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黒の魔法使い  作者: ハルシオン
第六章
18/40

18.ここR15

18.



 学園の食堂を襲う突然の強風。

舞い上がる自然現象の悪戯に翻弄されるのは二名の女子生徒。

「ぎゃああ゛!」茶色の髪を振り乱しながら叫ぶ。

「いやぁ~~~っ!」バタバタと音を立ててミニスカートがめくれ上がる。衆人環視の中で。


 シロの瞳にはばっちりと映っていた。

そこにあったのは桃源郷。

ひらひらレース付きの文字通り桜色に色付いた小高い丘。

その脇には紫紺のT字交差点が広がる。バックもフロントも。

それら二つのカラーが、こんがり焼けた肌とのコントラストで一際くっきりと映っていたのだ。


「はい。検査および熱風消毒完了、っと」

 フレッドが挑発的な物言いで切り出す。

斜に構える彼を、顔を染めながらにらみつける二人の女子。

色づいた太腿を露出させながらもスカートを手で抑えながら、これまでよりも声のトーンを一つ下げて口を開く。

「今の風、アンタが起こしたのね」

「ええそうですが。なんか文句があるのかピンク」

「下着の色で呼ぶな!」


 先ほどまでの甘えた態度から一変し、激しく責め立ててくる二人に対しても彼は攻めの大勢を崩さない。


「俺の夜の相手を務めるなら、パンツくらいで恥ずかしがってちゃ耐えられないぜ」

 得意げに言い放つフレッドに思わず引く二人。

彼女達だけではない。

食堂に居合わせたその他大勢の生徒達、そしてバディのシロも。


「くっそー覚えてやがれ」

「はい覚えておくよ。紫とピンク」

「だから色の名前で呼ぶなー!」

 笑顔で見送るフレッドに、彼女達は捨て台詞を残して退散していった。



「なにやってるんですか先輩」

 嵐の過ぎ去った食堂で、散らかった食器類を片付けながらシロがぼやく。

フレッドはその問いにモップを掛ける手を休め、自慢げに語る。

「気圧の変化さ。

大気の一点を急激に熱することで気圧差を作り出し、それで風を巻き起こしたってわけだ」

「そういうことを聞いてるんじゃないんです」人差し指をくるくる回す先輩に容赦なく物申す。

「興奮したか?」


 同級生のスカートに隠された秘部を特等席で見せられる。

最高のショーである。

それが普段生意気でわがままし放題の奴であれば格別な味がすることだろう。

しかしシロはこの問いに素直に答えるような男ではない。

「そういう問題でもないですよ。なんてことするんですか」

「お前をいじめてた連中だぞ。なんで肩を持ったりするんだ、良い気味だろうが」

「そんなことしたらまたいじめられるからですよ」


 シロの脳裏に堆積していた不安。

背後にまとわり付く影に囚われて動けずにいた。

その闇を一瞬にして取り去ってしまったのが、フレッドのこの言葉であった。


「お前そんなこと気にしてんの?

