第四十一話『責務』
――ゼント、ハイス、フォモス、三名の集いは終盤に差し掛かっていた。
居なくなったユーラの存在は、誰にとっても軽いものではない。
場に居る全員が、疑う余地もなく彼女を訪っている。
「――流石アニキ!いざという時頼りになるぜ!」
協力すると申し出ると、ハイスは飛び上がり分かりやすく歓喜の声を上げた。
アニキと呼ばれるのは、愉快なものではないが今くらいは許容できよう。
「捜索を協力すると言っておいて、なんなんだが……俺もユーラの行きそうな場所に心当たりがあるわけでもないし……」
居心地の悪そうに、頭の後ろを掻きながら声を細めて言った。
ハイスの喜んでいる様子を見たからか、あまり気を落とさせないように気を使ったようだ。
腹も減っていたのだが、“しばらく真面に食べていないから食事を済ませに行きたい”とは言える状況でもない。
「先輩が気にすることはありません。もともと異変に気が付くのが遅れた我々に問題があるのです。気に留めていただけるだけでもありがたい。私はこれから支部長にもこのことを話してきます。もしかしたら何か知っているかもしれません」
フォモスは彼以上に気を使って言葉を返してくれた。
強い意志を持ち、真剣なまなざしで語る姿。
いつもは女性を引っ掛けて遊んでいる彼らだが、根は実直だという事が分かる。
「町中は昨日までにほぼ探し終えました。もし協会の依頼で町外に出ることがあればお願いします」
「それは……」
「分かってますよ……何か特別な行動を起こす必要はありません。でもどこかで見つけたらすぐに教えてください」
「…分かった」
固くうなずくと、二人は足早に協会と入って行った。
ついて行ってもいいが、中に戻る度胸は彼には無い。
一人残されゆっくり胸を撫でおろした。そして気分を切り替えようと空を見た。
「さて……」
絶対に無視できないが、一悶着あった後で面倒事なのは確かだ。
更に言えば、何も手がかりが無い状態で探すのはさすがに無理だった。
心配ではあるが、焦っても仕方がない。できることなど、たかが知れている。
ひとまずは当初の目的通り、食料を買い込むために市場に向かった。
何故、忽然と姿を消したのだろうか。
今日受け取った報酬金の入った袋を腰にぶら下げて、思考を巡らせながら大通りを行く。
確かに、ユーラとは三日以上顔を合わせていないが、まさか行方をくらませているとは思いも寄らなかった。
毎日のように料理を持ってきてくれたが、協会にすらも顔を出さなくなった自分に、いよいよ愛想尽かしてくれたのだと思っていたのだ。
二度に渡る対面を思い起こす。
あの時のユーラは明らかに異常だった。なぜあのようになってしまったのかは分からない。
ある日を境に、突然と狂ってしまった彼女。
最後に会った時は、理解できないほどの衝撃に恐怖を覚えてしまって、逃げ出すように距離をとった。
結局何がしたかったのかも分からない。無理にでも留まって、話を聞き出せば良かったかも知れない。
だが考えたところでどうしようもない。これからの事を考えた方が建設的だった。
パーティーメンバーの二人が行方を知らないという事は、本当に痕跡が一切残ってないのだろう。
何かしらのトラブルに巻き込まれたか、それとも自らの意志で姿を消したのか。
どちらにしても、彼女の異常さがもたらした失踪な気がしてならない。
先程から繰り返し、亜麻色の髪を歩きながら探している。
まだ早朝と言える時間帯だったが、通りは多くの人が居た。
当然だが見つかるわけもなく、人々は後ろへ、あるいは脇道へと消えていく。
薄茶の髪色自体はこの地域で珍しくもない。
通りを歩いているだけで、何人も似ている人がすぐ見つかる。
だが近づいて確認するまでもなく、ユーラではないと分かった。
なぜなら、彼女の髪には唯一無二と言える艶がある。
元々明るい髪色なのに、日の光がしっかり反射されるほどだ。
創意工夫を凝らした独自の髪型も、遠目からの判断を容易にした。
通りでは何かがあるわけでもなく、むごたらしくも平和で雅な時間が流れていく。
朝市で食料を品定めする時も、代金を渡すときも、商品を受け取る時も、
目を凝らすことは、少しでも止めることができなかった。
――もしかしたら、自分が原因なのでは?
憶測が妄想になり、思考が正常からどんどん遠ざかっていく。
帰り道も同じように首を回し、町の至る箇所に視線を張り巡らせる。
探している内に一つ、考えが浮かんだ。
最後に会った場所、もしかすればそこに居るのではないかと。
確信も確証も無い。だが心当たりが真っ先にできると、駆けださずにはいられなかった。
汗をかいて、息を切らし、ゆっくりと呼吸を整える間も無く家まで走った。
――だが、
家の前にまでたどり着いたのに、彼女の姿は無かった。
本当にどこへ消えてしまったというのだろうか。
「ユーラ!!」
思いがけず、名を叫んだ。
声は家の裏の森中へ、木々の間へと遷移し弱々しく木霊するだけ。
今だけは森の静謐を恨んだ。
何事もなく住処まで戻れたゼント、両手を塞いでいる買い込んだ食料を床へ置いた。
だがやはり悟らず、すぐさま家の外へ飛び出した。
今後を自堕落に過ごすことが、今回の外出の目的だったのにも拘わらず、
ゼントにはそのような、他人に対して徒や疎かに出来なかったのである。




