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白銀の騎士

「クウヤ様。

 重ね重ね、この村を救っていただき、誠にありがとうございます」


 未だ鈍痛の引かない俺に、村長さんが大きく頭を下げてお礼を言ってきた。


「いや、まあ、どういたしまして」


 実際俺がやったことなんて盗賊に殴られただけなんだが…言わぬが花か?

 そんなことを考えていた俺の近くに、フィナリアと呼ばれた女性騎士が歩み寄ってきた。


「これは、フィナリア様もこのたびは誠にありがとうございました」


「いいえ。領民を守るのは私の仕事。

 むしろ救助が遅れて申し訳ありませんでした」


 そんなフィナリアの言葉に村長はいえいえと首を振っている。

 なんかいちいちアワアワしている村長だな。


「クウヤ様。と申されましたか?」


 痛む頭でそんなどうでもいいことを考える俺に、女性騎士が声をかけてきた。


「あ、はい」


 クウヤというのはあだ名なのだが、もういちいち否定するもの面倒なのでこの世界ではクウヤでいいだろう。


 などと再びどうでもいいことを考えた俺は、目の前の騎士を見て息をのんだ。

 

 さらりと伸びる白銀の長髪。

 温和そうでありながらもしっかりとした芯を感じさせる眼差しを持つ碧眼。

 整った顔立ちはどことなく北欧風といった感じがする。

  

 そんな彼女は全身に甲冑を纏ってはいるが、いかにもな騎士甲冑とは異なりドレスの要所要所に小手や胸当てなどを配備した装いはドレスアーマーとでも言えるような代物で、凛々しい彼女の雰囲気に実によく似合っていた。


 女神レンシアは芸術品のような人間離れした美貌を有していたが、こちらは対照的にはっきりと断言できるような美人といった感じだ。


 そんなどうでもいいことを考えている俺の前に歩み寄ってきた騎士様はというと。


「村人たちから話を聞かせてもらいました。

 私の名はフィナリアと申します。

 この度は、私達の不手際でクウヤ様に多大な迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」


 そう言って片膝をついて俺に深く頭を下げた。

 その美しい白銀の髪がさらりと流れて地面についたが、まるでそのことを気にしていないようだ。


「えっと、あの……」


 あまりの出来事に俺の脳みそが半分フリーズする。

 なんで今日初めて会った美人の騎士様が俺の前で頭を下げるような事態になっているんだろう?


「と、とりあえず頭を上げてもらえませんか?」


「……よろしいのですか?」


 跪きながら上目使いでこちらを見てくるフィナリアさん。

 なんかそれだけでグッときそうになってしまうが、とりあえずそれは飲み込もう。


「勿論です。自分もたまたま立ち寄っただけですし、実際に盗賊団と戦ったのは俺じゃなくてあいつですし」


 そう言って、俺は少し離れたところで翼をたたんでこちらの様子をうかがっているファーレンベルクを指さした。


「……あの炎鳥は、クウヤ様の使役しておられる使い魔なのですか?」


 んー? 大きく外れてはいないような気もするが…どうなんだ?

 実際にはレンシアから借りているようなものだし、一般人の俺が使役している使い魔というにはあまりにも神々しすぎるというものだろう。


「失礼しました。

 言いにくいことであるならおっしゃる必要はございません」


 どう説明したものかと考えている俺を尻目にフィナリアはそんなことを言いだした。


 別に隠すようなことでも………あるか。

 下手に喋るのはやめておこう。


「まあ、とにかく俺はただ盗賊に殴られただけですよ」


 言わなければいいものを、どうもフィナリアの前では見栄を張ろうと思えない。

 普通美人を目の前にすれば見栄を張りたいと思いそうだが、彼女の前では下手に見栄を張るとかえって不評を買いかねないように思える。


 高嶺の花というのはこういう人のことを言うんだろうか?


