魔王の力
「吸血皇王が死んだと? 比喩や抽象ではなく?」
配下のアブニールから念話を受けたテオローグは、その報告に困惑した。
強敵であるロウセイとの戦いの最中であるということさえ忘れてしまうほどに、その報告は信じられないものだった。
『嘘ではございません!
我々の目の前でヴィラルド卿が塵となって消え去ったのです!
それまでは瘴気を残して復活していたというのにもかかわらず!』
アブニールの報告にテオローグは眉をひそめた。
「では、ヴィラルド卿が死んだというのは間違いないのですね?」
『……このような事態は想像だにしておりませんでした。
テオローグ様、いかがいたしましょう?』
その質問に、テオローグは即座に決断を下した。
「撤退します。あなたたちもすぐに魔界に戻りなさい」
『わ、わかりました!』
空を飛びながら念話を終えたテオローグは、その翼を羽ばたかせながら宮殿を見下ろした。
そこには律儀にも念話が終わるのを待っていたロウセイがいた。
「話は終わったのか?」
「ええ。誠勝手で申し訳ありませんが、こちらは魔界へと撤退させていただきます」
「ほう? それをわしに信じろと?
そう言って逃げ出したお前が、他の人々を襲うかもしれないのに逃がすはずもなかろう」
ロウセイの言葉に、テオローグはかぶりを振った。
「移動は空間転移にて行わせていただきます。
あなたほどの魔導師であればご存じでしょうが、この魔法は転移元を選びませんが、転移先に複雑怪奇な魔法陣を敷く必要があります」
「ふむ」
言われてロウセイは考え込む。
空間転移の魔法は超がつく高等魔法。
かつて帝国筆頭魔導師であったロウセイでさえも扱うことのできない代物だ。
とはいえそれはロウセイが魔法を戦闘目的で身に付けていたため専門が違うという意味であり、ロウセイ自身も基礎理論だけなら理解している。
テオローグの言うとおり、転移を行う場合には最低でも二つの条件をそろえなければならない。
すなわち転移先に魔法陣を刻むことと、転移先の魔法陣に転移者の魔力を適応させることだ。
言い換えれば魔法陣を刻まれたところに飛ぶことしかできない上、魔法陣を利用できるのは練達の魔導師のみということだ。
空間転移は魔法陣によって個人を固定座標へと転移させるという特性上、帰還のために用いられる片道切符だ。
その用途は撤退以外に用いられることは無い。
目の前の魔族が空間転移をして裏をかく可能性もなくはないが、転移魔法の特性上それを行うためには、人間界に極めて複雑怪奇な転移魔法陣を作らなければならない。
魔族が人間界に侵攻してきたのが大陸史初めての事なのでそれはありえない。
さらに、空間転移魔法にはさらに致命的な欠点が存在する。
「あなたほどの実力者であれば空間転移を行ったかも、正しく魔界へ転移したかも理解できるでしょう。
それでも何か問題がございますか?」
そう。転移魔法はその転移先が特定できるという致命的な欠点が存在するのだ。
もっともそれには超人的に鋭敏な魔力感性が必要になるが、ロウセイはその条件をクリアしている。
テオローグの言うとおり、転移すれば魔界にある悪魔族の本拠地さえ割り出すことが可能なのだ。
得られる効果に対して難易度が高く、デメリットも多いため決して使い勝手のいい魔法ではないが、緊急時の離脱方法としては優秀な魔法ではある。
そんなものを用意しているのだからこの悪魔王は本当に用心深い悪魔と言えるだろう。
「どうやらよほど先ほどの報告で旗色が悪くなったようだな」
「ご想像にお任せします。では、ごきげんよう」
そう言ってロウセイの目の前でテオローグは空間転移魔法を発動させる。
妨害してもよかったのだが、悪魔族の本拠地を特定できる好機でもあるのでロウセイは見逃すことにした。
テオローグもそれを承知で自分に空間転移魔法を使うと宣言したのだろうとロウセイは当たりをつけた。
