく息を吐いた。
「なにをしてるんですか?」と恐る恐る尋ねてみる。
「占い」
「へー、どんな結果が出ましたか?」
シロの問い掛けに答えるように、手の中にあるその葉をめくって裏側を見るアイリーフ。
そして告げられる。
「今日はおなかがいっぱいになるでしょう」
その場に沈黙が流れた。
パチクリとまばたきして状況を整理するシロの肩をポンと叩いてフレッドが言う。
「な、変だろ」
そうこうしているうちに。
水着に着替えた者から思い思いに海での遊びをはじめる。
泳いだり潜ったり、ボール遊びをはじめたり。
水着姿の少女達を食い入るように眺めるフレッドと、それを阻止するサイダーがいたり。
「そうだ! いいこと考え付いちゃったぜ」
提案がある。
そう言って全員を一旦集めたフレッドが言う。
「せっかくの海だしおもいっきり楽しんでほしいとは思う。
だが海ってのは普段馴染みがなくて面白い分、危険も多い場所だ。
そこでだ。
楽しむという本来の目的を達成する良い機会作りってことで、バディの交換でもして遊ぼうぜ。
その代わり通常のバディと同様、常に助け合いの精神は忘れないこと。それでいいよな」
「ふざけんな! それお前が得するだけだろうが!」
フレッドの提案に真っ先に異議を申し立てたのはサラサの兄、サイダー。
彼はとにかく妹のことが大好きで、今回の遠出もほとんど妹のサラサのお守で付いてきた口だ。
そんな彼の、可愛い妹の愛らしい水着姿を見て欲情しない男はいないという心配がシスコン魂(略してシス魂)に火をつけてしまったのだ!
さらに『バディ』の交換という点に潜む罠もサイダーは見抜いていた。
一年生は約一名を除いてみんな女子。
そのたった一人の男子と普段組んでいる女好きの彼はどう転んでも女子が当たるという寸法だ。
3割バッターで妹とバディになってしまう危険性をこのシスコンは見過ごせなかったのだ。
だが妹は乗り気だった。
魔法使いにちなんだ四色のコントラストがまぶしい水着を指で直しながら近づいてきた。
「おもしろそうだしいいじゃん」
「サラサ! これはお前のためを思って言ってやってるんだぞ!」
「てゆーか海に来てまで兄貴と一緒なんて絶対イヤだし」
心配もむなしくバッサリ切り捨てられる兄。
道中も馬車の中でやれ水着が派手だとか肌を露出しすぎだとか小言を言われ続けてきたサラサの我慢もピークにきていたようだ。
そして他の女性陣も概ね賛同してくれた。
反対したのはむしろ男性陣ばかり。
「一緒にやらないんですか?」とシロまで残念そうな顔をする。
そんな後輩を彼は冷たく一蹴する。
「なんで水着になってまでお前と引っ付かなきゃならねえんだよ」
途端に不安そうな表情を浮かべるシロ。
そんな後輩を諭すように耳打ちした。
「安心しろ。これはあくまでバディの交換だ。一年生同士で組むことはない」
フレッドはちゃんと後輩のことも考えていた。
バディということは違う学年同士の組み合わせ、即ち天敵エルザと組むことは無い。
それに彼と接してきたこの四ヶ月間が、内気で人見知りの激しかったシロを少しでも変えたことは間違いない。
女の子との接し方も、彼の隣りで見てきて分かり始めてきていた。
意見がまとまった所でフレッドは砂浜に落ちている適当な石を四つ拾い上げる。
それぞれ「赤」「青」「緑」「黄」の四色を塗り、それぞれの色を持つ二年生に見立て、袋に入れたその石を一年生達が順番に選んでいく。
まずメローネが青の石を引いてサイダーと即興のバディを組んだ。
次のサラサは黄色の石、つまりモカと。
「赤」のフレッドと組むことになったのはエルザ。
そしてシロの今日の相手は「緑」の占い師アイリーフに決定した。
続く。




