第13話:復活のKと勝利のサイン(☆)
「「「うぉぉぉぉお!!!!」」」
《ななななんとぉぉぉ!! 根黒万太郎!! これでぇぇぇ9連勝ぅぅぅぅ!!!》
「……へへ」
機体の拳を上げる。
すると、歓声は更に強くなった……楽しい。
此処まで9回の戦闘があったが。
全員が全員、闘技場では名の通っていた強者だったらしい。
一回戦目にはいなかった実況者もついて。
そんな猛者たちとの手に汗握るバトルを乗り越えて……あと一勝だ!
【すげぇ……スーパーマシーンかよ】
【忍者!! これは忍者です!!】
【六七ってあんなにぬるぬる動くんだなぁ】
コメントに反応しながら。
俺は元の位置へと戻り次の対戦者を待つ。
少し荒れていた闘技場の地面は元に戻り、倒れていた敵の機体も転送される。
恐らくは、俺を此処に呼んだ張本人が何処かにいる……いや、もしかして?
「……次の相手が……そうなのかな?」
【ん? 何が?】
「え、あ、いや! 何でもないですよぉ。ははは」
リスナーさんたちを不安にさせないように誤魔化す。
すると、実況者が声を張り上げながら次の対戦カードを発表し……え?
《さぁ記念すべき十勝目を飾れるかぁ!? それとも、同じく連勝中のエースがぁぁぁ奴の記録を阻むのかぁぁ!!! さぁ、最高の試合を見せてくれ!! 紫電のぉぉぉぉカタギリぃぃぃぃぃ!!!!》
「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「……マジ?」
【カタギリ来たぁぁぁぁ!!!】
【リベンジにやって来たカタギリなんて……興奮するじゃないのぉぉぉ!!】
【見せてくれ!! カタギリ!! お前の最高のエンタメを!!】
門が開き、ずんずんと歩いて来る六七。
その機体は俺のものよりも遥かに傷だらけで。
修復の跡らしき、テープがいたるところに巻かれていた。
まるで、それがスカーフのようにはためいて――彼のセンサーが真っ赤に光る。
《また会ったな――根黒万太郎》
「あ、はい! カタギリさんも闘技場に来てたんですね! 楽しい試合にしましょうね!」
俺はフレンドであるカタギリさんに手を差し伸べる。
機体同士の握手であり、ほとんどの人は握手してくれる。
スポーツマンシップであり、カタギリさんもきっと――彼は俺の手を弾く。
「……え?」
《……楽しく、試合? ふふ、違うぞ、根黒。これから始まるのは――殺し合いだぜ?》
「え、い、いや、殺し合いかもしれませんけど。スポーツとして」
《お前にとってはそうだろうけど。俺にとっては――此処は、お前を殺す為の舞台でしかねぇんだ! はは!》
「え、えぇぇ」
カタギリさんの声は妙に明るい。
ちょっとだけ怖く感じる。
コメント欄を見れば……。
【目バッキバッキで言ってそう】
【根黒氏への復讐の為だけに勝ち進んでない?】
【多分、彼にとって復讐が出来るんだったら何でもいいんだろうね】
【俺は賭けるぜ!! 勿論さ――勝てるぜ、根黒!!】
【瞬殺ですよ!! 秒殺っす!!】
「カタギリさんを瞬殺? 秒殺って……あ」
思わずコメントを読めば、カタギリさんの空気が変わる。
《瞬殺、秒殺、ふ、ふふ、ふふふ、ふき、ふききききき――ぶっ殺すッ!!》
「え、えぇっと……頑張ってください!」
【マジで殺意向けてる相手に頑張れって……流石っす根黒さん!!】
【そこに痺れる憧れるぅぅぅ!!】
【先生を殺せる訳ねぇのに……可哀そうな奴】
【ホワイトレコード様の伝説の糧になりなさい】
【根黒ガールズが当然のように実況しておりますぞ!!】
コメント欄は加速、カタギリさんもカタカタと機体を震わせて笑っていた。
何でこうなるんだと思いつつ、機体を元の位置に戻す。
そうして、ボクシングのように腕を構えて……ん?