 しかし当の本人はというと。


「謙遜をなさる必要はありません。

 その身を挺して彼らを守ってくれた。

 それが事実だということは、この村の住人たちが何よりも雄弁に語ってくれています」

 

 といった感じで勝手に俺の評価をうなぎのぼりにしてくれているらしい。


「……本当に、大したことは何もしてないんですが」


 ぽつりと俺がそうつぶやいて、ようやくフィナリアは立ち上がった。


「クウヤ様。あなたさえよろしければ、領主様にお会いいただけませんか?」


「領主?」


 いきなりそんなことを言われ、俺は思わず村長の方を向いて助け船を求める。

 そんな俺の意図を把握してくれた村長がアワアワしながら説明してくれた。


「この辺りの土地を収めてくださっているカーナイル・ノストハイム様の事です。

 獣人差別の激しいこの国で、唯一我々を対等な存在として扱ってくださる盟主様なのです」


「へー。そうなんですか」


「……クウヤ様はカーナイル様のことをご存じないのですか?」


 やや不思議そうにフィナリアが俺にそう尋ねる。


「え、ええ。私はド田舎出身なもので、この辺り…というかこの国のことを何も知らないんですよ」


 俺の適当な弁明に、フィナリアは少しだけ戸惑うような表情を浮かべたがすぐに元通りの凛々しい表情に戻る。


「なるほど。だからこそクウヤ様は獣人たち相手に偏見の目を向けないということなのですね?」


「えっと、まあ、はい」


 得心が言ったと頷くフィナリア。

 また俺の評価が上がった気がするが、気のせいか?


「補足をさせていただくと、カーナイル様は領民たちを家族のように大事にされております。

 ですから、その領民を守ってくださったクウヤ様であれば喜んで歓迎してくださるでしょう」


「そうなんですか?」


「はい。私が報告をすれば、カーナイル様はクウヤ様に会いたがるかもしれませんね」

 

 それはまた随分とフランクな領主がいたものだ。


「というわけなので、ここで別れられると再度クウヤ様をお迎えに来ることになるかもしれないので、是非ついてきていただきたいのですが?」


 訂正。フィナリアも言葉遣いを除けばかなりフランクなようだ。


「こっちは構いませんが……」


 そう言って村人を見るとみんなが『もういっちゃうの?』的な表情を浮かべている。

 先日までは距離を取られていたような感じがするが、今はそうでもないらしい。


 それを察したフィナリアが明日出発するということになり、俺たちはこの村で一泊していくことになった。


 うん。

 それがいい。

 今ならケモミミパラダイソを満喫できるかもしれないのだから。







 

