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――私は人間というものを外側だけ見て学んだ。
でも分からないことだらけだった。
例えば、
どうして人間は、表皮の外側に服とか言うものを身に着けているのか。
鎧?を着ていても簡単に拉げさせることができるのに、意味はあるのか。
全身毛むくじゃらの人は服を着てない個体もいる。
彼も身に着けていたが、結局理由は分からない。
どうして守るべきルールが決められているの?
みんながみんな自由に過ごせれば、楽に生きられるのに、
ルールを守らない連中だっている。寧ろ大半がそうだ。
物を盗んだら、怒られ罰せられる。
人を殺したら、逆に殺される。
なんで?やられた方が全部悪いだろうに、
よく分からない。納得できない。
でも、守らないと人間はだめらしい。
どうして人間は嘘をつくの?
残酷な真実から守るため?
群集を誘導させるため?
弱い生物が蠢動したところで意味は無い。
全て正面から力でねじ伏せればいいだろうに、
欺いて面白がるため?
その場からはなれたかったから?
そう彼は説明した。
もしかしたら、私に対してもこっそり嘘をついて、
離れようとしたり、裏で滑稽だと笑ったりしていたのかな?って、
貴方の為になるのならそれでもいいけど、ちょっと悲しくなる。
でもこうも言ってくれた。
私に、絶対嘘はつかないって。
――だから……だからこそ、
初めて怒りの感情を覚えた。
はらわたが煮えくり返るとはこのことを言うのかと。
なぜなら私に対して二度も嘘をついた。
誰にも会いたくないから、ほっといてくれと言った。
嘘をつかないという言葉が真実であると確信して、引き下がったのだ。
なのに……頻繁に人と会っていた。
あいつらは一方的に訪問してきたのだ。
それは咎める理由にはならない。
でも彼は追い返さなかった。
人と会いたくないのなら、無理やりにでも追い出せばいいのに……
また今も、積極的に人と関わろうとしている。
二つ目の嘘は、私に対して嘘をつかないという発言だ。
実際彼は嘘をついた。
もう言い逃れはできないだろう。
怒りが身を震わせて、つい全身に力が入ってしまう。
概念としての知識はあったが、身をもって初めて言葉の本質というものを実感したのだ。
無論、彼が何をしようと私のおよび知るところではない。
不満が無いわけではないが、関与できる事象でもない。
私の目的は別にある。
彼が救いを求めるのならば手を貸すのは当為。
でもこの怒りの感情は、生半可な対応では押さえられそうもない。
……かつて私は、感情を持つことが実に愚かだと思っていた。
だって生き物が生き物としての役割をなすために、全く必要ないだろう。
ただ生きるための本能に従い、食事をとって睡眠をとって、成長し子孫を残していければそれだけでいいのに………
でも彼へと抱いた感情、未知は私の常識を覆した。
生きるために感情は必要ない?それは真理ではなかった。
種の繁栄という目的を掲げた全体主義としては正しい。
だが、個の自由を束縛された感情の無い人生に生きる価値など無い。
言葉は悪いが言わずにはいられない。クソくらえと、
それを理解した時、私の中にもう一人の私が生まれたのだ。
欲望に忠実な、感情を初めて手に入れた。
元からいた合理的な私とは全くと言っていいほど、そりが合わない。
当たり前だ。
「本能」と「理性」
「衝動」と「規律」
「イド」と「エゴ」
これらは水と油のように決して相容れない存在。
感情と本能は結び付かないのだ。
そもそも合理的思考しかできない生物が、本能に従っている時点で合理的とは言えない。
思考とは、感情とは、一体どこから来るのか。
分からない。分からない……
機械のような思考はひどく乱れた。
なぜなら――“心”を手に入れてしまったから。
感情の処理が追い付かない。一体どうすれば……
悩んだ挙句に、
内に湧き出てくる思考を肯定することしかできなかった。
長い時間を共に過ごすうちに、互いの人格は混ざり合って、
でも何故だか、私側の思考だけが一方的に引っ張られた。
本当にこれは私の思考なのか。
私が私じゃないみたいだ。
……結局はどちらも私の思考なのだろう。
然らば、反発するよりもうまく同調した方が、効率的だと判断できた。
感情的になった私は、時々衝動を抑えきれずに暴走する。
もともと存在していた欲求を超えて、全てを壊しかねない行動を取ろうとした。
狂ったように彼の名を連呼し、言動が覚束なくこともある。
ならば、それを止めてやるのも私の仕事。
でも、だんだん感情の方が強くなってしまって、抑え込みが効かなくなっている。
もしかしたら近い将来、止まることのない暴走状態に陥ってしまうかもしれない。
何か打開のためのきっかけがあればいいのだが……