カタギリさんを見れば、両腕をだらりと下げていた。
ぷらぷらと揺らしている。
独特な構えであり、今までの経験では見た事が無い。
嫌な予感と共に、未知の体験が出来る事にワクワクし――
《それではぁぁ!! 根黒万太郎VS紫電のカタギリ。いざいざぁぁぁ――始めェェ!!!》
開始の銅鑼が鳴り響き――俺は一気に間合いを詰める。
カタギリさんは依然変わりなく。
腕をぷらぷらと振っていた。
俺はそんな彼に対して、先ずは様子見の左ジャブを放ち――彼が避けた。
《しぃぃぃぃぃ!!!》
「うぉ!?」
彼は出鱈目な動きで機体の腕を振るう。
鞭のようにしなり、脇腹に迫る。
が、俺は彼の攻撃の前に操縦を終わらせて――ペダルを踏む。
瞬間、機体は後ろへと飛ぶ。
そのまま衝撃を抑える操作をし、ペダルを踏みこんでいく。
地面を滑りながら後退し――目の前に真っ赤な光が迫る。
《しぃぃぃぃぃ!!!》
「はや!?」
攻撃後の予備動作が無い。
一瞬で迫って来て、俺は肩のシールドを突き出す。
瞬間、カタギリさんの拳がシールドに当たり。
俺の機体は横へと吹き飛ぶ。
「わぁ!?」
【ピンチ!?】
【先生!?】
【問題ありませんわ】
俺はそのまま流れるように操作をし。
機体の脚部で地面を踏みつけて――相手へと突っ込む。
《――っ!?》
「お返しですよ!」
俺は拳を振り――カタギリさんのシールドに防がれる。
彼の機体は地面を滑りながら後退。
バランスを崩し、俺は畳みかけるように接近し――横へと飛ぶ。
【え? 何で!?】
【今のは攻撃だろ!!】
【勿体ない!!】
コメントをチラリと見れば、俺のミスだと指摘していた……違うねぇ。
カタギリさんの機体は背を逸らせた状態から、すぐに立て直す。
そうして、ぽきりと機体の首を傾けるような動きをして――彼が笑う。
《流石だな。今、攻撃してりゃ……確実に、テメェを殺していたぜ?》
「まぁそうですよね。へへ」
【え、どういう事!?】
コメント欄が盛り上がる。
それをチラリと確認し――カタギリさんの機体が走る。
《俺を見ろォォォ!!!》
「……!」
彼が走って来る中で。
俺は咄嗟に横に飛ぶ。
が、カタギリさんは器用に機体を動かし。
そのままノンストップで迫って来る。
彼は鞭のように腕を振り攻撃。
俺はそれを機体を僅かにずらして回避。
が、彼の攻撃は止む事無く。
連続してしなる攻撃を繰り出してきた。
俺はそれらを目で追いながら、同時に機体を操作していく。
回避、回避、シールドで攻撃を流し――
《凄まじい攻防です!!! かつて、これほどに六七式を操れた傭兵がいたでしょうか!!! 今日の試合は伝説になるやもしれません!!!》
「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」
《きひひひひひひ!!! どうしたぁ!!! その程度かぁぁ!!? 根黒万太郎ぉぉぉぉ!!!》
彼の攻撃を躱し――大きく飛び上がる。
後ろへと高く飛び――カタギリさんが全力で走る。
《そんなに高く飛んで――着地が出来るのかよぉぉぉ!!》
【危ない!!】
【負けるぅぅぅ!?】
カタギリさんは足に機重を乗せる。
そうして、踏み込みながら全力で右を振りかぶる。
着地したと同時に、俺の機体には彼の拳が命中する――と、思うじゃん?