仕返しを怖がってたらいじめられっぱなしじゃねーか。どんなマゾだよ。遠慮なくやり返せばいいだろう」

「だって…」

 そこまで言い掛けて、シロは言葉を詰まらせた。

言い返す言葉が見つからなかっただけではない。

どんなに上手な切り返しを思いついても、口論でこの男を言い負かすヴィジョンが思い浮かんで来なかったのだ。


 そうやって黙りこくる時のシロは決まってうつむき、暗い顔になってしまう。

四半年余りの期間を楽しい時も苦しい時も一番近くで過ごしてきた彼にはそれが分かっている。

「好きな子をいじめちゃう心理ってあるだろ。きっとあの子達はお前にパンツ見て欲しかったんだよ」

「それはいくらなんでも極論すぎますよ」


 だから一年先輩である自分がずっとシロの支えになってきた。

時には厳しく当たりもしたが、巡り会わせたこの一年を面白おかしく過ごしていきたかったから。

「だから代わりに俺が見てやっただけのことだ」

「おもいっきり泣いてましたけど」

「物は考えようってことだよ。それにお前は一人じゃないだろ」

 照れくさそうに耳をかく仕草で声が中断される。

そのセリフはフレッドがずっと言いたかったことであると同時に、本来フレッドの性格上声に出して言ったりなどしない言葉。

しかし二人きりのこの状況と、雨水の雑音が彼の背中を後押しした。

「お前の周りには、たくさんの友達がいるじゃねーか。

サラサちゃんにメローネちゃん。ぽっちゃりのモカにアホのサイダー。俺だっている。困ったことがあれば仲間を頼れ」


 その言葉を聞いてシロはあの日の出来事を思い出す。

はじめてこの学園にやってきた時に言われた言葉。

どうして魔法使いがバディを組むのか、その意味を思い出していた。


 室内に沈黙が流れるのと対照的に、外は雨が一層激しさを増していく。



 一方その頃。

食堂で不幸な事故に見舞われた先ほどの二人組は寮へと向かう道すがら、悪態をぶちまけていた。

その手には泥で薄汚れた鍵が握られている。

「くっそーあいつら絶対に許さねぇ。バディにも召集かけてぶっつぶしてやる」

「部屋の鍵を私達が持ってるとも知らずに。弱みを握って二度と逆らえないようにしてやる」


 可愛い顔からは想像もできない毒を吐く二人。

男子寮へと続く渡り廊下に差し掛かるその時、対向してきた一人の生徒とぶつかった。


「あぢぇっ!」

 触れた肩に電流が走る。

女であることも忘れたような声をあげ、指先まで駆け抜けるその衝撃に驚き倒れ込む。

痛覚を残す腕をさすりながら見上げる彼女を高い場所から見下ろすその人物が口を開いた。


「あら、ごめんあそばせ」

 整ったその容姿と鋭く突き刺さるようなその声を確認し、無事だったほうの生徒が戦慄する。

目の前にいるのはこの学園で知らないものはいない。

並み居る一年生の中で一際美彩と才覚を放つ少女の名を。


「げっ! こいつ雷のエルザ」

 通り名を言われると、座り込んでいた方もおののく。

白い肌と光沢のある金髪が見る者を魅了する。

しかしてその指先から放たれる鋭い雷光はあまねく全ての者を恐怖に陥れる。

名を聞いただけですっかり怯えてしまった二名の魔法使いに、エルザは言葉の雷を落とした。


「ぶつかったのが私でよかったわね。

噂のシロ君の魔法だったら、あんたの腕なくなってたわよ」


 その後の二人の姿は見るに堪えない。

腰を抜かしてしまった少女を、その片割れが担ぎわめきながら来た道を引き返していった。

廊下に一人残されたエルザはキュッとくちびるを噛み、そしてつぶやいた。


「あんなブスにやらせないよ。シロ君を倒すのはこの私なんだからね」

 その顔は闘志に満ち溢れながらも、どこか清々しい決意を湛えていた。



 そして舞台は暗転する。

雨雲が通り過ぎた地帯。

雨露を湛えた森の一角にその魔法使いの姿があった。

黄色のレインコートに身を包んだ声の主が優しい声で語り掛ける。


「レイ。出ておいで」


 新たにもう一人、ガサガサと草の根を掻き分けて現れた。

木陰から出てきたのは間違いなくレイその人だった。

フレッド達と共に秘宝奪還の任に付き、そのまま行方知れずとなっていた黄色の魔法使い。

その彼女が元気そうな姿で声の主の前に現れた。

特徴的な長い髪は依然変わりなく彼女の体に蔦のように巻き付いていた。


「何か用ですか?」

「凄く良い子を見つけたの。『赤』よ。学園に連れて来てあげてね」


 コートの彼女が指差す方角に小さな集落が見える。

民家が十数軒立ち並ぶだけののどかな山村を見下ろしながら、レイは彼女に尋ねる。

「フレッドはもういいんですか?」


 答えは返ってこない。

それがいつものこと。

彼女の言葉は神様のお告げと同義である。

そう言わんばかりにレイは彼女の言葉にしたがって魔法使いになり、学園の優秀な生徒になり、フレッド達を森で置き去りにした。

これからも言われるがままにターゲットとなった人物と接触し、『赤』の魔法使いとして学園に連れて行くだけだ。


「わかったよ、ロロロ」



 続く。

 第六章完結。

諸事情により無期限休載とします。

さらに一部の設定に変更があるので、続きはそれを全部書き直してからです。


追記:変更作業終わりました。

追記2:(改)←このマークが出ている全てのお話を、12月に入ってから改稿しました。

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