第29話 宰相の敗北
ついに宰相との決着。
宰相の馬車。
ルートヴィヒが、乗り込んだ。
「宰相閣下。計画通りに進行しております。兄は、森の奥に誘い込まれました」
クラウスが、頷いた。
「よくやった。お前が次の王だ。わしが支える」
「ええ。——そのつもりでした」
「でした?」
ルートヴィヒの目が、変わった。少年の目から、決意の目に。
「宰相閣下。あなたの計画は、既に破綻しています」
クラウスの顔が、固まった。
「北の尾根の私兵は、制圧されました。セレナ嬢は、計画書を持ち出して離反しました。——そして」
馬車の外で、馬蹄の音。
アレクシスが、騎士を率いて到着した。
「——そして、僕は最初から、兄上の側についていました」
クラウスは、数秒、動かなかった。
それから——笑った。
「ふん。やはり、あの女か」
「あの女?」
「リーゼロッテ・フォン・ヴェルナー。——全部の歯車を狂わせたのは、あの女だ」
扉が開いた。剣を手に、アレクシスが立っていた。
「クラウス・フォン・ヘルダー。国王への反逆および、王子暗殺の企てにより、拘束する」
「証拠は」
「セレナ嬢が持ち出した計画書。捕らえた私兵の証言。ルートヴィヒの証言。——十分だろう」
クラウスは、立ち上がった。
老体だが、目だけは鋭かった。
「アレクシス。——お前はな、あの女がいなければ、今頃死んでいた。八年間、ずっと、な」
「知っている」
「そして、あの女はお前のために自分を壊した。視力を失い、記憶を失い、やがて、全てを失う」
アレクシスの手が、震えた。
「それでも、お前のために動き続けた。なぜだと思う」
「……」
「愛だ。馬鹿馬鹿しい。——愛で死ぬ女だ。お前には、その愛を受ける価値があるのか」
アレクシスは、答えなかった。
代わりに、騎士に命じた。
「——連れて行け」
クラウスは、鎖の音と共に、馬車から引き出された。
長い暗躍が、終わった。
* * *
森の中。
リーゼは、エルヴィンに支えられて、立っていた。
未来視で、宰相の拘束を、視ていた。
「……終わったわ」
「ええ。終わりました」
「宰相は捕まった。私兵は制圧。——ルートヴィヒ様は、兄の側に立った」
「リーゼ嬢の、計画通りです」
「私の計画じゃない。みんなが動いてくれたから」
リーゼの膝が、崩れた。エルヴィンが、抱き留めた。
「もう、大丈夫です。——休んでください」
「ええ。少し、眠いわ」
「寝ていいですよ」
「でも、まだ確認しなきゃ。王子は無事? ルートヴィヒ様は? セレナ嬢は——」
「全員、無事です。あなたが、守ったんです」
リーゼは、エルヴィンの腕の中で、意識が遠のくのを感じた。
「エルヴィン様」
「はい」
「あなたの顔、まだ、思い出せないけど」
「構いません。——何度でも、見せますから」
「……ずるい」
リーゼの意識が、闇の底に、沈んだ。
「愛で死ぬ女だ」、悪役にリーゼの本質を言わせたかった。悪役って主人公より主人公のことわかってたりする。
ルートヴィヒの「演技が得意です。十五年間ずっとやってきましたから」、笑えないジョーク。この子ほんと好き。