俺は流れるようにレバーとスイッチを切り替えて。
ペダルを調整しながら、相手の攻撃に合わせて――足を上げる。
《はぁぁ!?》
【なんとぉぉぉ!?】
高く飛んだ事と機体の姿勢を乱した事で機体は僅かにズレる。
そこから両足を折り曲げる事によって機体は丸くなり。
攻撃のタイミングが僅かにズレて――彼の拳が機体の足裏に触れた。
カタギリさんは咄嗟に攻撃の力を緩めた。
が、完全には殺し切れず。
彼の攻撃は機体全体に重みに――弾かれる。
体勢が乱れた。
俺の機体も倒れそうになる。
が、俺は操作を済ませてレバーを操り――掌で地面を押す。
そのまま側転の要領で機体を回し。
体操選手の如く機体を回しながら、体勢を戻してから舞台を走る。
歓声は驚きと喜びであり、コメント欄のリスナーさんたちも言葉になっていないようだった。
《根黒。テメェ――何処まで、俺をぉぉぉぉぉ!!!!》
「……何でカタギリさんは興奮してるんだろう?」
【根黒ちゃんが遊んでるからだよ! もっとやって!】
「えぇぇ……ま、もう準備は整いましたけどねぇ」
【え?】
俺がぼそりと呟けば、リスナーさんたちが困惑する。
俺は迫りくるカタギリさんを見つめて――薄く笑みを浮かべた。
〇
「根黒ぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は機体を操作し、奴へと拳を放ち――奴が半身をずらして回避。
俺は修行によって身に着けた“スネークスマッシュ”を連続で打ちこんだ。
まるで、蛇のようにしなる攻撃。
予測不能のリーチによって繰り出される獰猛な攻撃で。
一撃で戦闘が終わるこの闘技場では無双できるほどで――が、当たらない。
先ほどまでの奴の動きじゃない。
今までも想像以上の動きではあったが。
今の奴はより洗練されて――美しさすら感じるほどだ。
当たらない。
当たらない、当たらない、当たらない――何故だ!?
「何で、何でだぁぁぁぁぁ!!!」
俺は叫ぶ。
すると、奴はくすりと笑い――
《地面ですよ。気づきませんか?》
「地面! 何を――まさか!?」
奴から距離を取り、地面に注目し――青ざめた。
闘技場の地面がボコボコになっていた。
機体の中からでは、よく見なければ分からないが。
人間サイズであれば、かなりの凹凸だろう。
奴が明かした種は――地形による機体の操作の誤差だ。
タイタングリードはヘブンフォール時代からいかれていた。
その際たるものが地形データの影響だ。
寒さに熱さ。それらは勿論の事――溝やぬかるみなども機体の操作に影響が出る。
僅かな誤差。
対した影響にもならないと思われるそれが――プロの世界では命取りになる。
今まで派手な動きばかりしていたのは。
修復された地面を荒れさせる為で。
その準備が整ったからこそ――奴との差が明確になった。
俺はプロだ。
地形に関する練習も積んでいる。
が、本物として存在する奴にとっては――この程度は意識するものじゃない。
“意識しなければならない俺”と“呼吸と同じレベルの奴”。
この差は大きく、奴が俺の攻撃に容易に反応できるようになったのも……ふざ、けるな。
「根、黒、貴様ぁ――これしきぃぃぃぃ!!1 コォォォれしきの事でぇぇぇぇぇ!!!」
俺は駆ける。
そうして、奴の周りを駆けた。
フェイントを織り交ぜながら、死角から攻撃を放ち――奴の拳で弾かれる。
俺は姿勢を制御し、足で砂埃を巻き上げた。
そうして、砂の中に紛れて奴へと蹴りを放ち――弾かれる。
「……!?」
《ふふ、見えてますよぉ》
「こぉぉぉのぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は更に速度を上げる。
機体の限界以上の速度。
噴き出す蒸気が音を高くし、機体内はサウナのようで。
汗に塗れながらも、俺は奴へと連続して攻撃を放ち――“全て、弾かれる”。
上から下から、左右、蹴りに奴に掴みかかり――“全て見切られた”。
通じない。
何もかもが奴へと通らない。
全て見られていて、全て対処されて――俺の全てが否定された。
びきりと心に罅が入る。
遠い。遠すぎる。
これほどまでに、俺とこいつには――差があるのか?
