シェルビエント攻防戦7 魔王の猛威
歩み寄る一人の男は、決して巨漢と言うわけでもなければ、万の軍を引き連れているわけでもない。
だというのに、その男が向かってくるだけでジェクト、シルディエ、バストラングの三人は悪寒が止まらなかった。
先ほどまでこのシェルビエントでの戦場を眺めていただけの人物が、今は途方もないほど濃密な殺気を放っているからである。
「あれが…」
「そう。我々の王。イファール様だ」
ジェクトの呟きに応じるように、シャクトがそう言った。
そして、濃密な殺気を放つ魔王イファールがシャクトの隣に並び、ゆっくりと追い抜いた。
「旦那。俺たちの出番は……終わりですわな」
自分たちを歩み超えるイファールを前に、隣でライオスが肩を落としていたが、ジェクト達にそれを気にする余裕はない。
まるで心臓を握られているかのようなプレッシャーを放つイファールは、歩みを止めて口を開いた。
「人族の戦士よ。この者達と互角に渡り合うその腕は見事だ。だが、ここまでだ」
「……」
恐ろしいまでの殺気を放つイファールがそう言った時、ジェクトは一歩前に出た。
「ジェクト将軍?」
「二人とも、しばらくそのままで」
そう言って、ジェクトはイファールへと歩み寄った。
「魔界の王、イファール様とは、あなたの事でよろしいでしょうか?」
「……」
鋭い目つきから、圧倒的な威圧感を放ったまま、イファールはジェクトを睨みつけた。
しかし、ジェクトはそれを受け流しながら話を進めた。
「私はジェクト。人間界の連合軍の総司令官を務めております。お会いできて光栄です。魔界を束ねる偉大なる王よ」
「……なぜ、私が魔界を束ねていると分かる?」
ジェクトの名乗りに、イファールは殺意をそのままに問いを返す。
それに対し、ジェクトは答えた。
「先日、魔界よりこの地を襲撃した魔族より、魔界の話を聞きました。人間界に攻め込むために、魔界を統一しようとしている魔王がいると。今日かつてない戦力をそろえてこの地を滅ぼそうとしているあなた方がそうだということはすぐにわかりました」
「……それで、会いたかったというのはどういうことだ?」
僅かばかりとはいえ、魔王がこちらに興味を持ったということに安堵しながらジェクトは跪いた。
「……なんの真似だ。人族」
「あなたは魔界という国を代表する国王です。そしてわたしは、人間界の西端にあるノーストン王国の使者。使者が一国の王の前に跪くのは、人間界での儀礼です」
「……」
なおも濃密な殺意を宿しながら、イファールはジェクトを睨みつけている。
しかし、問答無用と言うわけではなく、こちらの話に耳を傾けようとする手合いであることを理解したジェクトは、立ち上がって話を続けた。
「魔王様。私達は決して魔族との戦いを望んでおりません」
「だが、お前たちにとって我々は侵略者だ」
「確かにその通りです。ですが、我々は戦いを避けなければなりません」
「……どういうことだ?」
「……現在、人間界の中には、あなた方魔族との共存を望まれる方々がいらっしゃいます」
ジェクトの一言に、魔王と魔将たちが僅かばかりに瞠目する。
「かつて、5000年前に起きた災害戦争の際、私達の祖先があなた方の祖先を魔界に追いやってしまったことに対し忸怩たる思いを抱き、その償いをしたいと願う方々が人間界に存在しています。そして、今その方々が、あなたたちと対話し、共存することを望んでいます。まずは、そのことをご理解ください」
一息にそう言い切ったジェクトの前で、魔王イファールは相も変わらず殺意に満ちたまなざしを光らせたままその口を開いた。
「人族よ。お前たちの世界で起きた動乱の話は知っている。お前たちが主と仰ぐ者が、これまでのような屑どもとは違うということも理解しているつもりだ」
「!?」
突如、そんなことを口にするイファールに対し、今度はジェクトが瞠目する。
「なぜ、あなた方が人間界のことを」
「戦う敵のことを知るのは当然のことだ。そんなことは、お前たちの方が理解していると思うが?」
イファールの物言いに、ジェクトは人間界に魔界の間者が潜り込んでいたことに気が付いた。