しばしの魔力運用の後、テオローグは煙のようにその場から消え去った。
「フム。キチンと魔界内部に転移したようだな」
発動された魔法、魔力の残滓、その他様々な要素を考慮し、ロウセイはテオローグの転移した距離と方角から、転移先を逆算した。
「悪魔族の本拠地は、魔界の北部か」
それによってテオローグの住処も特定してのけたロウセイだったが、その情報が役に立つことが無いということを、彼は知る術もなかった。
空間魔法により転移し、テオローグは人間界から魔界の領地へと帰還した。
悪魔族は魔界の北部を牛耳っており、テオローグはその土地の洞窟内部に転移魔法陣を書き記していた。
「…まさか空間転移を使うことになるとは」
テオローグにとってもそれは誤算でしかなかった。
そもそも今回の人間界侵攻の目的は人族の魔力と魂をかき集めてパワーアップすることを目的としていた。
道中で2万人ほどの人族の魂を吸収できたため、魔界にいた時よりもはるかに強くなった自覚があるが、そんな自分でさえも苦戦するような猛者が人間界にいたことに対してテオローグは深く驚愕していた。
「おまけにヴィラルド卿を消滅させるほど強者が加勢に来るかもしれないとなれば選択の余地がなかったのも事実ではありますがね」
不死身の魔王と呼ばれた吸血皇王を滅ぼせるような何者かがロウセイと共に自分と敵対したとすれば、それはあまりにも危険すぎる。
そう結論付け、テオローグは撤退を選択した。
ロウセイに見逃してもらうための材料として、悪魔族の生息区域と自分の住処がどこにあるのかという情報をひけらかしてしまったが。
「ですが、人間界に戦力があるというなら、それを想定して策を練り直すのみですね」
想定外の怪物が混じってはいたが、人族それそのものは強大な種族というわけではない。
ロウセイについても、魔力を拳に圧縮してのけたり、それを身にまとったり、あるいはテオローグが戦いにくい宮殿内部に追い込んだりと、見事としか言えないような戦い方を披露してくれはしたが、その身体能力は魔族の頂点の一角である自分には及んでいなかった。
というより、それが及んでいたら自分は生きて帰れなかったとテオローグは結論付ける。
「まあ、私は悪魔。吸魂によってどこまでも強くなる存在」
である以上、無理に強敵を滅ぼす必要はない。
今度は人間界に忍び込み、町や村と呼ばれていた人族の集落を一つずつ滅ぼしながら力を蓄えればいい。
「そうと決まれば、早速準備に取り掛からねば」
そうつぶやき、魔法陣の刻まれた洞窟から出たテオローグを悪魔たちが出迎えた。
「テオローグ様。ご無事でしたか」
「うむ。想定外の強敵と遭遇し、転移魔法を使わせてもらった」
洞窟から出てきた自分に対して傅く悪魔たちを睥睨し、テオローグはほくそ笑む。
肥沃な土地に住む脆弱種族である人族など、その気になれば自分一人でも余裕だろうと考えていたため、人族の魔力を独占するために今回の侵略の際には上級の悪魔を魔界へ残し、大して役に立たない下級の悪魔たちを連れて行った。
その結果無残にも撤退することになったのだが、今この場にはアブニールをも上回る悪魔たちが揃っている。
この者たちを連れて行けば、人間界を滅ぼすのはたやすいだろう。
「しばし時を置き、再び人間界へと攻め込みます。準備をしてください」
「ということは、我々も連れて行っていただけるのですね?」
配下の一人がそう尋ねたのに対し、ヴィラルドは首を縦に振る。
すると配下の上級悪魔たちの中から歓声が上がった。
この者たちを連れて行けば自分の取分が減ってしまうが、いざ行ってみた人間界は想像以上に肥沃で、人族もまた想像以上に多数生息していた。
配下に分けてもおつりがくるほどに餌があるのなら山分けしてしまえばいい。
そう結論付け、テオローグは大きく両手を広げて宣言する。
「かりそめの平穏を享受する愚かな人族共に、我々魔族の苦しみを思い知らせてやりましょう!
