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ガールズバンド【KANADE-ZAKURA】 ~最強バンドのメンバーに、何故か紛れ込んでいる私~  作者: 猫野 にくきゅう
おまけエピソード 幼女探偵団

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第4話 公園の不審者、あるいは名探偵4

 (才川陽葵の視点)


 桜ちゃんが、何か重大な事件を追っている名探偵(あるいは凄腕の刑事さん)だという結論に至ったわたしたちは、砂場の中で緊急の作戦会議を開いた。


「じゃあ、ひまりちゃん。わたしたちはどうすればいいのかしわ? このままここにいたら、犯人との撃ち合いに巻き込まれるかもしれないわ!」


 樹莉愛ちゃんが、フリルのスカートの裾をぎゅっと握りしめて言う。

 そのお目々は、怖がっているというより、ドラマのヒロインになれたみたいで少しだけキラキラと輝いていた。


「犯人に接近するのは危険ね。かといって、急に走って逃げ出せば、不自然な動きとして犯人に警戒されるリスクがあるわ」


 佳歩ちゃんが、腕を組んで難しそうな顔をする。


「うん。だからね、わたしたちは『何にも気づいていない普通の子供』のフリをするのが一番だと思うの!」


 わたしが提案すると、二人は顔を見合わせて、こくりと力強く頷いた。


「わかったわ。刑事さんの極秘任務の邪魔をしたら悪いものね。プロの足手まといにはなれないわ」


「ええ。自然なカモフラージュ行動に移行しましょう」


 わたしたちは、ゆっくりと砂場の砂に向き直った。

 そして、木の後ろに隠れている桜ちゃん(名探偵)の邪魔にならないよう、極めて自然に、普通の幼稚園児らしく遊ぶことに全力を注ぎ始めた。


 しかし、いざ「自然に」と言われると、なんだかすごく緊張してしまう。


「わあーっ! おすなばあそびって、とっても、たのしいわねーっ!」


 樹莉愛ちゃんが、普段は絶対に出さないような大きな声で、不自然なほど大げさに叫んだ。


「ええ、そうね! このお城の建築作業は、極めて平和で、事件性なんて欠片かけらもないわーっ!」


 佳歩ちゃんまで、砂をペチペチと叩きながら、お芝居みたいな声を出している。


「ほんとだねー! わたしたち、なんにもしらない、ふつうのようちえんじだもんねーっ!」


 わたしも負けじと大きな声で笑い声を上げた。


 心臓がドキドキと音を立てている。

 わたしたち三人は、チラチラとケヤキの木の方を盗み見ながら、ハラハラした気持ちで、いつも通りの「お砂場遊び」を続けた。


 どうか、桜ちゃんの極秘任務が成功しますように。

 わたしは心の中で、「カッコいい探偵さん」に向けて、一生懸命にエールを送っていた。


 * * *


 (細川桜の視点)


「……よし。ワンコーラス分は、書けた」


 私は、ケヤキの木の裏側で小さく息を吐き出し、メモ帳をパタンと閉じた。


 セミのように木の幹にへばりつくという無理な体勢を維持していたせいで、ふくらはぎの筋肉が悲鳴を上げ、背中にはじっとりと嫌な汗をかいている。しかし、私の胸の奥には達成感が満ちていた。


 手元のメモ帳には、痛々しくも陰鬱な、私らしい「闇のポエム(歌詞の原案)」がしっかりと刻み込まれている。


 そして何より素晴らしいのは、前方で遊んでいる才川さんの妹(陽葵ちゃん)とそのお友達に、私の存在が完全に『気づかれていない』ということだ。


 途中、なぜか彼女たちが突然「わあーっ! たのしいわねーっ!」と、舞台俳優の発声練習のような異様に大きな声で遊び始めた時は、心臓が口から飛び出るかと思うほど驚いた。

 幼児のテンションの乱高下は、私のようなコミュ障にとって恐怖の対象でしかない。


 しかし、彼女たちの視線は砂場のお城に向けられており、こちらを向く気配はなかった。あくまで子供特有の突発的な発声現象なのだろう。そう結論づけた私は、気配を殺したまま作詞作業に没頭することができたのだ。


「ミッション・コンプリートね」


 私は誰に聞こえるわけでもなく、小さく呟いた。


 才川さんの妹と遭遇するという致死率百パーセントのイレギュラーな事態を、私は「気配を消し去る」という高度なステルス技術によって見事に乗り切ったのだ。


 挨拶をして気まずい空気になることもなく、不審者として泣かれることもなく。

 私は、自らの完璧な立ち回りに密かな称賛を送りながら、ゆっくりと木から背中を離した。


 ザッ、ザッ。


 足音を立てないように、つま先からそっと地面を踏みしめる。

 公園の入り口に向かって、忍者あるいは特殊部隊の傭兵ようへいのような足取りで、慎重に、そして確実な後ずさり。


 陽葵ちゃんたちは、相変わらず「わたしたち、なんにもしらないもんねーっ!」と叫びながら砂遊びに熱中している。


 よし、今がチャンスだ。

 私はくるりと踵を返し、足早に公園の敷地から脱出した。


 夏の強い日差しの中、住宅街の路地へと逃げ込み、ようやくふうっと大きく肩の力を抜く。

 まさか、あの三人の子供たちが、私の行動を最初から最後まで観察し、「恐ろしい事件を追う名探偵の極秘任務」として見守ってくれていたなどとは、夢にも思っていない。


 私は、誰とも目を合わせず、誰とも会話をせずに済んだという圧倒的な「平穏」を噛み締めながら、意気揚々と家路についた。

 こうして、私の休日を利用した作詞活動は、誰にも知られることなく(?)、無事に幕を閉じたのであった。

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