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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第4章「黒影迫る魔術師団」

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147.誇り高い借り物


「――グラルド卿が常に監視すること。これが条件だったはずですが」


「オルウェイヴ師団長! ちょ、っとだけ待って下さい!!」


 チョーカーを外し、その姿を二人の認識に押し込んだシオン。その存在、登場を、オルウェイヴが剣呑な視線で迎える。必要だと判断すればすぐにでも手に持った魔法杖をシオンに向けかねないオルウェイヴの前に、咄嗟にフェナリはその身を挟んだ。

 フェナリを前にして、上げかけていた腕がほんの少し下がる。しかし、それは決して警戒態勢を崩した、ということではなかった。


「どうせ、あの馬鹿――ではなかった、あのグラルド卿の案でしょう。無謀で何も考えていないようなことは基本的にあの男が背後にいるものだと考えるようにしています」


「それは流石にグラルド卿が可哀想――ではなくて。ちょっとだけ。待って下さい、オルウェイヴ師団長。シオンには特別な力があります。それがあれば確かに、あの炎の魔獣を倒すことが出来るかもしれません……ですから、シオンの力が使えるかを見てからにしていただけませんか」


「もし上手くいけばこのことを不問にする、と――そういうことですか」


 剣呑な姿勢を崩さないままに問いかけるオルウェイヴに、フェナリはおずおずと頷く。ここでオルウェイヴが「はいわかりました」と賛意を示してくれるとは思っていなかった。しかし、唯々諾々とは言わずとも、渋々ながらに受け入れるであろうことは分かっていた。

 なぜなら、今はシオンと言う藁にすら縋らなければ、どうしようもないような状況だからだ。


「……分かりました。それ以外に方法はないのでしょう」


「ありがとうございます」


 事実として、オルウェイヴは逡巡を経て、そう賛同を返した。その表情は確かに乗り気、と言う様子では決してなかったが、しかしシオンという最後の可能性に多少なりとも期待している様子もあった。それはそうだろう。もうここまで来たら、猫の手も悪魔の力でも借りたいのだ。

 フェナリは、シオンに視線をやる。事の行く末を怯えつつ待っていたシオンの表情がほんの少し輝いて、同時に自分の重責に不安そうな色もそこに混じる。


「では、シオンの能力と――今からの作戦を、お伝えします」


 この時ばかりは、珍しくフェナリが仕切り役だった。


  ◇◆◇◆◇


 ――太陽が、現れた。


 まただ。二番煎じとなる戦法だが、大して知能もない黒狼狗(ヴォルヴルフ)を相手取るのであれば、何度同じ戦法を使おうとも大して支障は生じない。

 だから、オルウェイヴはまた、太陽を生み出した。しかし前回ほどの火力も魔力もない、言ってしまえば張りぼての太陽だった。しかし、それでいい。黒狼狗(ヴォルヴルフ)の性質を突く、という意味ではそれだけでも十分だ。


「せめて、私が巻き込まれないことを祈りますよ――」


「それだけは、気を付けますっ」


 上空、飛行するオルウェイヴが、手元の太陽を霧散させた。そしてそのまま、単なる重力に身を任せて落下していく。ちょうど、落下点は炎に包まれた黒狼狗(ヴォルヴルフ)の山の、頂点だ。しかし当然、両者の接近を阻むのは分厚い炎――オルウェイヴの命の為にも、そして彼が目的とする魔術の核への接触の為にも、その壁の突破は必須だった。

 そして、その火焔を突破する手法と言うのが、今回シオンに握られているというわけである。


「――っ!!」


 黒狼狗(ヴォルヴルフ)の炎がオルウェイヴを包みかねない、という勢いで燃えた瞬間に、シオンがその手を体の前で叩き合わせる。それが合図となり、オルウェイヴに迫っていた炎が空間ごと折り畳まれるようにして圧潰する。

 魔獣の山全体を折り畳んで潰してしまうことは出来ないのだと、シオンは言った。しかし、その範囲を小さくすれば、それは可能だ。具体的には、黒狼狗(ヴォルヴルフ)を二体か三体くらい巻き込むのであれば折り畳めるということだ。


