第14話:根黒の撒いた種?
「……」
「……?」
【なぁんか……やばくね?】
前を歩く謎の覆面マン。
闘技場から連れ出されて、彼の後をついていく。
係の人かと思ったが、どうも違うようで。
最初こそ、丁寧に説明されて納得はしたが……逃げた方が良いかなぁ?
まぁ、仮想世界で犯罪に巻き込まれる事はほぼ無い。
殺されても現実に戻るだけで。
そもそも、タイタングリード内であれば、違反するような行為は出来ない。
チート行為もそうであり、システムを不正に改ざんする事だって出来ない。
だからこそ、連れていかれたところでどうこうなる訳ではない……ないけども。
「……あのぉ……まだ、かかりそうですかねぇ?」
「……もう着きますよ」
彼はそれだけ言って、そのまま街の中を進んでいく。
そうして、不意に足を止めたかと思えば指を横へと向けて……え?
「こ、此処は……中華料理屋“天山”……え?」
「中で貴方を闘技場へと招待したお方がお待ちです。さぁ、どうぞ中へ」
「……! なるほど。では!」
【え、何何? どういう事ぉ?】
【根黒さん! 説明を!】
リスナーさんたちが困惑している。
俺は店の中に入る前に、実はヌイッターで自身の秘密を知る人間がDMを送ってきた事をざっくりと伝えた。
10連勝すれば、会ってくれるという感じだったので、とも伝えておく。
すると、彼らは納得し、少しだけ盛り上がっていた。
【謎の存在か……そそるねぇ】
【ワクワク!】
【もしかして、根黒さんの……元カノ!?】
「ははは、生憎と誰かと付き合った事は無いんですよぉ……じゃ、入りまぁす」
俺はそう伝えて、中華料理屋の扉を押し――瞬間、香辛料の香りがむわっと漂ってきた。
食欲をそそる香り。
そして、炒め物をしているのだろうか。
火で何かを炒める音が微かに聞こえる。
店内を見れば、外観通りそれなりの広さで。
お客さんも多いようであり、それぞれのテーブルで美味そうな調理が並んでいた。
赤を基調とし、中華っぽい飾りが散りばめられていて――
「いらっしゃい! お客さん一人?」
「え、あ、そのぉ。何というかぁ」
「――あの方のお客様ですよ」
「……! あいあい! こっち来な!」
チャイナ服を着た黒髪お団子頭の糸目のお姉さん。
彼女が覆面マンから何かを言われれば。
納得した様に頷き、こっちだと言われて……グル?
不安とワクワクの両方を感じながら。
俺はお姉さんの後をついていく。
彼女はお客たちがいる横を通り過ぎ。
そのまま厨房へと入ったかと思えば、更に奥へと進んでいった。
何処まで行くのかと思えば、ノブがついた扉を開けて中へと入り……え?
「こっちこっち! さっさと入る!」
「え、あ、え、え? あ、はい」
俺はお姉さんに手招きされて。
そのまま狭い洋式トイレが設置されたそこへと入る。
案の定、扉が閉まればぎゅうぎゅうで……うぉ。
俺の胸板に感じる柔らかい弾力。
それはお姉さんのおっぱいだ。
ふよふよとしていて、お姉さんが動く度に感触がぁぁ!!?
「……よっと……? お前、顔赤い? 風邪か?」
「うぇぇ!? いいいいいえ!! おっぱ――ふへ!」
【根黒はおっぱいに弱いっと】
【ラッキースケベが現実で……根黒、お前を、消さなければならない】
【……先生ってそういうのが良いんですね……なるほど】
【――コメントは削除されました――】
【……リリー何書いたの?(恐怖)】
お姉さんに見上げられながらも。
俺は笑って誤魔化す。
が、リスナーさんたちにはバレバレで……ふへ。
「……!? な!?」
「ジッとしてるよ。すぐ着くね」
部屋全体が揺れた。
俺は何事かと思いながらも言われた通りに待ち……揺れが収まる。
瞬間、入って来た扉が勝手に開き――え?
「ようこそ、お待ちしておりました――ホワイトレコード様」
「え、え、だ、誰?」
【おぉ、豪華な料理……待っていたのは仮面のイケメン?】
広い部屋には、大きな円卓が。
その上には豪勢な料理の数々が並べられている。
そうして、奥の席には両手を広げて笑みを浮かべる――仮面の男がいた。
俺はお姉さんに押されて、よろよろと中に入る。
後ろを向けば、お姉さんが手を振り扉は閉じて……え?
俺は視線を仮面の男に戻す。
すると、彼は無言で対面に座る様に促してきた。
俺は言われるがままに、空いていた席に座る。
「お腹は空いてませんか? 現実には還元できませんが。どうぞ、お好きなだけ飲んで食してください。あぁ、ですが――それは切らせて頂きますね」
「え!?」
彼がぱちりと指を鳴らす。
瞬間、俺の配信は強制的に終了させられた。
他人の配信を勝手に終わらせる事が出来るなんて……何者?
