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第五十九話『追憶』

 



「――ああ、ごめん。初めて会ったのに、いきなり恋人相手みたいな話し方だったな」


「え!?恋人!?……え!?初めて会った?!」



 ライラは顔を赤らめたと思えば、次の瞬間には落胆するという、せわしなく意味の分からない動揺していた。

 初対面のはずなのに一体何を驚いているのだろう。何か変な事を言ってしまったのだろうか。



「で、用件は?もしかしなくても俺とパーティーを組みたいんだろ?」


 とにかく気に留めず、俺は自分を指差しそう言った。

 これはライラと初めて会った時の夢だ。そして過去を繰り返している。

 だから、彼女視点でこちらに話しかけてくる理由など分かり切っていた。



「え!?なんでわかったの!?もしかしてゼント、あなた心が読めるの?」


「いや、なんとなくそう思っただけだ」


 こちらの事情など知りもしないライラは先程に引き続き、ただただ驚くことしかできない。



 あれ……?そう言えば何でライラは俺の名前を知っているんだ?

 たしか、受けた依頼の道中で互いに自己紹介をしたと思っていたんだが、


 ……夢だから全ては再現されないのか?

 それとも、俺が過去と違う行動を取ったから何か変わってしまったのか?

 どうせ夢なんだ。思い切って聞いてしまおう。



「ところで、どうして俺の名前を知ってるんだ?」


「え?え、えっとね……それは…………………」


 彼女は考え込んで押し黙ってしまった。

 瞳が左右に揺れ動いている。適当な理由を探しているのだろうか。



 ……やはり夢とは言え、焦って変な行動はとらない方が良いみたいだ。

 記憶をたどって、その時言ったであろうセリフを言う。

 台本通りに進まなければ、間違った未来へ行ってしまうかもしれない。それはあってはならない。



「まあ、いいや。パーティーを組むなら俺じゃなくて、他の奴の方が良いぞ」


 当時の俺はこんな口調じゃなかったが、いまさら変えたら逆に不自然に思われるだろう。



「え?なんで?」


「俺はこの中で一番新人な上一番弱いからだ」



「その割にはさっきから態度が大きい気がするけど……」


「……まあ、気にしないでくれ」


 考え込んでいたライラは一息つくと、不思議そうに首を傾げた。

 目まぐるしく変わる話の展開に、彼女は先程から疑問符からしか会話を始めていない。


 ……過去と全く同じ振る舞いをするというのは、案外難しいようだ。

 初めから失敗しているから、もう完全な修正は不可能なのかもしれないが。



「でも私、ここに居る人全員に声を掛けてもダメだったから、あなたに話しかけたの!依頼は全部私がやるから一緒に来なさい!」


 彼女の相変わらず威勢のいい言葉遣いは、初めこそ不快感があったものだ。

 強引に俺の袖を引っ張って立ち上がらせると、手をつないだまま受付へと向かう。



 やはりこれは、ただの過去に遡った夢なんだ。

 あれほど想い、追い求めていた存在が目の前に居るというのに、感情がそこまで揺れ動かない。

 泣きついてしまいたいはずなのに、冷静に留まって傍観者のような思いしか出てこない。


 これが夢だと分かり切っているからだろうか。

 目覚めると辛い現実に引き戻されると知っているからだろうか。

 それとも……夢の世界でも、ライラの死が確定しているからだろうか。



 事前に選んでいたのか、依頼書を懐から取り出し、受付に提出する。

 共同で行う初めての依頼。道中、彼女は懐かしそうに表情で身の上話を飽きるほどにして来る。

 この時点で、俺に好意はなさそうだが、何故彼女は俺を選んでくれたんだろうか。


 少し難易度の高い討伐依頼で、実力差が顕著に現れた。

 俺も昔よりは成長した。しかも二回目ならと考えていたが、やはり根本的な素質が違う。

 今度は足を引っ張ることこそ無かったが、指定の頭数を全て狩りつくされてしまった。


 一休みしようと木陰に倒れ込み、息を切らしながら、

 過去にはありえない失言がつい口から出てしまった。



「はぁ、はぁ……ライラには“やっぱり”叶わないな……」


「やっぱり??…………ゼント、嘘ついてたわね!私をからかって遊んでたんでしょ!?」


 唐突に、訳も分からず声を荒げた。何だ?こんな展開は無かったはずだぞ?

 俺は間抜けな顔で唖然としていただろう。それもそのはず、彼女が俺に対して怒りの感情をぶつけたことが無いからだ。

 自身の過ちに気が付いた頃には時すでに遅し、だけど何故怒っているのかが分からなかった。



 もしかして、ライラの事を事前に知っていたことがバレて、隠していたことに怒りが湧いたのか?

 ならばと、必死に怒りを回避する言い訳を考えた。



「いや違うんだ!知り合いに似ている奴が居てだな。それで……」


「……へぇー、じゃあその人の名前はなんていうの?」


 どうやらこの世界は再現が下手なようだ。

 この夢を見ている人間の頭がポンコツだからかもしれない。

 彼女は未だ疑惑の目で俺を見ている。質問に答えなければ、未来が無いかもしれない。


 俺は記憶の中から必死に似ている人物を探した。

 そして、真新しい記憶の中に黒髪の少女が出てくる。

 焦っていたからかその人物の事を考えずに名前を口に出した



「ライラ!っていう名前だよ!!」


 言い出した瞬間には自分の過ちに気が付く。

 目の前のライラの目がさらに鋭くなっている気がした。



「いや違……違わなくないけど!名前が一緒だけど違う人間だから!」


「……それって幼馴染か何か?」


 疑惑を抱えた瞳は変わらず、怒気の籠った声色で聞いてくる。



「そうだよ。性格は全然似てないけどな」


 俺は昔から刹那的な思考だった。

 今この場が収められるならば、後先を考えずに口走ってしまう。

 だから、構わずに行ってしまった。どうせバレない嘘だと思って……



「そうなんだ……だったらいいけど……」



 ライラは急にしおらしくなった。

 顔には紅潮が美しく散っていた。


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