それ自体は驚くべきことだが、逆を言えばそのことを知っているのであれば進められる話もあると納得し、再度口を開いた。
「であれば、今が人間界の変革の過渡期であるということも理解できるかと思われますが?」
「……確かに、その通りだろう」
ジェクトの言葉に対し、イファールは頷いた。
ただし、その圧倒的な殺意をそのままに、だが。
「だがな人族よ。お前たちは魔界の何を知っている?」
「!?」
その返答に、ジェクト将軍は言葉を失った。
魔王イファールは何かしらの方法を以て人間界を調べていたようだが、自分たちはそのようなことを一切行っていなかったからである。
閉口するジェクトをみて、イファールはかぶりを振った。
「貴様らは知らない。草木の一つも生えぬ魔界は、ただ呼吸をするだけで苦痛を伴う瘴気が漂っている。そんな中で、我らは泥水を啜りながら狂暴な魔物たちを糧とすることを常としている。なぜ、我々がそのような不条理にさらされる中で、お前たちは肥沃な大地にて下らぬ権力などというものの奪い合いをしているのだ?」
イファールの問いに、ジェクトは答えられなかった。
自分たちにとってはトルデリシア帝国の暴政を正すための革命であったのだが、その日その日を生きるために命を削りあっている魔族から見れば文字通りくだらない権力の奪い合いだというのは反論の余地のない事実であったからである。
閉口するジェクトに対し、魔王イファールは殺意に怒気を混ぜて言葉を紡ぎあげた。
「われらの苦しみを知らぬ貴様らの口にする共存は、あまりにも軽すぎる。祖先の負債を返すというのなら、お前たちは我ら魔族に服従し、文字通り泥水を啜って生きろ」
「……できません」
イファールの物言いに、ジェクトは首を横に振った。
人間界は、今ようやく帝国の暴政から脱したばかりなのだ。
もしこの申し出を受け入れれば、魔族との共存のために人々は再び支配される恐怖と苦痛を味わうこととなる。
だからこそ、その申し出だけは受け入れるわけにはいかなかった。
それを理解してか、魔王イファールも殺意と怒気を混じらせた視線を向けたまま口を開く。
「だろうな。ゆえにわれらはお前たちを滅ぼし、力を以て服従させる。魔界にあるたった一つの理である、弱肉強食を人間界の唯一の理として刻み付ける」
「……共栄の道は、無いのですか?」
「少なくとも、我々を魔界に閉じ込め続けたお前たちにそれを提案する資格はない」
イファールがそう告げると、直後、空気が熱くなった。
そして、イファール近くの地面が赤く染まり、溶けだした。
「ジェクト将軍!」
「……」
直後、シルディエとバストラングがジェクトの元へと駆け寄った。
そんな二人に対し、ジェクト将軍は詫びるように口を開く。
「申し訳ありません。交渉は決裂してしまいました」
「仕方がありません。それよりも、今は」
「そうですね。戦いのときです」
そう言って、ジェクトは手にしていた杖を構えた。
その眼前にて、赤く溶けだした地面から、同じく赤く溶けた何かがせり上がり、一匹の竜を形取った。
『熔竜弾』
イファールの命に従い、灼熱を纏った龍がまっすぐにジェクト達に迫りくる。
『氷竜弾!』
それを迎撃するためにジェクトは即座に氷竜を造り上げる。
人間界でも屈指の実力者であるジェクトの紡ぎあげる氷竜弾は、間違いなく最高峰の威力を誇る一撃。
だというのに。
「な!?」
直後、ジェクトは自分の目を疑った。
イファールの放った溶岩龍が、ジェクトの氷竜を飲み込んだのである。
その威力を大きく減衰させながらも、炎以上に赤い龍は真っ直ぐにジェクト達を飲み込まんと迫りくる。
「オオオオオオオオオオオ!!!!!!」
その時、バストラングが裂帛の気合と共に手にした戦斧を黄土色に輝かせながら溶岩龍に向かって振り抜いた。
その一撃に真っ二つに切り裂かれ、溶岩龍は霧散していった。
「……」
そんなバストラングたちに追撃をかけようとしていたイファールは、足元から溶岩の柱を生み出す。
その溶岩の柱は、いつの間にかイファールへと迫っていた雷光を防ぎ、その雷光を飲み込んだ。
「…見切られたようね」