 ……獣人たちの身体能力のすさまじさは盗賊団との一件で理解したつもりだったが、その認識はまだ甘かったらしい。

 その日、獣人たちの狩人たちは出かけたかと思うとあっという間に魔物たちを狩ってきたのだ。


「……昨日俺が狩りに出かける必要なんてなかったんじゃないのか?」


 見る見るうちに集まっていく魔物たちを見て俺はそうつぶやいた。

 しかしそんな俺にヌーアがかぶりを振りながら歩み寄ってきた。


「そんなことは無い。

 クウヤが昨日ブラックバイソンを俺たちに施してくれたから全員が息を吹き返しただけだ」


「……こんなに狩りが出来るのに?」


「それは私たちの不徳ゆえなのです」


 いろいろと腑に落ちないためそう質問したところ、隣で話を聞いていたフィナリアがそんなことを口にした。


「というと?」


「ここの村人たちには、というより獣人たちの集落にはとても高額な税がかけられているのです」


「それこそ、村の働き手全員が必死に働いてようやくどうにかなるってくらい厳しい額の税金がかけられているってわけだ」


 二人の説明に、俺は思わず眉をひそめる。


「つまり、村に備蓄を用意する余裕はほとんどないと?」


「ええ。人間界において獣人は差別の対象。

 彼らから搾取することに対して、普通は誰も頓着しないのです」


 フィナリアの説明に、俺はますます眉を潜ませる。


「カーナイルとかいう領主もこの村に重税をかけていると?」


「……はい」


 とんだ領主がいたものだ。

 領民たちを家族のように思っていると言いながらその家族たちに重税をかけるなど良識ある領主のすることではないだろう。


「クウヤ。勘違いするなよ」


 頭の中でまだ見ぬ領主のディスリ方を考える俺に、ヌーアがそんなことを言ってきた。


「カーナイル様は十分に俺たちの事情を考慮してくれている。

 他の領地の獣人たちは俺たちと違って毎日のようにのたれ死ぬ奴らが多い。

 なにしろ領主が重税をかけておきながら、俺たちに一切の支援を行わないんだからな」


「……は?」


 ヌーアの説明に、俺は目を点にした。


「言ったろ。この辺りはまだましだって。

 カーナイル様は俺たちがどうにか生活できるだけの税しか請求しないし、こうして盗賊討伐のために部隊を動かしてもくれる。

 他にもいろいろ俺たちのために動いてくれる領主様なんだよ」


「でも、だったらその重税は何に使われているんです?」


 その質問に、ヌーアは頭をボリボリかき回し、フィナリアは俯いた。

 ……どうやら、あまり聞いてはいけない類の話題だったらしい。


 だが、そんな失礼な質問にヌーアは答えてくれた。


「人間界の中心にあるトルデリシア帝国が各地に高い税金をかけているんだよ。

 そのせいで領主様がどれだけ人格者でも俺たちに高い税をかけざるを得なくなってんだ」


 ヌーアの説明に、俺は再度絶句した。

 つまりピラミッドの天辺が金を巻き上げているから領主も高い税金を設定しなければならないということか。

 おまけに普通の領主は重税を課すだけで支援の類は一切行わないから獣人たちは次々のたれ死ぬしかないと。


「……酷い話だな」


「ええ。本当に、私達はあなたたちにどう詫びればいいのかわかりません」


 俺の呟きにフィナリアが目を伏せる。


「助けてくれただろ。

 領主様や白銀の騎士様が悪いわけじゃないのはよく分かってる」


「しかし、私達が盗賊の討伐が遅れたせいで村の方々は……」


「あんたらが何の事情もなく山賊どもを放置するわけじゃないってことも分かってる。

 村の誰も、あんたを責めたりしないさ」


 ヌーアとフィナリアのやり取りを、俺はただ聞くことしかできなかった。

 この村や領地の抱えている事情。それを俺はあまりにも知らない。

 

 ただ、この土地の領主が悪党だったら、こんなふうに慕われることなどないだろうということだけは理解できた。


『この世界は滅びに瀕している』


 ふと、レンシアから聞いたそんな言葉が思い浮かぶ。

 二人の話を聞き、俺はこの世界の闇の一端に触れたような感覚を抱いた。


 カーナイルとか言う領主に会えれば、その闇はおそらくもう少しはっきりとした輪郭を持つようになるかもしれない。

 

 そう思った俺は、カーナイルという領主に会ってみようと決めた。









「では、お世話になりました」


 翌朝。そんなことを言って、俺は村人たちに頭を下げる。


「お礼なんてとんでもない!

 またいつでもお越しください。

 村人一同、心よりお待ち申し上げております」


 そう言って村長は俺に幾度も頭を下げる。

 村人たちもそれぞれが思い思いに見送ってくれる。

 そんな光景を背に、俺はフィナリア達と一緒にカーナイル領主の元へと向かうこととなった。


 昨日、俺はケモミミパラダイソを堪能するつもり満々だったのだが、どういうわけか俺の酌をフィナリアが行ってくれた。

 獣人美少女のケモミミパラダイソを堪能したかったのも本音なのだが、フィナリアの美貌はそんなのも無視できるほどに飛びぬけていたため、俺はそっちを満喫してしまった。


 ……って、そんなことはどうでもいいか。

 またいつでも来て下さいということは、パラダイソが俺を待っているということなのだから。 


 というわけで、俺はフィナリア率いる兵士たちと共にカーナイルとかいう領主の元へと向かうこととなった。

 そして獣人たちとの別れを済ませた俺は、ファーレンベルクにまたがった。


「……あ」


 が、そこである問題に気が付いた。


 フィナリアは山賊討伐のために部隊を率いて村へとやってきていた。

 そのためその部隊は盗賊たちの護送も兼ねており、どう考えても行軍速度が出ないのだ。

 

 ファーレンベルクで飛ぶのが早いし快適なのはまちがいないのだが、俺はその領主様がどこにいるか分からない。

 である以上、単独行動もとれないというわけである。


「そうですね。確かに山賊を連れて行軍するより、クウヤ様を先にお連れした方がいいでしょうし……」


 歩きながら形のいい顎に手を当てるフィナリアは、直後一人の兵士を呼んだ。

 何やらフィナリアが指示をしており、その兵士はしきりにうなずいている。


「クウヤ様」


 話がひと段落ついたらしく、フィナリアが俺に声をかけてくる。


「はい、なんでしょう?」

 

「そちらの使い魔には、私も乗ることができますか?」


「ん?」


 言われて俺はファーレンベルクを見やる。

 使い魔というのは間違いなくファーレンベルクの事だ。


 ブラックバイソン二匹を楽々持ち上げられるこいつなら俺とフィナリアが乗っても何の問題もないだろう。


「大丈夫だと思いますよ」


「クルルゥ」


 余裕だと言わんばかりにファーレンベルクも頷く。


「では、私とクウヤ様の二人で先に領地へ向かいませんか?」


「え、部隊の方はいいんですか?」


「先ほど話をつけました。私がいなくても問題はありません」


 そうなのか?