違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う――そんな筈はッ!!!!
「俺はぁぁぁぁぁ!!!! 勝つ為に人生を捧げたぁぁぁぁぁ!!! そんな俺がぁぁぁお前なんかにぃぃぃぃぃ!!!!」
《え? 何か言いました? ふふ、すみません。コメントでリスナーさんに面白い事を言われて。あ、因みに面白い事と言うのは》
「ふざけるなぁぁぁぁぁクソがぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は更に攻撃を繰り出し――衝撃が走る。
視界が揺れた。
倒れていると理解し、機体を傾けようとし――奴の機体の拳が迫る。
「させるかぁぁ!!!」
俺は背中への衝撃を無視。
奴の拳を弾こうと手を動かし――逆に奴に手を掴まれた。
「なぁ!?」
奴はそのまま俺の腕を掴んだまま。
機体を回転させて――ぐらりと視界が回転した。
瞬間、背中に強い衝撃が走り。
俺は肺の中の空気を吐き出した。
そうして、視界がチカチカとする中で――こつりと音がした。
「……! て、めぇ」
《――今回も俺の勝ちですね! いぇい!》
奴の機体が俺のコックピットに拳を当てていた。
瞬間、俺の機体は動かなくなる。
司会者が根黒の勝利を告げて、歓声は奴をもてはやし……また、負けた。
プロである、この俺が、またしても……ふ、ふふふ、ふふふふ!!
「ハハハハハハハ!! 負けた、負けたぁ!! この、俺がぁ。根黒にぃぃ……ぷっ、ハハハハハ!!」
俺は笑う。
涙を流しながら笑い……すっきりした。
完敗だ。
完膚なきまでに叩きのめされた。
同じ機体で勝負して負けたんだ。
これは正真正銘、俺の腕の問題で……が、もう諦めねぇよ。
負けたって良い。
何度負けたって、最後に俺が勝てば……そうだろ?
根黒は俺を見下ろす。
太陽を背に雄々しく立つアイツは眩しくて……俺は奴に声を掛ける。
「根黒……お前はすげぇよ……なぁ、また、戦ってくれるか? この俺と、また……お前とならきっと、もっと熱いバトルが」
《カタギリさん……俺の気持ちは分かっている筈ですよね?》
「はは、恋人じゃねぇんだ……教えてくれよ。なぁ」
《分かりました。これが――俺の気持ちです!》
根黒はゆっくりと機体の拳を開いて――“中指を立てる”。
「………………ぁ?」
《――カタギリさん。それでは!》
奴は何も言わず去っていく。
俺は網膜に焼き付いた奴の中指と奴の嬉し気な声を何度も再生し……ふ、ふふ。
「ふ、ふひ、ふき、ふひゅ……根黒、やっぱり、お前は、俺の、事、を……何処までも何処までも――コケにしてぇぇんだなぁぁぁ!!!!」
俺はヘルメットを左右の手で抑え込み、罅が入るほど両手に力を入れる。
両手の爪が剥がれるほどに力を加えた。
俺は血の涙を流しながら、根黒万太郎を人生を懸けて殺すべき存在であると再認識した。
――おまけ――
「いやぁ良いバトルでしたねぇ! カタギリさんとも再戦を約束出来ましたし……ふふ」
【あの、何で……な、中指を?】
「ん? 中指? 俺は親指を立てたんですけど……あれ?」
控室内で機体のログを漁り……最後にマニュピレーターの異常が出ていた事に気づく。
「……ま、大丈夫ですよ! カタギリさんは分かってますって! はは!」
【うんうん、分かってるよ! 君への想いが高まってると思うよ!】
【想い(怨念)】
【(カタギリで)いっぱい遊べるドン!】
リスナーさんたちと戯れながら。
俺は控室の扉がノックされた音を聞き――