ジェクト将軍とバストラングが溶岩龍を打ち消した瞬間を狙って放たれたシルディエの『雷鳴閃』を、魔王イファールは事も無げに防いでのけたのだ。
「タイミングは完璧でしたが、正直、実力の差というものなのでしょうね」
「ジェクト将軍から見ても、あの魔王は脅威ですか?」
「……正直、あなたの父上よりも脅威ですね」
問いにそう答えるジェクト将軍の隣で、シルディエは内心で舌打ちをしながら槍を構える。
確かに、ドルガー将軍と正面から対峙したとき以上の脅威を目の前の魔王からは感じる。
先ほどジェクト将軍の放った氷竜弾を飲み込んだ魔法といい、つくずく常識を超えている。
だが、そんな想像が甘いということを三人は思い知った。
『大地の怒り』
魔王イファールが静かに告げると、イファールの前面の地面が広範囲にわたって溶岩と化し、その中から3匹の龍が現れた。
「これは、参りましたね」
「……本当に」
ジェクト将軍とシルディエは思わずそんなことを口にした。
龍の一つ一つが明らかに先ほどのそれと同等の魔力を帯びている。
「お二人とも、私の後ろに」
「ジェクト将軍?」
「……」
無言のまま、ジェクト将軍は杖を構えて魔法を紡ぎあげる。
直後、ジェクト将軍の背後に3匹の氷竜が生み出された。
「将軍!?」
1匹作り出せる魔導師が国に1人いるかどうかと言われるような超高等魔法を3つも同時に発動させるジェクト将軍に、シルディエは驚愕と疑問を抱いた。
驚愕はそれほどの魔法を使役できるという将軍の実力に。
疑問は、将軍の氷竜弾では魔王の溶岩龍に飲み込まれてしまうということである。
威力を削られた溶岩龍であればバストラングでも1つくらいなら撃ち落とせるだろうが、さすがに3つ同時は不可能。
だが、そんなシルディエの疑問を前に、二人の魔導師は真正面からそれぞれの龍を真正面からぶつけた。
『熔龍』
『氷龍』
真正面から6匹の龍がぶつかり合う。
そして先ほどと同様に溶岩龍がジェクト将軍の氷龍を飲みこみかけていた。
『解放!』
だが、直後ジェクト将軍の手繰っていた三匹の氷龍が爆ぜた。
爆ぜた氷龍の魔力が周囲に冷気を振りまき、三匹の溶岩龍を氷結させ霧散させた。
「……はぁ」
直後、荒い息を吐いてジェクト将軍が膝をついた。
「………すごい」
その光景に、シルディエは素直にそんな感想を口にした。
通常、魔法というものは遠隔操作を行うことができない。
だが、龍形成魔法については例外である。
すべての魔法の中で竜形成魔法が最上位に位置しているのは、それが全魔法の中において唯一生物を形成する魔法であり、同時に唯一遠隔操作の出来る魔法であるからである。
とはいえ、竜形成するだけでもまず不可能だというのに、それを3匹同時に遠隔操作してのけるジェクト将軍の魔導師としての技量も本当に桁外れである。
ドルガー将軍との戦いの際にいくつもの策を同時並列的に処理していたことからも分かるように、ジェクト将軍はノーストン最強の名に恥じぬ実力を十分すぎるほどに持っている。
だが。
そんなことを考えるシルディエ達の前に、さらに一匹の溶岩龍がその咢を開けながら迫り来ていた。
「な!?」
「私が扱えるのが3匹だと言った覚えはない」
そう言って、イファールが遅れて発動した溶岩龍が目前まで迫っていた。
それを迎撃せんとバストラングが戦斧に黄土色の魔力を宿していた。
しかし、威力が減衰しているならともかく、完全な状態の溶岩龍を迎撃するのはいかにバストラングと言えども無謀としか言いようがない。
せめてもの援護をしようとシルディエが雷鳴閃を紡ぎあげようとする。
が。
「セア!」
直後、上空から一人の剣士が飛び降りてきて、溶岩龍を真っ二つにしてのけた。
「ふう。熱い」
溶岩龍を真っ二つにしてのけた剣士トリストスは、そう言って手にしていた長刀を構え直す。
そんなトリストスに唖然とするシルディエの隣に、セレスティーナが降り立った。
「遅くなったのう。北は終わったのじゃ」
気が付けば、シルディエの上空には炎を纏う炎鳥が到着していた。
「あれが、魔王か」
ファーレンベルクの背から、俺は眼下にて溶岩らしきものを操る怪物を見やる。