運営側の人間か。
将又、特権を有する人間か。
分からないが、配信を止める事が出来るのなら……グリード内で力を持っているということだ。
俺はそれを理解し――下手な笑みを浮かべる。
「え、えへへ。そ、そのぉ、今日は、俺……いや、私をお呼びしたのは、何かぁ? あ、いえ! 言いたくないなら良いんですよ! で、ですが、そのぉ、秘密についてばらされるのは少し問題が」
「――ふふ、先生。そんなに警戒しないでくださいよ」
「……え?」
仮面の男は腕を組みくすりと笑う。
すると、先ほどまでの男の声は消えて――若い女性の声になった。
「え、え、え、え? あ、え?」
「ふふ、またまた騙されたみたいですねぇ。分からないですかぁ? それともぉ……お兄ちゃんって呼んだ方がいいですか?」
「お、お兄ちゃんって……! いや、その声に今回のイタズラ――みっちゃん!?」
俺が知り合いの名前を出せば――彼女は仮面を外しニッと笑う。
「だいせいかーい。じゃじゃーん」
彼女が腕を振るえば、彼女の姿は一変し。
ボンキュッボンのナイスバディーな黒髪ショートヘアのお姉さんになる……おぉ。
彼女が席から立ち上がる。
そうして、ブーツを鳴らしながら近寄ってくれば。
嫌でもその成長を感じざるを得なかった。
昔はあんなにも小さかった女の子が。
身長は170センチを超えて、凹凸のある体つきになり。
青いショートパンツに黒いタイツで、パンクなジャケットに胸元の開いたシャツを着ている。
猫のように細めた青い目に、ぷっくりと艶やかな唇。
指ぬきグローブから出た白く細長い指で俺の頬を撫でて――てぇ、違う!
「だ、騙されないからね!! みっちゃんはそんな、い、いかがわしい人では!?」
「うーん? いかがわしいってぇ……何処がですかぁ?」
「え!? い、いや、そ、そんなの……分かるでしょ!?」
「うーん。私って賢くないからぁ。先生が言葉で、指先で、示してくれないとぉ……分からないですよぉ?」
「えぇぇぇ!?」
みっちゃんは俺の手を掴む。
そうして、恋人のような結び方を――あぁぁ!!?
「やめるんだ!! 君はそんな子じゃなかっただろ!? お花が好きで、何時もニコニコして……いや、悪戯好きでよく俺を罠には嵌めてたけど……そ、それでもぉ!」
「ふふ、可愛い……やっぱり、先生なんですねぇ。なぁんにも、変わってないんですから……でも、酷くないですか?」
みっちゃんはそう言いながら離れて行く……え?
「……私、先生にまた会える日を楽しみにしてました。女を磨いて、努力して……このアバター、現実の私との違い、ほとんど無いんですよ?」
「え!? そんなにエッチ――うなぁ!」
「ふふ、そういう目で見ていいんですよ……でも、私も他の子たちも……怒ってますから」
みっちゃんはそう言いながら、テーブルの上の骨付きチキンを取る。
そうして、豪快に齧って指についた油を舐めとる。
「お、怒ってるって……お、俺は何も」
「何もしていない……それが原因ですよ? お兄ちゃん」
彼女はチキンを齧る。
そうして、眼を細めながら俺を見つめて来る。
「も、もしかして……連絡しなかった事? そ、それとも、高校卒業してから孤児院に行かなかった事?」
「全部ですよ……それとぉ、私たちじゃなくてぇ、あぁんな若くてぴちぴちのぉ尻軽を弟子にしたなんてぇ……殺意、抱いちゃいました」
「ひぇ」
彼女は骨ごとチキンを噛み砕く。
そうして、ゴリゴリと音をさせながら一気に飲み干す。
彼女は指をしゃぶってから、俺に対して殺意を向けて来る……た、助けてェ!
「……でも、お弟子さんの実力は分かったからもういいんです」
「も、もしかして、あの緑の機体は」
「――私ですよ。分かりますよねぇ、だってぇ、あの戦い方はぁ……先生が私を調教した結果ですからね?」
「や、やめようよ! お、俺は孤児院の皆とゲームしただけだからぁ! みっちゃんはもっと上手くなりたいっていってたからぁ!」
「うーん? そうでしたかぁ? 私の記憶ではぁ、先生は泣いて止めてっていう私にぃ無理矢理太くて長い棒を」
「――やめろぉぉぉぉ!!! パイルバンカーでしょうがぁぁぁ!!?」
俺は心臓をどきどきとさせる。
もしも、これが配信中だったら。
完全にアカバンであり、みっちゃんもそれが分かって止めてくれたんだろう……お、恐ろしい子だ。
俺は呼吸を落ち着かせる。
そうして、適当にあったお茶をがぶのみした……あ、美味しい。
「……ふぅ……で、再会は嬉しいけどさ……何で、あんなDMを俺に? 何か理由があるんじゃないの?」
「んー? 理由ですかぁ……えぇ勿論。10勝というのは本当に先生かどうかの確認です。本物であれば、旧式の機体の操縦でも、先生が負ける筈が無いですからぁ。そして、見事に10勝してぇ此処に辿り着いたのなら――次は私が御相手をしようと思ってたんですよ」
「…………本気なの、みっちゃん」
俺は彼女へと視線を送る。
生半可な覚悟はダメだと視線で伝えれば――彼女は嬉しそうに眼を細めて笑う。
「えぇ本気です。お兄ちゃんの事で、私が本気にならなかった事――ないでしょ?」
「……分かった。なら、やろうじゃないか……勿論、俺は配信させてもらうからね」
「えぇ構いませんよぉ。それが今のお兄ちゃんの……いえ、先生の御役目ですからねぇ。ふふ」
彼女は俺の配信を承諾してくれた。
俺は静かに頷き――両手を合わせる。
「それじゃ、いただきまぁす!」
「……可愛い」
折角のご馳走だ。
食べないのは失礼だ。
たらふく食ってからが勝負で。
俺はがつがつと料理を食べながら、恍惚とした表情で俺を見つめるみっちゃんに恐怖を覚えていた。