我々魔族を虐げた人族を滅ぼし、その魂を対価として奪いつくして差し上げましょう!」
テオローグの宣言に悪魔たちが騒ぎ立てたその時。
「それがお前の目的か?」
という声が響いた。
その声の主に、テオローグは一瞬うろたえる。
目の前に突如現れた人物は、自分と同じく魔界を統治する魔王の一角。
最強の竜王を倒し、魔王を襲名した男、イファールその人だったからだ。
「これはイファール卿。このような場所にいったい何の御用ですかな?」
恭しくそう告げるテオローグに、しかしイファールはその威圧感を一切抑えずに口を開いた。
「なぜ人間界へと攻め込んだ?」
「はて、おっしゃっている意味が分かりませんが?」
「とぼけるな」
イファールの威圧感が殺気へと変貌する。
その敵意を前に、テオローグ配下の悪魔たちが臨戦態勢を取った。
「お前が吸血皇王をそそのかして人間界へと攻め込んだことは知っている。私の配下、烈将セネルを侮るな」
その指摘にテオローグは表情を切り変える。
「なるほど。こちらの言い分は通りそうにありませんね」
「……質問に答えろ。なぜ同盟を破棄し、人間界へと勝手に攻め込んだ」
変わらず濃密な殺気を放つイファールに対し、テオローグは肩を竦めた。
「逆にこちらが聞きたいですね。
なぜ人間界への侵略を遅らせるのかを。私には到底理解できませんよ」
「人間界を侮るな」
敵意をそのままにイファールは短く悪魔王にそう告げた。
「肥沃な大地で育った人族は、焦土の広がる魔界に住む我々とは異なる練磨を行っている。
侮ればお前とてただではすまん。
転移魔法を使ったのは、そのいい例ではないのか?」
「私は悪魔族。吸魂種である我々が目の前の獲物を無視する理由などありますまい」
テオローグの言葉に、イファールは目を細めた。
「お前は人族を滅ぼすつもりなのか?
人間界に精通している奴らは、生かしてわれらに隷属させれば十分な労働力となる。
そうすることで我々魔族はようやく奪い合う今から解き放たれ、この地に繁栄することができるというのにか?」
「生ぬるいですね。
5000年前、人族は皆殺しにされてしかるべきことをした。
我々が人族を滅ぼすことに、いったい何の不利益がありますか?」
「…お前の目的は人族の魂か?」
イファールの質問に、テオローグは再び苦笑する。
「だとしたら、どうだというのです?」
直後、イファールからこれまで以上に濃密な殺意が放たれた。
その殺意に、テオローグの周りにいた悪魔たちも同様に殺気立つ。
「お前は魔族の繁栄のためではなく自らの欲望のために動いた。
そんな貴様に、魔界の王を名乗る資格はない」
そう告げ、魔王イファールはテオローグに向けて歩みだした。
その目に浮かぶ明確な闘志に対し、テオローグは口を開いた。
「あなたたち、下がっていなさい」
「は!」
テオローグの指示に悪魔たちは自らの主から距離を取る。
彼の王が全力で戦う場合、自分たちの出る幕はないからである。
『生命剥奪!』
魔力を滾らせ、テオローグは魔法を発動させる。
空間魔法を扱えることからわかるように彼の魔王は吸魂魔法以外も一通り精通している。
しかし悪魔族であるテオローグにとって生命剥奪は敵の魔力を削り取り、自らを強化するという一石二鳥の魔法。
ゆえにこの魔法以外の魔法を用いる理由がほとんどないのだ。
「では、参りますぞ!」
そう宣言し、テオローグはイファールへと肉薄する。
それに対し、イファールは一言つぶやいた。
『大地の怒り』
イファールがそう宣言した直後、テオローグの足元が爆発した。
「な!」
驚愕と共に、テオローグは大きく後退する。
その爆発した地点を見やって、テオローグは絶句した。
爆発した地面から溶岩がわき出ていたからである。
「…それが、竜人王を倒したあなたの力ですか?」
「だったらどうした?」
何の気負いも見せないイファールの返答に、テオローグは内心驚きを覚える。