遠目に見る限りには魔族とは思えないような端正な容姿をした青年に見える。
ただ、その双眸には素人の俺にも分かるほどに濃密な殺意が宿っている。
そして、ファーレンベルクで接近している最中、驚くべきことに魔王らしきその人物は4つものの溶岩龍を同時使役してのけた。
それを3つも迎撃してのけたジェクト将軍も大概だが、さすがに時間差で放たれた4匹目の龍には対応しきれなかったようなので、ファーレンベルクの背からトリストスが飛び降りて溶岩龍を一刀両断してのけたということである。
「しっかし」
溶岩を扱う魔王も出鱈目だが、その魔法をためらいなく一刀両断してのけるトリストスもトリストスでシャレにならない。
以前トリストスは彼の持っている長刀が魔力を断ち切る特性を持っていると言っていたが、それだけでは到底あんな溶岩龍の魔法を両断することはできないだろう。
俺だったらそもそも近づきたくない位のヤバイものなのだから。
「フィナリア。龍形成魔法って、複数発動できるものなのか?」
「……少なくとも、私には不可能だとしか答えられません」
「だよな」
未だに白魔法以外の魔法に疎い俺には竜形成魔法の難易度がよく分からない。
ただ、俺が知る限りそれが使えるのがフィナリアとジェクト将軍だけである以上、それが並外れた難易度であることは容易に想像がつく。
ジェクト将軍も魔王もレベルが高すぎるのだ。
「でも、トリストスがいれば」
「はい。あの魔王の攻撃も両断できるでしょう」
俺たちに背を預けるトリストスは、その剣技と得物を用いて溶岩龍を一刀両断してのけた。
様子からいって疲弊しているというわけでもなさそうだし、あの様子なら十分に太刀打ちできそうだ。
「………」
だが、直後、眼下の魔王は右手を溶解した地面にかざしたかと思うと、その中から7匹の溶岩龍を生み出した。
「は!?」
「そんな!?」
その光景に俺とフィナリアは絶句する。
4匹の龍を使役するだけでも規格外だというのに、眼下の魔王はこともなげに7匹もの溶岩龍を生み出してのけた。
「おいおい」
その様子にさすがのトリストスも焦りをにじませた口調で長刀を構え直す。
フィナリアが風響で拾ってくれているおかげか、眼下の会話がよく聞こえる。
「これは、本当に余力を考えることはできませんね」
トリストスの後方に立つジェクト将軍が氷龍を生み出す。
その数は先ほどと同様に3匹。
それでも十分に規格外だが、魔王の溶岩龍を迎撃するには数が足りない。
「トリストス殿は、何匹仕留められますか?」
「2、いや3匹だな」
「私もです。後の一匹は……」
「私が」
風響を用いて状況を共有しているフィナリアが、ファーレンベルクの背に乗りながら風龍を生み出す。
そんな俺たちの様子を眺めるように観察していた魔王は、その手を振りかざし、待機させていた溶岩龍たちに命令を下す。
『熔竜弾』
放たれた7匹の龍を前に、まずはトリストスが飛び込んだ。
別々の軌道を描きながらこちらへ向かってくる7匹の龍の内、比較的固まっている3匹の龍を両断する。
だが、そこまで。
空中を飛ぶ溶岩龍を両断するためにトリストスは大きく跳躍している。
溶岩龍が全てトリストス自身を狙っているなら問題はないのだろうが、こちらを狙っているのであれば防ぎようがない。
『氷竜弾!』
『風龍弾!』
トリストスが取りこぼした4匹の龍を、ジェクト将軍とフィナリアの放った魔法が迎え撃った。
計8匹の龍が真正面からぶつかり合う。
しかし、やはり単純な火力では魔王の溶岩龍に分があるのか、見る見るうちに氷龍と風龍が溶岩龍に飲み込まれていく。
『『解放!』』
だが、直後、氷龍と風龍が膨れ上がり、その魔力を解放する。
爆散する魔力に呑まれ、溶岩龍が凍りついて霧散していく。
だが。
「く!」
俺の後方でフィナリアが苦悶の表情を浮かべる。
ジェクト将軍の用いた氷龍は溶岩龍を道連れにできたのだが、フィナリアの風龍は溶岩龍の威力を削ぐのみで限界だったのだ。
大きく勢いをそがれたとはいえ、未だに形を成したままの龍がファーレンベルクめがけてその咢を開く。
「ピュアアアアアアア!!!」