 部隊の指揮について俺は完全に門外漢だが、専門のフィナリアがそういうなら問題ないのだろうか?


「そうなると、俺とフィナリアさんがファーレンベルクで領主の元へ向かうということですか?」


「はい。何か拙いことでもありますか?」


 まずいっていうか、あなたと二人っきりでなんて緊張しないわけがないんだけど……。まあいいか。

 ファーレンベルクもなんか早く乗れって感じの姿勢を取ってるし。


「じゃあ、行きますか」


「はい」


 そういって俺とフィナリアはファーレンベルクにまたがる。


「クルルル」


 そんな鳴き声と共にファーレンベルクは羽ばたき飛び上がる。


「…絶景ですね」


 俺の後ろでフィナリアが長い髪を抑えながら感嘆の声をあげる。

 気持ちはよく分かる。俺も初めてこの世界に来たときはものすごく感動したものだ。


「で、領地はどっちですか?」


「あちらの方角です」


「だとさ、ファーレンベルク」


「ピュイ!」


 返事ひとつしたと思うと、ファーレンベルクはそのままフィナリアが指差した方に飛んだ。


「す、すごいスピードですね」


 ファーレンベルクのスピードにフィナリアが再び驚愕の声をあげる。

 普通上空をこんなスピードで飛んでいれば会話などできなそうなものだが、なぜか追い風もそんなに強くない。

 

 たぶんファーレンベルクがバリアかなんか張ってくれているのだろう。

 そういうことにしておこう。うん。


「これだとどのくらいで着きますか?」


「おそらく一時間位ではないかと」


 ふむ。そんなものか。


「クウヤ様」


 適当に大地を眺めていた俺にフィナリアが声をかけてきた。


「なんですか?」


 呼ばれて後ろを振り向く。

 フィナリアは風になびく髪を抑えていた。


「村を救ってくださってありがとうございました」


「もう何度も聞きましたよ」


 この世界に来てから、俺はもう俺の一生分くらいお礼を言われたんじゃないかと思うくらい人から感謝されている。

 実際に何かしたのはファーレンベルクなのだが、この勢いだと英雄にでも祭り上げられかねない……ってそれはそれで目的通りなのか?


「……少し話を聞いてもらってもいいですか?」


 脱線しまくる俺の思考をフィナリアの一言が止めた。


「ええ。どうぞ」


 俺がそう促すと、フィナリアは頷き話し始めた。


「本来クウヤ様が助けたあの村の人たちは、カーナイル様への納税を収めたうえで村に必要な備蓄を蓄えることができるくらいの能力があったんです」

 

「……まあ、確かに」


 盗賊どもを蹴散らしたり、あっという間に魔物たちを狩ってきたりとあの村の連中の身体能力には舌を巻いた。

 全員が健啖だったことを差し引いてもそうそう食うに困るようには思えない。


「実際に私たちが盗賊を抑え込んでいた時期、彼らは十分に納期を守っていました。

 ですが、ある出来事があって私たちは盗賊への警戒を緩めざるを得なかったのです」


「ある出来事?」


「それはまた後程お話しします」


 俺の疑問にフィナリアはそう返答した。

 今、彼女が話したい本題はそこではないのだろう。


「私たちの警戒が弱まったことを良いことに、盗賊たちは好き勝手に暴れ回り始めました。

 あの村以外にも、被害に遭った集落は多くありました。

 そのため、村の戦える人たちは村の防衛に当たらなければならなかったんです」


 悔やむように告げるフィナリアの言葉を聞いて、俺はようやく得心が言った。

 本来ヌーアたちの村は食っていくには十分すぎるだけの稼ぎがあったのだ。

 しかしフィナリア達に何か事情があり盗賊団に対応しきれなくなってしまい、結果として盗賊たちが幅を利かせてしまい、村は防衛のために働き手を駆り出さなければならなくなった。


