天才の誤算-8
0:55 I 地区
リンが自作のスマホを見ながら霞に優しく語り掛ける。
「よーしよーし…カスミはいい娘だねぇ…。
一回その刀をしまおうか?ね?
あとそのこわーいオバサンとガン飛ばし合うのもやめて遠くに行こうか?
聞こえてるかな?
聞こえてるよね?
ちょーっとお返事してもらえるかな?」
続けて合流したばかりのルビーが、
「カスミ‼その女と戦っちゃダメ!!
ていうかリン‼なんでこんな状況になっちゃたわけ⁉」
焦りと怒りが入り混じった声でリンに詰め寄る。
「わたしは今いる建物の上に誘導しただけ…!!
あそこならわたしのスマホでも確認できるし、もちろん監視カメラを見てる奴らも警戒しない。だって映ってるんだから!
そしたらその下の道をシザーハンズが歩いてきたの。
どうしてだろう?突然シザーハンズが上を向いてカスミを見つけたのよ!
それから…かれこれ10分ぐらい睨み合ってる、上と下で…。
カスミなんて刀まで抜いちゃって…。
全然こっちの言葉に返事しないし、あの娘どうしちゃったの?」
アナも銃を構えて辺りを警戒しながら、
「カスミさんはどういうおつもりですの!?」
と不可解な状況を理解できない様子。
深いため息を吐いたルビーがリンに強い口調で言葉を吐く。
「あんたの計画にカスミの性格や家業の特性ってのは入ってないのね!?
なにが天才よ!!だいたい自分の事を天才とか言う人間は、頭はおりこうさんなんでしょうけど科学だの物理だのと計画先行で考えるのよ!!
そこに人の個性とか性格とか血の通ったものが全然みえないのよね!!
同じような人間をひとり知っているわ。
『僕は天才演出家だ』って言ってる世間知らずのお坊ちゃんをね!!」
と、少し八つ当たりにも聞こえるルビーの怒りにリンはポカンと口を開けて言葉が出ない。
「でルビーさん、カスミさんは今どういう状況なんですの?」
と堪らずアナが聞く。
「今のカスミは、サムライのゾーンに入ってる。
この画面からでもカスミの殺気が伝わってくる。
シャロンがそれを感じないわけない‼
サムライはね、刀を持つと人格が変わる。
いや、変わるってのは違うかも。
目の前に敵がいるのに逃げ出すことはサムライの精神に反する。
いいリン?どれだけ美味しそうなエサを目の前にぶら下げられても、信念を変えられない人間もいるの!!
カスミにはそんなサムライの一族の血が流れている!!
カスミにとって安全な場所はけっして高い場所でもなければ、こそこそ隠れて逃げる事じゃない!!
それを理解していたなら、もっとシャロンと距離をとった場所に誘導していたんじゃない?」
ルビーの言葉に今度は絶句するリン。
「それで…どうにかなりませんの!?」
アナの声に焦りが見える。
ルビーは優しくカスミに語り掛ける。
「カスミ…声を聞かせて…。
今はまだその女と戦う場面じゃない。
お願い刀を納めて…。
カスミ?」
切迫した空気の中、少しの沈黙のあと霞がやっと言葉を発した。
『ルビーやクロエさんが言って通り、あの人強そうだね。
でも…敵と目が合ってしまった時、背を向けるのは家の掟を破ることになる。
リンさんの指示に従わなければいけないのもわかってる。
でも…刃がそれを許してくれないの…。』
静かに話す霞の声に、
「そっか…じゃあ…少しだけ試してみよか。
でも少しよ…。カスミはスピードがあるからすぐにシャロンから遠くにいける。逃げるんじゃなくて、まず自己紹介って感じで…。いい?」
とルビーが許可を出した。
「ちょっと⁉」
驚きで声が裏返るリン。
「そうでもしないと収まらないってことですわね…。」
アナがルビーを支持する。
『ありがとう、ルビー!!』
霞はそういうとシザーハンズへとダイブした。
一気に二本刀で下降してくる霞を強烈な鉄の爪で弾くシザーハンズ。
すぐさま刀を一本しまい、態勢をを整えシザーハンズと正面で対峙した。
そしてシザーハンズの顔が鬼の形相へと変貌していた。