『――折り畳む空間は、オルウェイヴ師団長の落下軌道に合わせて、最小限にします』


『それならどうにか、私の力で炎を消せるので……っ』


『その間隙を縫って、私が魔術の核に触れる、と。そういうわけですね』


 しかしそれでも、問題点は残った。

 というのも、常に動き続ける二つ以上の対象に気を遣いながら空間ごとに圧潰させるというのは、意外にシオンのエネルギーを奪うということ。集中が切れて、オルウェイヴの足だけでも巻き込んでしまえば大問題だ。すぐにでもシオンの存在は危険視されて、最初に逆戻り――もしくはより悪い状況になるだろう。

 だから、圧潰の範囲を縮めに縮めて、その精度を上げる。でも、ここにトレードオフが生じた。というのも、範囲を小さくすれば、次は一度の圧潰で炎の壁を完全に突破できないということになったのだ。


『シオン、その能力は――連続して使える?』


『……二回くらいなら、大丈夫、ですっ』


 本来ならば時間を空けたほうが良い、というのは当然の話だった。何事についてもそうだ。エネルギーを使う大技を連続して放つにはそれだけ多くのエネルギーが必要となり、そのことを意識しなければ魔力切れにも似たような状況に陥ることになる。

 だから、その二回が勝負だった。最小限の範囲を選択し、圧潰させる。そして、オルウェイヴの通る道を切り開くのだ。


「――もう、一回っ!」


「オルウェイヴ師団長――!!」


「分かっています! この位置なら、行ける……!!」


 再度、シオンが手のひらを打ち合わせる。その瞬間、オルウェイヴの視界は圧潰し、そして黒狼狗(ヴォルヴルフ)の、名前の通り黒い体毛が露わになった。目にこそ見えないが、ここに魔術の核がある。そして、今手を伸ばせばそれに、触れられる。

 だから、オルウェイヴは今度こそすべてを終わらせるために手を伸ばして――、


「――ッ?!」


黒狼狗(ヴォルヴルフ)の山、が――っ」


 起こったことをそのまま言葉にするのだとすれば、こうなる。

 ――黒狼狗(ヴォルヴルフ)の山が、まるで地面に沈んだかのように、高さが無くなった、のだと。そう表現するほか、ない。

 

 刹那遅れて、一つの山を形成していた魔獣たちの一部がその姿を消したから起こったことなのだとフェナリは理解する。

 ――そうか、シェイドだ。

 シェイドが、最後の魔力源となっていた黒狼狗(ヴォルヴルフ)を討伐したのだ。だから、そこから魔力の供給を受けていた魔獣たちは魔力源を失うことで、消滅した。


「――早まったというわけじゃったか!」


 シェイドが魔力源の討滅を果たすのを、待っているべきだった。そうすれば、こんな状況は起こらなかった。既にフェナリらの作戦は遂行され始めていて、オルウェイヴは既に火中に飛び込んだ後。そして、あまりに悪運を感じさせるタイミングで魔獣が消滅したことで、オルウェイヴと黒狼狗(ヴォルヴルフ)――オルウェイヴと魔術の核との間には、また間隙が出来た。

 オルウェイヴは当然、そのままの自然落下で魔術の核へと手を伸ばす。が、それより先に火焔は火勢を取り戻す。前から、横から、後ろから、四方八方を炎に囲まれて、つまりそれは万事休すと言うことだった。



「――まだっ、終わりじゃない、です!!」



 シオンが、三度目の正直――手のひらを体の前にて突き合わせる。

 それは能力発動の合図。エネルギーを消費する、大技。二回での勝負が限界だ、という彼女の言葉を裏切った、本来ないはずの三回目。


 当然のごとく、シオンは自分の身体から魔力でも妖力でもない、何か分からないエネルギーが絞り出されるのを感じた。体全体の筋肉が伸縮を繰り返し、心臓は血を吐き出しきる。脳は酸素が無くなったかのようにきゅぅっと痛み、一挙に押し迫る倦怠感が腕の動きを鈍らせた。