 その結果どうなるかと言えば重税と山賊団の対応に追われた村はどんどん困窮していくということになる。


「盗賊たちの横行が広がっていったため、私たちはその一件を切り上げ、盗賊団に強襲をかけることにしました。

 ですが、あの盗賊団は規模が大きい上に天然の要害に陣取っていて私達でも容易には攻め込めなかったのです」


「あれ? となると盗賊団はあれで全部ではないと?」


 俺の質問に、フィナリアは首を横に振った。


「私がお礼を言いたいのはそこです。

 私たちの警戒が緩んだ盗賊団は、同時に普段の慎重さも欠いていたのか、拠点の防衛をおろそかにするようになったのです。

 そして偶然にも私たちが襲撃をかけようとしていた昨日、盗賊たちの過半数が出撃したのです」


「昨日? なんでまた?」


「捕虜から得た情報によれば、この使い魔を打ち取れば一攫千金になるのではないかと考えたのだと思います。

 ここしばらく、私たちの妨害がなかったからか、彼らの警戒心も大きく下がっていたのでしょう」


 あーそういえばそんなこと言ってたな。

 珍しい魔物だから売ればもうかるとか。


「いくつかの偶然が重なったとはいえ、クウヤ様とこちらの使い魔がいなければ盗賊たち全員を捕縛するころには多大な犠牲が出ていたのは間違いありません。

 ですから、お礼を言いたかったんです」


「ん? 全員?」


 先ほど、フィナリアは過半数と言っていなかっただろうか?

 となると、残りはその拠点を守っているはず。


 そんな疑問を抱いていた俺に対し、フィナリアは。


「昨晩遅くに、別働隊が山賊の拠点を制圧したとの報告がありました。

 私達が頭領を捕縛したため、容易に成功したそうです」


「………へぇ、そうだったんですか」


 手際良いなオイ。


「というか、あんたらならあの盗賊団くらい拠点ごと制圧できなかったんですか?」


 感心しながらそういう俺に対し。


「……可否でいえば可能だと思われましたが、その場合はこちらもかなりの犠牲を覚悟しなければならなかったでしょうね」


 フィナリアはそんな返答を返した。


 フィナリアは魔法みたいなの使ってたし、俺の目から見れば楽勝そうに思えるが、防衛拠点を攻めるとなると話が違ってくるということなんだろうか?


「いずれにせよ、昨日は本当に助かりました。

 ありがとうございます」


 ってそうだそうだ。そんな終わった事よりも。


「フィナリアさん」


「なんでしょう?」


「こいつのことを使い魔って呼ぶのはやめてもらえませんか?

 こいつはファーレンベルク。おれの大事な相棒です」


 勢いに任せて相棒とか言ってしまったが、まあ別にいいだろう。

 ファーレンベルクも使い魔って呼ばれるよりはその方がいいだろうからな。


 ……だよな?


「分かりました。

 では、私もそう呼ばせていただいても?」


「ええ。良いだろ? ファーレンベルク」


「クルルゥ♪」


 そんな俺の問いに、ファーレンベルクは嬉しそうに頷いた。

 言葉が分かるだけじゃなくて人懐っこいのな。こいつ。


 さて、呼び名の問題が解決したところで。


「フィナリアさん、質問良いですか?」


「はい。なんでしょう?」


 返事を確認し、俺はフィナリアに昨日からずっと気になっていたことを質問した。


「山賊から人質を解放したときに使っていたあれは魔法ですか?」


 あの時盗賊たちを何かが打ち抜いたように見えたが、矢でもなければ礫でもなかった。


「ええ。あれは風魔法の風弾です。

 目視が困難なので奇襲に用いりやすいのです」


 なるほど。確かに奇襲にはおあつらえ向きだろう。

 ついでに言うと、フィナリアのリアクションからして魔法を見たことがないのは常識外れというわけではなさそうだ。

 

 となれば俺の次の質問は決まっている。


「それって俺にも使えますか?」


 そう!

 男子に生まれた以上誰もが必ず持つ願望!

 オレツエエエエが実現する可能性が目の前にあるのだ!

 それを問いたださずにいられるだろうか!?

 否、いられるはずがない!


