表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

5. 三流の、何が悪い

■三流の、何が悪い


ゼノンはゆっくりと顔を上げた。

その瞳から迷いが消え、代わりに底冷えするような「冷徹な脚本家」の光が宿る。


神の領域にいるからこそ見える「無数のIF」。


「……役割を奪った、だと? 笑わせるな、神様。

彼女が苦難を乗り越え、仲間を募り、挫折し、覚醒して魔王を倒すまでの『美しい英雄譚』。

その裏側で、魔王軍に焼かれる村、犠牲になる民……それがアンタの望む『輝かしい物語』のコストか?」


 ゼノンは冷徹に、そして静かな怒りを込めて神を睨み据えた。


「犠牲者がいないと、英雄は輝けないのか?


――その犠牲の上に立つ英雄ヒロインが幸せだと、本気で思っているのか?」


 眼光が神を射抜く。



「俺は、彼女に『血にまみれた伝説』なんて背負わせない。

代わりに、二人で魔王を追い詰めたという『名誉』と、犠牲者のない『平和な国』、

そして彼女がただ笑っていられる『今日』をプレゼントした。

……これ以上にいい結末ハッピーエンドが、この世のどこにあるっていうんだ」


 神は呆然と呟く。

「……だが、それでは誰も感動しない。誰もこの物語を語り継がない。あまりに……あまりに退屈ではないか」


「ああ、そうだな。だから世界一有名なビーグル犬の哲学者の話をしてやろうか」


 ゼノンは不敵に笑い、神の目前で言い放った。


「『悲劇的な人生はロマンチックなのよ、それが他人の人生ならね』……。

あんたにとって退屈でも、俺たち当事者にとっては、この上なく愛おしい日常なんだよ」


 神の領域が崩壊し、ゼノンの「+α」の力が神の権能を無理やり上書きしていく。

それは世界を滅ぼす力ではなく、世界を「凡庸」に保つための、神すらも一人の観客へと引きずり下ろす、究極の暴力だった。


鏡師きょうしの指南役


 神との決戦を経て、世界に平和が訪れた。

魔王を二人で討ち取った「救国の英雄」ゼノンが選んだ役職は、王国の軍事顧問でも大将軍でもなく、

王宮の片隅にある小さな訓練場の**「指南役」**だった。


 彼はいつしか、敬意と親しみを込めてこう呼ばれるようになる。――**『鏡師きょうし』**と。


 ゼノンの戦いには、もはやかつての衝撃波も全能感もない。

剣を執れば、相手が新兵なら新兵の、熟練の騎士なら熟練の騎士の力量を、

鏡のように寸分違わず映し出し、常に「首の皮一枚の接戦」を演じる。


「先生、今日もお願いします!」

「いいだろう。……だが、俺を越えるのは骨が折れるぞ。俺は常に、お前の一歩先を映す鏡だからな」


 相手と同じ目線に立ち、壁となり、乗り越えるべき目標となる。  

かつて彼を苦しめた「相手と同格になる呪い」は、今や次世代を育てるための、

世界で最も贅沢な**『教育きょういく』**へと昇華されていた。


■そして二人は幸せに


 夕暮れ。訓練を終えたゼノンのもとに、女王となった彼女が歩み寄る。  

華美なドレスではなく、動きやすい平服をまとい、その手には二人の子供がぶら下がっていた。


「鏡師さま。今日の『ホームドラマ』の脚本、聞いてもらえますか?」

「ああ、喜んで。……今夜の敵は、野菜嫌いの長男かな?」


 二人は笑い合い、夕焼けに染まる王宮の廊下を歩いていく。  

かつて神が「退屈だ」と切り捨てた、なんの変哲もない平和な光景。


 大衆に受けるような劇的なドンデン返しも、涙を誘う自己犠牲も、ここにはない。  

ただ、

「そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ」

という、お決まりの一行で片付けられてしまうような、ありふれたエンディング。


 (……これでいいだろ? 神様)


 ゼノンはふと、空を見上げた。  そこにはもう、脚本を強要する神の姿はない。  

代わりに、風の音に混じって、あの世界一有名なビーグル犬の哲学者が、満足げに笑ったような気がした。

(完)


あとがき

追放もので本当に無能だったら?から発想しました。第四の壁に挑む話です。

めだかボックスの球磨川禊の弱体化スキル「却本作り」の逆の能力です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