魔法を一通り会得し、空間転移を用いることのできる自分をもってしても、目の前でイファールが使ってのけた魔法は再現できない代物だったからだ。
魔法を扱おうとする場合、引き起こす現象に対してそれ相応の理解が必要となる。
風魔法を使いたければ風の、火魔法を使いたければ火の、水魔法が使いたければ水に対する深い理解が必要になのが魔法という代物だ。
ゆえに、理論上は溶岩がどういうものなのかを観察し理解すればそれを魔法として扱うことは不可能ではない。
しかしそれはあくまで理論上の話。
溶岩という代物は災害に該当する自然現象であり、魔族であっても容易に近づくことなどできる代物ではない。
「いえ、その魔法を身に付けるまでに、あなたがどれほどの危険に身をさらしたのかと興味がわいただけですよ」
そう告げた後、テオローグはその身に魔力を滾らせる。
直後、テオローグの右腕に炎が生み出され、その炎が形を変えていった。
『炎龍弾!』
テオローグがそう唱えると、その炎が龍の姿となりイファールめがけて飛翔する。
属性魔法の一つの到達点とロウセイが評したその魔法の威力は、まともに受けて無事ですむのは不死身の魔王ヴィラルドや、馬鹿げた耐久力を持つ竜人王ガンドラ位のものだろう。
「なるほど。さすがは悪魔王テオローグ。見事な魔法だが」
イファールがそう告げた直後、再び大地が爆発する。
ただし今度はイファールの周囲全域にて。
あっという間に自身の周囲一帯を溶岩地帯にした直後、その溶岩がテオローグの炎龍と同様に竜の形を成し、龍炎弾を飲み込み、テオローグへと向かっていった。
「なんと!?」
驚愕にその表情をゆがませたテオローグは、自らに迫りくる溶岩龍を回避する。
テオローグの背後にいた悪魔たちが溶岩龍を回避しきれず、塵も残さずにその身を消滅させた。
「…私の魔法をこうもあっさりと飲み込むとは、さすがに竜人王を下しただけのことはありますね」
「そしてお前も今日で終わることになる」
テオローグの賞賛を、イファールは興味ないとばかりに一蹴する。
しかしそんなイファールの様子にテオローグは失笑する。
「何が可笑しい?」
「いえいえ。そう簡単に行くとは思われないほうがよろしいと思いますよ? 時がたてばたつほどあなたは不利になってゆく。
ましてそれほどの魔法を用いながらでは、いつまでも戦えるというものではないでしょう?」
強力な魔法であればあるほど魔力の消耗は激しくなる。
それは絶対的な原則。
ましてイファールは今もなお『生命剥奪』によってその魔力を奪われ続けられ続けているのだ。
テオローグの指摘通り、長時間戦えるというものではない。
人間界にて数万人という単位で魔力をかき集めた悪魔王にはまだまだ余力があったために、テオローグは自らの勝利を疑っていなかった。
「…そうだな。長引けばこちらに勝ち目はあるまい」
イファールもテオローグのその主張を認める。
その様子に、テオローグはにやりと笑おうとした。
「だが、お前を倒すのにさほど時間は必要ない」
しかしイファールがそう宣告した直後に目の前に広がった光景にテオローグは目を疑った。
イファールが再び大地を溶岩に変えて龍を作り出したのだ。
それはいい。それ自体は驚くに値しない。
問題はその数。同時10を超える溶岩龍がその溶岩の中から生み出されたのだ。
「ば、馬鹿な…」
その光景にテオローグは絶句した。
なぜ龍を形成する魔法が一つの到達点とされるのか、それは属性魔法の威力を追求した場合、高い確率でその形に至るからである。
ただしそれには膨大な魔力と、それを十全に掌握するだけの技量が必要となる。
ゆえにテオローグと言えども同時に作り出せるのは出来て数匹と言った具合になる。
それが10以上。それも一つ一つが先ほどの溶岩龍と変わらぬ魔力を持っていた。
「一つだけ教えておく。俺にとって脅威だったのは不死身の魔王ただ一人。
お前を殺す算段はとうの昔についていた」
「で、では、あなたが今動いたのは」