「……どうでしょう? 魔法は感覚を理解してしまえば早いのですが、それを理解するまでに長い訓練が必要になるので」


「あ、はい、ですよね~」


 内心でハイテンションになっていた俺は、フィナリアの一言で少しだけ肩を落とした。


 たぶん俺の髪型がリーゼントだったら萎れていたと思う。

 気分転換に別の質問をすることにしよう。 


「捕まえた盗賊たちはどうなるんです?」


「おそらく、隷属魔法をかけられたうえで奴隷身分になると思われます」


「隷属魔法?」


 聞きなれない魔法に思わず言葉を返す。


「隷属魔法というのは、奴隷に刻まれる魔法のことを指しています。

 この魔法を刻まれた場合、契約した主人に逆らえなくなるんです」


「無理やり逆らうと?」


「最悪の場合だと死に至ります」


 あっけらかんととんでもないことを言ってのけるフィナリア。

 平和なに世界に生まれ育った俺とはいろいろと価値観が違うということを再認識させられた。


「それにしても、隷属魔法もご存じないとは。

 クウヤ様は一体どこで生まれ育たれたのですか?」


「え? いや、その」


 日本です。

 思わずそう答えようとしたが、その答えを俺はゴクリと飲み込んだ。


「失礼しました。

 お聞きしない方がよろしいことのようですね」


「あー、いや、はい」


 言葉を濁す俺に対し、フィナリアはそんなふうに先回りしてくれた。

 というか、こんな身元不審者を良く信用出来るなと思う。 


「あ、クウヤ様。領地が見えました」


 そんなことを考える俺を余所に、フィナリアがそんなことを言って指をさした。

 その方向に、うっすらとだが街並みが見えてきた。


「このまま突っ込んだら……まずいですよね」


「少し混乱が起こるかもしれませんが、問題ないでしょう」


 本当に?

 疑問符が浮かぶが、水先案内人の指示には従うべきだろうと考え、俺はファーレンベルクに街中に降りるように指示を下す。

 

「あそこの広場に降りてもらえますか?」


「出来るか? ファーレンベルク」


 フィナリアの意図を正確に把握したファーレンベルクが体を起こして制動し、翼をはばたかせながら広場に舞い降りる。

 案の定、人や兵士がワラワラ集まってきた。

 物珍しそうに眺めている呑気な人もいるが、ほとんどの人が警戒心や敵意をむき出しにしている。


 大丈夫かよと俺が思った直後、フィナリアがファーレンベルクの背から飛び降りた。


「皆さん警戒しなくて大丈夫です」


 凛とした声が広場に響くと、広場のざわめきが静まってきた。

 現状だと敵意が減って警戒心も少しばかり薄れたという感じだろうか?


「フィナリア様。お戻りになったのですか?」


 兵士の一人がフィナリアにそんな質問をした。


「ええ。こちらの炎鳥は敵ではありません。武器を引いてください」


「分かりました」


 フィナリアの指示を受けた兵士は敬礼を返して部下たちに指示を下していく。

 俺もファーレンベルクの背から広場に降りる。


「かなり混乱を引き起こしたみたいですが?」

 

「ファーレンベルクを町の外に置いておくわけにはいきませんし、そのうち周知させる必要があることです。

 多少強引でしたが、このやり方が一番早いので」


 俺の疑問にスッパリとそんな切り返しをするフィナリア。

 もう少し穏便に済ませてほしかったが、見事に騒ぎを収めているので文句も言いにくい。


 しかしもう少しやり方という物があると思うのだが……。


「フィナリアさん」


 俺がそんなことを考えていると、初老の男がフィナリアに声をかけてきた。


「カーナイル様。やっぱり出歩いていらしたんですね」


「え? カーナイル様って、こちらが?」


 カーナイルと言えば、フィナリアが案内するといっていた領主の名前のはずだ。

 つまりこの初老のオッサ……オジサマがこの土地の領主様らしい。


 俺の様子に、カーナイルと呼ばれた領主様もフィナリアの方を向いた。


「フィナリアさん。こちらの方は?」


 その質問に、フィナリアは。


「こちらはクウヤ様。今回の盗賊討伐に協力してくださった功労者です」


 と答えた。

フィナリアの表現方法を北欧美人にしようか秋田美人にしようか迷いました……が、異世界もので秋田美人はないなと思って北欧にしました!


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