俺の眼前に迫りくる溶岩龍めがけてファーレンベルクが口内から火炎放射を放つ。
とっさに放たれたファーレンベルクの火炎放射は、かろうじて迫りくる溶岩龍を相殺してのけた。
「やったか……!?」
が、それで終わりではなかった。
やっとの思いで7匹の溶岩龍を迎撃した俺たちの眼前に、さらに2匹の溶岩龍が迫ってきていたのだ。
「う、嘘だろ!?」
7匹が限界かと思っていた魔王は、俺たちの不意を突くようにさらに2匹の溶岩龍を生み出していたのだ。
つまり、この魔王は1匹作り出すのも困難な龍魔法を9匹……いや、事によればそれ以上同時に生み出すことも可能なのかもしれない。
「ヤバイぞ!」
トリストスは未だに迎撃態勢が整っておらず、フィナリアとジェクト将軍は大魔法を発動した直後で魔法が紡げる状態ではない。
今の状態で龍魔法を迎撃する方法は……。
「オオオオオオオオオオ!!!!!」
激しく動揺する俺の耳に、突如獣のような雄叫びが響いた。
何事かと声の主を探すと、それは戦斧を黄土色に輝かせたバストラングだった。
迫りくる溶岩龍に対して、バストラングは真正面から戦斧を振り抜く。
だが、バストラングの一撃では溶岩龍は即死せず、その咢がバストラングの体に食いついた後に消滅した。
「ば、バストラング!」
溶岩龍と相打ちになるような形となったバストラングに対して俺は叫び声を上げたが、そんなことなど知ったことではないとばかりに最後の一匹が真っ直ぐにジェクト将軍たちの方に迫ってきていた。
セレスティーナとシルディエが迎撃しているが、溶岩龍は二人の魔法など歯牙にもかけずに真っ直ぐに突撃してくる。
「ファーレンベルク!」
その光景を前に、俺はファーレンベルクに対して即座に命令する。
あの規模の魔法となると今のファーレンベルクの障壁でも防ぎきれるかは分からない。
だが、それでもこのままではジェクト将軍が間違いなくやられてしまう。
それを察したファーレンベルクは、即座に飛び出した。
「ピュアアアアアアアア!!!!!」
迫りくる溶岩龍を、ファーレンベルクが真正面から受け止める。
しかし、先ほどの黒龍が放ったブレスを遥かに上回る圧倒的な膂力を持つ溶岩龍は、徐々にファーレンベルクの障壁を溶かしていっている。
「くそ! 頼むファーレンベルク! 持ち堪えてくれ!」
ファーレンベルクの背に両手を当てながら、懇願するように俺はそんなことを叫ぶ。
すると、直後ファーレンベルクの障壁が僅かばかりだが溶岩龍を押し返した。
「いいぞ! やれ! ファーレンベルク!」
「ピュアアアアアアアアア!!!!」
しばし稼がれた時間の間に、ファーレンベルクはその口内に火炎を蓄えている。
そのたくわえられた火炎を放ち、ファーレンベルクの障壁によって勢いを削がれていた最後の溶岩龍は相殺された。
「よし。これで……」
一安心した俺は、しかし、更なる驚愕に見舞われた。
俺の眼前に溶岩塊が迫り来ていたのである。
「……あ」
迫りくる絶対的な脅威の前に、俺の目に映る光景がスローモーションのようになる。
見れば、魔王はいつの間にかかざしていた左手から俺の眼前に迫ってきている溶岩塊を放っていたのだ。
やはりあの魔王は規格外だ。
9匹もの溶岩龍を放つだけに留まらず、さらにこんな魔法まで扱ってのけるのだ。
溶岩龍を防いだせいでファーレンベルクの障壁も摩耗している。
この一撃は……防げない。
ズドン!!!
直後、こちらに迫りくる溶岩塊が激突し、爆散した。
「……あれ?」
が、その溶岩塊が激突したのはファーレンベルクではなかった。
突如ファーレンベルクの前に現れた何かが溶岩塊に激突して爆ぜたのである。
「一体、何が……」
「く、クウヤさん、あれを」
俺の後ろから、フィナリアが地面を指さした。
その先を見て、俺は息をのんだ。
「やれやれ、10年ぶりにあってみれば、イファールめ、とんでもない魔法を身に着けておるな」
「ロウセイ師匠!?」
その姿に驚愕の声を上げる俺に対し、ロウセイ師匠か軽く手を挙げた。
「すまんな。大分遅れてしまった」
などと、突如現れた人間界最強の人物は緊張感に欠けた返事をした。