「魔族のために動かず、私利私欲で動こうとする不穏分子を排除するためだ」
静かに、極めて静かにイファールがそう告げると、10を超える溶岩龍たちが一斉にテオローグに向かって襲い掛かった。
「あ、ああああああああああ!!!!!!」
絶叫と共にテオローグはマグマに飲み込まれる。
かくして、悪魔王と呼ばれた魔王の一角は滅び去った。
「て、テオローグ様が!」
「お、おのれ!」
主を討たれた悪魔たちがいきり立つ。
しかし誰もイファールと対峙しようとはしなかった。
自らの主がいともあっさりと討たれたため、自分たちが何をしようとも相手にならないということを正しく認識していたからだ。
そんな魔族たちを一瞥し、イファールは踵を返した。
「終わりましたか?」
そんなイファールの前に炎将シャクトが現れた。
「ああ。悪魔族の残党をかたずけろ」
「よろしいのですか?」
確認を取るシャクトに、イファールは悪魔たちから目線を逸らさずに告げる。
「不死身の魔王と謳われた吸血皇王ヴィラルド卿でさえも滅ぼす。
人間界とはそういう場所だということが今日はっきりした。
我々魔族がいかに強大な力を持とうとも、一丸とならなければ勝ち目はない。
そのためには、足並みを乱そうとする者達を排除しなければならない」
「……了解しました」
シャクトが頷くと、その隣に稲妻が落ち、雷将ライオスが現れる。
「やっと出番だな。上級悪魔どもなら、少しは楽しめるってもんだ」
さらにそのライオスの隣の地面が盛り上がり、地将ゴライアスがその石像のような巨体を現した。
突如現れた三人の魔族に対し、悪魔たちは迎撃態勢を取った。
「お前たちの敵ではないだろうが、くれぐれも油断するなよ」
イファールがそう告げると、突如悪魔の一人が吹き飛ばされた。
悪魔たちは何が起こったのか分からなかったようだが、イファールと三人の配下はそれが裂将セネルの放った風弾であるとあたりをつける。
「さて、暴れさせてもらおうか!」
ライオスがそう叫ぶと、突然地面に雷が走り、悪魔たちの真ん中にライオスが移動した。
その一瞬の出来事に悪魔たちが動転する。
『雷網!』
ライオスが魔法を唱え、その手を地面に当てると、ライオスを中心に雷が広がり悪魔たちが巻き込まれた。
「…どうやら我々の出番はなさそうだなゴライアス」
その光景に、炎将シャクトは隣に立つ岩男に対してそう告げる。
答えは返ってこなかったが、ゴライアスも動くつもりはないようだった。
砦破壊作戦の際に仕事がなかったせいで鬱憤がたまっていたのか、ライオスはその表情を禍福にゆがませながら暴れまわっている。
その光景を目に、炎将シャクトは今後の魔界について考えを巡らせる。
長きにわたり魔界を力で支配してきた三人の魔王は滅び去った。
その三柱のうち二柱をその手にかけた新たな魔王であるイファールは、魔界を支配するのではなく治めようとしている。
「…今後はどうするおつもりで?」
ライオスの戦いを眺めながら、シャクトはイファールにそう質問した。
「人間界へ侵攻する前に、私利私欲で動こうとする不穏分子を始末し、魔界を統一する」
「人族の連中が攻め込んできた場合はどうされます?」
「その場合は不穏分子をぶつければいい。イルアムが人間界にいる以上、人族の動きはある程度掴むことができるだろうからな」
主である魔王の返答に、シャクトは魔族が5000年間の血で血を洗う魔界の歴史に終止符が打たれると予感した。
これまでどの魔族も行おうとしなかったことを行おうとする魔王が現れたことに、シャクトはその心の中で深く深く傅いた。
こうして、災害戦争から5000年が経過した現在、古き世代の魔王たちが滅び去り、新たな魔王の戦いが始り、魔界と魔族は生まれ変わろうとしていた。
ゼエ、ハア。
まさかこんなに長い序章になるとは。
ばてない程度に更新を頑張ります。
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