 しかし、シオンはその手を無理やりに動かす。動かさなくてはならない理由があった。


『――シオン。人を、助けて』


 そんなことを言われたのは、本当に初めてのことだった。

 悪魔になってからというもの、周囲は人間を喰うか喰らうか、もしくは嘲弄するだけ。そこに、誰かを助けるという思想はなかった。仲間同士、つまりは悪魔同士で助け合おうなどと言う考え方も、無かった。恐らくその意味では、『お母様』と言う悪魔は異質だったに違いない。


『強すぎる力を持っていて、化け物だと思われても……私たちは化け物じゃなくて、人間にだってなれる、なれるはずだから――!!』


 そんなことを言われたのは、まったく初めてだった。

 悪魔は、人間の姿を至高とする。悪魔がその位階を高めれば高めるほど、その姿が人間に近づいていくからだろう。だからこそ、シオンを含めてすべての悪魔は『人間になれ』と言われる。『人間を殺し、人間に成れ』と言われ続ける。

 だから、人を助けて、人間に成れるという希望を持つ――そんな話は、聞いたことが無かった。新鮮だった。寝耳に水とはこのことかと思い知らされた。


 だから――それが、理由だ。

 体が拒絶する、腕を動かすなと。その本能的な感覚に逆らう理由は、それだ。

 それだけでいい。


「もう、一回……っ!! ――『凝折』!!」


 シオンの目の前で、ぱちんと、くしゃりと、音が鳴った。

 瞬間、世界はその覚悟に呼応して変容する。空間が、圧潰する。

 オルウェイヴの視界を覆っていた火焔が、一瞬にして消え去り、今度こそ――魔術の核が、目の前に来る。見えないそれが、目の前に。


「認めざるを得ません。その覚悟に、私も応えなければならない――」


 勝負は、一瞬だった。

 魔術の核に触れ、オルウェイヴがそこに魔力を流すことで周囲の全ての魔術の核に干渉――それらを掌握し、リンクさせる。そして、その操作権を、奪った。

 

「あれ、は――漆黒の、いや、光り輝く……翼?」


『魔限突破』だ。ゲートを、本来の用途とは全く逆に押し開く。その瞬間、オルウェイヴの背中に現れたのは輝く漆黒の翼――急速に魔力を吸い出し、大気へと返しているのだ。しかし、それは長くも続かない。大気中に散在する魔力の総量を思えば、レイルス伯の用意した炎魔術に込められた魔力など、雀の涙も等しいのだ。

 だから、オルウェイヴが魔術と魔力の操作権を得た瞬間に、勝負は終わっていた。――勝負は、一瞬だ。


「――メイフェアス嬢、頼みましたよ!」


 黒狼狗(ヴォルヴルフ)を覆っていた火炎が掻き消える。それは、最後の一撃を叩き込む、これ以上ない好機の到来を示していた。だから、そこでオルウェイヴは叫ぶ。フェナリにとってもここで名前を呼ばれるのは想定内。しかし、それはそれとして――ここで自分が頼られているという事実に、ほんの少し心が湧き立つものがあった。

 ――だから、その言葉に、ここまでの全員の戦いに、覚悟に、フェナリは応えなければならない。



「――黄花一閃・極楽鳥花!!」



 それは『紫陽花』の一閃同様に二刀流を前提とした大技だ。全てを包括し、全てを手に入れる、その傲慢さと強欲さを、万能性で押し殺してしまう、そんな大技。それを、フェナリは目にも止まらぬ剣撃で、一刀にて実現してみせた。

 二刀流を前提とするだけあって『朝顔』をも超える殲滅範囲を誇る『極楽鳥花』の一閃――それは、数多くの黒狼狗(ヴォルヴルフ)を、一斉に両断する。


 下から竜巻が巻き上げるかの如く、フェナリは全てを斬り伏せて上へと跳び上がり、そして全てを斃して、着地する。

 ――そしてどうするべきか、それをフェナリはシェイドから学んだ。誇り高きあの仕草を、今だけは借りよう。



「――魔獣掃討ッ、成し遂げたり!!」



 もう何もかもを、本当に終わらせるため――フェナリは叫ぶ。叫んで、魂の代償を得て消滅しかけていた花刀を、天へと掲げた。

 それは、敵の討滅を成し遂げた合図だった。



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