4-17.薔薇の園は魔女の庭
薔薇の咲き誇る中庭は、エリヤのお気に入りだ。特に謁見の間から広がる白い薔薇を好んだ。
「下ろせ」
「やだ」
幼子のようなやり取りを楽しみながら、ウィリアムは縦抱きにした子供の首筋にキスを落とす。触れるだけの唇が擽ったくて首を竦めるエリヤが、真っ赤な顔で睨みつけた。
「こら、言うことを聞け」
「おや? 陛下はご機嫌斜めですね」
途端に口調を改めて他人行儀に接するウィリアムの策略にはまり、今日も少年王は諦めの吐息をもらす。
「薔薇が欲しい」
「わかった」
「白だぞ」
「ああ」
知っていると笑う大人が子供を抱いたまま庭の薔薇を1本手折る。腰の短剣で丁寧に棘を落としてから、エリヤの手に持たせた。手の中で香りを楽しんだエリヤの指が、茎をさらに短く折る。
ウィリアムの三つ編みの根元へ差し込んでしまう。子供の悪戯に肩を竦めたウィリアムはお返しに、子供の頬と唇にキスを降らせた。歩きながらの悪戯に、顔を見合わせて笑いあう。
「仲のよろしいこと」
揶揄うドロシアの声に、ウィリアムが眉を顰めた。
東屋で待つ美女2人に見られていたことに、顔を赤くするエリヤが唇を尖らせる。こうした子供らしい態度を見せるのは、姉のリリーアリスがいるからだ。
隔世遺伝の栗色の髪を丁寧に編みこんだリリーアリスの前に、恭しく膝をついた。下ろした主君が姉に挨拶の礼を終えるのを待って、ウィリアムも口を開く。
「リリーアリス姫、ご機嫌麗しく」
「お久しぶりね、ウィリアム。エリヤが我が侭をしていませんか?」
「いいえ」
我が侭などない。ただ可愛いお強請りや悪戯をするくらいだ。本心から否定するウィリアムに、くすくす笑うリリーアリスが弟に向き直った。
「エリヤ、新しい薔薇が咲いたと聞いたのよ」
「ご案内いたしましょう」
彼女の気遣いに一礼してウィリアムは2人を見送った。周囲は親衛隊が固めているので、東屋にそのまま留まった。用意された丸テーブルを囲む4つの椅子から、庭が見渡せる位置を選んで座る。隣に腰掛けたドロシアが視線を向けずに言葉を発した。
「オズボーンが動くわ。どうやら北のゼロシアを巻き込んだらしいの」
新しい戦の火種をかぎつけた魔女は、美しく整えた爪で扇を開いた。口元を覆い隠す彼女の呟きに、机に肘をついて景色を眺めるフリで口元を手で覆う。




