第十三話 カミングアウト
前回のあらすじ
隅田川花火大会Wデートの為に顔合わせをした、源、愛日、優人、そして馬酔木の4人。
愛日は馬酔木に自身が掌光病罹患者だと打ち明けるが...
2017年 7月 駅の近くのファミリーレストラン
「ええ、知ってますよ。」
馬酔木さんはさも当然かのように笑顔で返答した。
俺は少し拍子抜けをしてしまった。
「あ、あぁ、そうだったんだね。........じゃあさ、怖いとか、嫌だとか、ないの?」
「ないですよ?そんなの。」
馬酔木さんはやはりハッキリ言い切った。
すると俺の横で表情を曇らせていた愛日が動いた。
愛日が一枚の紙ナプキンをとり、ひらりと上に投げた。そして彼女はそれに手の平を向ける。
優人と馬酔木さんは愛日のその行動を不思議そうに見ていたが、俺は彼女が何をするつもりか分かった。
案の定、愛日は『症状』を使って見せた。
一瞬、愛日の手の平の延長線上の空気が揺れ、その先で舞っていた紙ナプキンも揺れる。
静かにテーブルの上に落ちた紙ナプキンには、手のひらほどの大きさの穴が開いていた。
「私の掌光病は、『消滅』。これでも、怖くないの?」
愛日は真顔で馬酔木さんに質問した。
が、ほんの一瞬、愛日の表情が悲しみを帯びているように感じた。
愛日は今まで、この症状のせいで身の回りの人から恐れられてきた。
きっと彼女にとって、この瞬間が一番辛いのだろう。
...しかし、馬酔木さんの反応は、俺と愛日が想像していたそれではなかった。
「......凄いですね。掌光病は、初めて見ました。....それでも、恐怖なんて感じませんよ、愛日ちゃん。」
馬酔木さんは、多少の驚きこそあったかもしれないが、至って平然としていた。
その対応に驚いたのか、愛日は唇をかみしめ、目を伏せた。
けれど、そんな愛日の表情は、どこか嬉しそうだった。
馬酔木さんは続けるようにこう言った。
「優人くんの友達と、そのお友達ですもの。いい人に決まっています。」
彼女はにこやかに俺と愛日に微笑む。
俺は感動で言葉が出なかったが、それは愛日も同じらしい。
彼女は本当によくできたお人だ。
こんな馬酔木さんと比べたら、優人なんてセミの抜け殻くらいの男だ。
一方、その優人はというと、
愛日の掌光病を見て腰を抜かしていた。
この男はほんっとに....
「はぁ....、おい、優人。流石に情けなさすぎないか。馬酔木さんはここまで受け入れてくれてるのに、お前がビビってどうするんだ。...っていうかお前に関してはお姉さんが掌光病罹患者だろうが...。」
「ち、ちちちちち違う!こ、これはビビったとかじゃなくて、『消滅』がカッコよすぎて力が抜けてしまっただけだ!我が親友、山根くんのガールフレンドの有我さんが怖い訳なかろう!」
なんていいつつ、優人の足は生まれたての小鹿状態になってしまっている。
愛日と俺は少し呆れてジュースを飲んだ。
馬酔木さんも「あはは.....」と苦笑いしかできないようだ。
「....まぁ、この話は良いとして。えっとー、それで、結局なんで私は呼ばれたの?いまいち状況が把握できていないんだけれど...」
愛日は一旦この話題を止め、気を取り直すように座り直して質問した。
まぁ彼女の疑問は当然だし、流石にそろそろ答えないと愛日が可哀想だろう。
俺と優人は目を合わせた。
「それについては俺から答えよう。」
優人も優人で、小鹿状態だった足を何とか抑えこんだようだ。
彼は背筋を伸ばして咳払いをした。
「ゴホン!この昼食会は言わば顔合わせ会だ。」
愛日はまだピンと来ていないようだ。
「顔合わせって、なんの?」
愛日のその言葉を待っていたかのように、優人が意気揚々と胸を張って口を開いた。
「ズバリ!!『隅田川花火大会Wデート』に向けての顔合わせなのです!!」
優人がそう言い切ると、愛日の顔は熱せられたやかんの様に徐々に赤くなっていく。
そしてその紅潮がピークに達した時、愛日は俺と優人を交互に見ながら混乱してしまった。
「え!?で、でででででで、デート!?」
「ははははは。まぁ正直なところ、俺と真紀ちゃんのデートに、刺激が欲しかったから、俺の良き友である源にWデートを相談してみたわけさ。そうしたら源は間髪入れずに愛日ちゃんを誘うと言い出したもんだから、今このような場を作ったってわけだよ。」
優人は俺の顔を見て「どうよ」っといった感じにウィンクした。
いや、待て待て、そんな設定台本になかったぞ。
愛日は優人の言葉を聞くやいなや、その赤面した顔で俺に振り返り、驚いたような表情をしていた。
「な、何で源は私にしたのよ.....?」
「い、いや、俺の女友達、愛日しかいなかったし...。」
「好きだから」なんてことは当然言えず、嘘を言ってしまう。(女性の知り合いが愛日しかいないことは本当だが。)
優人は相変わらず気色悪くニヤニヤ笑い、馬酔木さんもニコニコ笑いながらこちらを眺めている。
愛日は未だ戸惑っているようで、そのまま俯いてしまった。
そりゃそうだ、こんなに急に呼び出して、更にWデートにまで誘われているのだ。
普通、こんなことをされたら困惑は勿論、拒絶されるのが当たり前か。
「.....勝手に巻き込んで、ごめん。やっぱり、行かないよね.....。」
俺はこれ以上愛日に嫌われないよう、謝罪をした上で最終確認を取った。
あまり期待していなかったが、愛日は俺の確認に小さく反応をしてくれた。
「..........くわよ。」
愛日は俺の顔を見ず、相変わらず顔を赤くしたまま俯いて小さく言葉を漏らした。
けれど、彼女の声があまりにも小さくてよく聞き取れない。
「ごめん、今なんて言ったか__」
「花火大会、私も行くわよっ!!!」
俺の申し訳なさそうな声を吹き飛ばすほどの声量で、愛日が宣言をした。
そう言った愛日は顔を上げると、怒ってるのか喜んでいるのか分からない表情で俺を見つめた。
「ようし!そう来なくっちゃあ!じゃあ、こっからは四人の親睦を深めようじゃないか!」
この場を今まで楽しそうに観戦していた優人が、ここぞとばかりに場を仕切りだす。
優人は店員を呼び、俺たち四人は次々と料理を注文していった。
(うぅ。大切な貯金がみるみる減っている気がするぅ...)
俺はポケットに入っている、年中軽いままの財布を気に掛ける。
(...いや、今はそんなこと気にするべきではない!愛日を花火大会に誘うことができたのだから、今日くらい財布の紐を引きちぎろうではないか!)
俺は覚悟の炎が点火した眼差しで、優人に熱い視線を送る。
そうして俺と優人は、机の下で漢のグータッチを交わした。
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