3. 愛という名の「致死量デバフ」
■ 愛という名の「致死量デバフ」
療養を終えたゼノンは、王女からの熱烈な依頼で、王宮騎士団の指南役に就任する。
そこで彼は、このチートの真の恐ろしさを理解することになる。
(おかしい。一対多の訓練なら余裕なのに、
騎士団長とタッグを組んで新兵二人と戦うと、途端に剣が重くなる……)
ゼノンは戦慄の事実に辿り着く。
(……そうか。この『ブックメーカー』、**「敵味方の戦力の天秤」**なんだ!
味方が強ければ強いほど、俺が頑張らなくても「接戦」になるよう、
俺のステータスが勝手に下方修正されやがる!)
つまり、王女が成長して自分の隣に立てば、ゼノンはただの一般人(レベル1)まで引き下げられる。
「愛する人と並び立つ」ことは、ゼノンにとって「死」を意味していた。
ある日の放課後、夕暮れの訓練場で王女に想いを告げられそうになったゼノンは、
先手を打って「脚本」を修正にかかる。
「王女様、貴女の気持ちには応えられません。
俺には武の頂を目指し、その果てに魔王を討伐するという使命がある。
……今の俺にとって、愛は歩みを止める鎖でしかないんだ」
(よし、これでいい。魔王なんて人類の到達不能点だ。
そんなものを目標に掲げれば、彼女も諦めるだろうし、俺は彼女から距離を置ける。完璧だ!)
しかし、王女の瞳に宿ったのは絶望ではなく、猛火のような決意だった。
「……わかりました。つまり、魔王さえ倒せば、私を見てくださるということですね!」
「えっ? いや、そういう意味じゃなくて……」
「貴方の隣に立つために、私は死ぬ気で強くなります!
ゼノン様が魔王を倒すその日、私がその背中を守れるように!」
その日から、王女の快進撃が始まった。
もともと英雄の血筋だったのか、それとも「愛」という名の隠しステータスか。
彼女は**「経験値倍」**を疑うほどの速度で、騎士団の精鋭を次々と抜き去っていく。
(……待て待て待て! 成長が早すぎる!
彼女がレベルアップするたびに、朝起きた時の俺の力が目減りしている気がするんだが!?)
ゼノンは絶望する。 このままだと、魔王城に辿り着く頃には、
**「最強の王女」と「完全に一般人の俺」**という、世界一頼りない勇者パーティが誕生してしまう。
(魔王を倒すのが先か、俺が一般人に戻るのが先か……!
神様、これは『泥臭い英雄譚』っていうか、**『終わりの始まり』**じゃないか!?)
■ 四天王逆打ち攻略と、最悪の降臨
ゼノンは王女に置き手紙を残し、一人、四天王が守る前線拠点へと向かう。
(……これが唯一の解決策だ。彼女が強くなりすぎる前に、俺が四天王を片付ける。『強い順』にだ)
ゼノンの計算はこうだ。
最強の第1位~第3位: こいつらを相手にすれば、俺の出力は跳ね上がる。その力で一気に殲滅する。
死を偽装: 満身創痍の状態で「刺し違えた」ことにして姿をくらます。
結末: 英雄は死に、王女は悲しみを乗り越えて平和に生きる。俺は一般人として隠居する。
「貴女に危険な真似はさせられない(=これ以上レベルを上げられたら俺が死ぬ)」
という本音を隠した手紙は、王女の心を激しく揺さぶる。
ゼノンは計算通り、上位三人の四天王を圧倒的な暴力でなぎ倒した。
「……はぁ、はぁ、残るは『最弱』の第四位……。だが、こいつを倒すと俺のバフが切れる。逃がすのが正解だ」
ゼノンはあえて隙を見せ、恐怖に震える最弱の四天王を逃がした。
(よし、これで俺の戦歴は途絶えた。あとは戦場に血まみれの鎧を残して消えるだけだ。
完璧な脚本――)
しかし、逃げた最弱の四天王が逃げ込んだ先には、ゼノンを追ってきた「王女」がいた。
「ゼノン様を傷つけたのは……お前ですね?」
愛と怒りでステータスがカンストしかけていた王女は、ゼノンが残した「獲物(最弱)」を、
一撃で完膚無きまでに粉砕した。
その瞬間、世界の均衡が崩れる。
四天王が全滅したことで、魔王が人間界に直接介入する条件が整ってしまったのだ。
「フム、我が眷属をすべて屠るとは。褒めて遣わそう、人間よ」
空が割れ、魔王が降臨する。 王女は喜び、魔王の前に立ちふさがる。
「魔王……! お前を倒せば、ゼノン様は私のところへ帰ってきてくれる!」
遠くからその光景を見たゼノンは、泡を吹いて倒れそうになる。
(……バカな! 最弱を倒しやがった!? しかも、あんな圧倒的なレベルで……!)
現在のステータス状況:ゼノン+α+王女>魔王




