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負の感情への最善の対処は、時間を置くという事だった。
冷静に物事を考えられるようになれば、初心にかえって必要な行動が見えてくる。
遺憾だ。不合理だ。怒りもある。そしてなにより理不尽だ。
でも彼に感情をぶつけるべきではない。
私がすべきなのは、条件を伴わず全てを受け入れる事。
時間は沢山あったので、形状の変化や表面の色を少し工夫してみた。
表面を細部までなめらかにすることで、光沢を出す。
これで髪の艶や目の輝きも表現できた。
どうしてもダメなときは染料を探して、体に塗ればいい。
肌も人間のように血が通った色にした。
美人の要素のつもりで取り入れたのだが、人間の好みは個体差があって判断基準が難しい。
魅力的と思ってもらえる姿は研究しておかないと……
時々考えてしまうことがある。
彼から愛の言葉を貰って、それからどうすればいいのだろうか。
二人で結ばれる?婚約という概念があったはずだ。
前に提案したけど、普通に流されてしまった。
考えてもきっと結論は出てこない。
ならば私は彼を…………それだけできっと満たされる。
問題があるとすれば、人間には寿命があることだ。
こんなに愛しているのに、いずれ離別しなければならないなんてことあってはならない。
でもこの問題はもう少しで解決できそう。全ては彼の為なんだ。
もう一つの問題は、まだ彼があの女を想っていたことだ。
でも、そうだとしたら、あの夜の拒絶は何だったのだろう。
中身が別人だと分かっていた様子もないし、本当に理解できない。
以前から寂しい夜は、自分の体の一部で彼の形を模した。
かつての記憶の中から取り出す。ところどころ違うが彼だと分かる。
自分自身はあの茶髪の女になってみて、試しに唇と唇をくっつける、という行為をしてみた。
親しい人間同士が見せる変わった習性だ。でも何も感じない。感じられなかった。
ただ体が接し合っただけで、虚しい無が流れた。
でも少しは気がまぎれる感じがする。本物であればもっと何か違うのかもしれない。
昼間も夜も人目がある。
町中に入ってからは行為自体を我慢していた。
本物の彼が居るのだから必要ないと思った。
でも、初めに考えていた行動は全て裏目に出た上、
よく分からないけど私の言動で不機嫌にさせてしまったようだ。
ただ貴方の為になると思って、楽にさせようとしただけなのに
ある時、抑えきれなくなって彼の形を作ってしまった。
――私への言葉が欲しくなってしまって……
この時間帯だったら多分人はこないはず。
「――愛、し、て、い、る、」
多分こうだ。あの女と掛け合っていた言葉は、
でも違うんだ。こうではない。
音節が全然なめらかじゃないし、熱も籠ってない。
やっぱり本物じゃないと……
今度は彼に抱き着いた。それはもう、面の全てが密着するように、
実際は自分の体に抱き着いているだけなのだけれど、心が救われる。
物は試しと、冷たい彼に囁いた。
「愛してるよ、ゼント」
「俺もライラを愛している。ずっと一緒にいよう」
言うなれば指先から声を出し、感情の抜けた自分自身と会話する感じだ。
でも十分な満足感がある。だが少しの満足も得てはいけない。
もしこれが本物だったらと思うとぞくぞくして止まらなかった。
もはや快感だ。絶対的な快楽だ。
「――っ!!?」
確信は無いけど、誰か壁裏に居た気がする。
久しぶりの高ぶる気分を味わっていたのに……
最悪だ……見られたかもしれない。
私と彼だけの空間を汚された。
どうしよう。早く殺さないと……
でも、人間を殺してバレたら面倒なことになる。
彼との関係も……続けられなくなってしまう。
多分大丈夫だ。暗かったし、見られたところで問題ない人間のはずだ。
何かあってもその時考えればいいし、私の計画が邪魔されるわけでもない。
でもやっぱり不安が残る。多少の危険を承知で殺した方が良かったのかな。
とにかくこれ以上は控えよう。
問題が起こったのなら、また考えればよい。
命に関わるようなことは無い。
◇◆◇◆
一つ面白い事が分かった。
彼はあの女の事を完全に忘れている。
二人でずっと冒険してきた事ではない。
幼い日の出来事を記憶の片隅に追いやっている。
彼も人が悪い。でも好都合だ。
もし思い出していたら、完全に強固な絆が形成されていただろう。
なぜ彼女は打ち明けなかったのだろうか。
忘れられているのが怖かったから?
もしかして私の事も、忘れられているのだろうか。
悲しい事だけど、だったら思い出させてやればいいだけ。
今回は時間が足りなかったけど、次こそは……
一人は彼に迫りすぎて自滅した。
彼に毒を盛ろうとした報いだ。
色々な欲望が私の中に渦巻いている。
早く、早く…………あと二人だ…………




