第82話 闘諍
セレクレアとカルシューレの間。
グレイニア軍は死に物狂いで前進していた。
クソッ、もう白崎が出てきたか。俺達も対地攻撃なんかしている場合ではないが、搭載している対地ミサイルを使い切らないととてもじゃないが空戦に参加出来ないし、陸軍に面目が立たない。
レイは運良く初撃を躱したようだがそう長くは持たないだろう、無線を聞くからにはレイを目の敵にしているラナーもいるみたいだし。
《早く目標を振り分けてください!》
啓に急かされるがこの作業意外と大変なんだよ、しかも今回は攻撃目標が多すぎる、どれを攻撃したら効果的か考える暇をくれ。
《わかってるよっ!》
しかし、考える暇を作るには文句を言っている暇は無い、ミサイル発射台を優先的に捕捉し前線に張っている戦車も何両か捉える。無人機にも攻撃目標を振り分けて自動攻撃モードに切り替えてと、これでいいかな!
《リンクで送った、全弾ぶち込め!》
データリンクで繋がっている各機に目標情報を送信、水咲さんたちはそれを直ぐに確認して。
《リンク確認、ブルー2、フォックス3!》
《ブルー3、フォックス3!》
無人機は各機バラバラに旋回して散開、各目標に指向し俺たちは各八発、計24発の対地ミサイルを発射、各目標バラバラだが水平に真っ直ぐ進むと目標の真上で直角に急降下、衝撃波を伴って爆発する。
《ブルー1から陸軍、無人機の操作は移譲。俺たちはこれより空戦に移行する》
《ーー本部了解、無人機操作の移譲を確認、幸運をーー》
空戦をしてまで無人機の操作ができるほど俺も優秀ではない、さっさと陸軍に操縦権を委任して俺たちは上昇しレイの戦っている空に向かう。
《堪えろよ・・・・・・》
操縦桿を強く握りそう願いながら、アフターバーナー全開で高度を上げていくが。
射程内まであともう少しというところで一機のF-15にミサイルが命中、煙を吐きながら高度を落としていく。右翼にガンポッドが着いているのが見えた、チグサの機体だ。
《っ!クソッ、ブルー2はブロッサム1をエスコート、空域を離脱!》
《ブ、ブルー2、了解!》
水咲さんは一瞬戸惑ったようだが、事前に命令に従えと言ったのを思い出したか編隊から離脱、大きく回ってすぐにチグサの護衛についた。彼女がいれば安心だろう。
俺だって以前のように、僚機がいなくなってから撃墜されたりしない。
レイも成長しているが、俺だって成長している。
《啓、行くぞ》
《了解》
短くしかし力強く答える啓、大丈夫そうか。
《こちらブルー隊、援護する》
啓を引き連れて空戦に突入、先ずは白崎だ。
※
危なかった、アサギさんの声が聞こえた気がして咄嗟に旋回したがボクの飛んでいたところにはミサイルが掠めて行き、その直後に白い奴、あのラプターが駆け抜けて行った。
クソっ全然気が付かなかった、どこにいたんだあいつ。
《ラプター確認、各機備えて!》
僚機のみんなに注意するも、備えると言ったってすることは限られる。それは見失わないこと、レーダーに映らないんだから見失ったら終わりだ、視界外から一方的にやられてしまうだろう。
僕の言葉に各機了解する。
《ブルー隊は対地攻撃中、しばらく凌いでくれ!》
ツルギさん達はすぐには上がって来れないか、僕達で踏ん張るしかない。
〈死ね!下手くそイーグル!〉
《ぬわっ!》
罵声と共に現れたラナー、僕の上空から機銃掃射を浴びせてくるがこれをギリギリ回避する。無言でやられてたら死んでたな・・・・・・、もっと集中しないと。
《ラナーの相手は私がするっ!グラムは自由に戦ってぇ!》
僕の前を飛んでいたナナが機首を上げてループし僕の下に抜けて行ったラナー機を追う、ルリさんは自由にしてと言われたものの、僕には単独行動はダメだと言われているからどうしたらいいかと言葉に詰まっている。
《グラムも自由戦闘、孤立しないように!》
《・・・グラム、ウィルコ》
ルリさんも迷うこととかあるんだな、律儀なのかな?僕の指示を聞いた彼女は速度を上げて敵を寄せ付けず翻弄していく。
ドゴーーーーン!
爆音の直後、空中に特大の火球が現れた。
誰が狙われたんだ!と慌てて確認するとその中からナナの機体が出てくる。
《そんなの私には効かないよぉぉぉんだ!》
機体に煙を纏いつつも強がりかもしれないが彼女は無事だ、ベーッと舌を出してるように敵を煽っている。さて僕も集中力を上げて敵を追おう・・・・・・。
《レイッ!》
気がついた時には遅かった、彼女の悲鳴にも似た僕を呼ぶ声にハッとして上空を見るとチグサがラプターに追われていた。
《くそっ!今行く!》
僕もこれまでに無いぐらいのスピードで旋回し機首をラプターに向けるが、無理に旋回したせいか速度が落ちて距離を離される、ミサイルで捕捉出来る距離なのに妨害電波で捕捉できずミサイルも撃てない。
あっ・・・・・・。
《やめろ!!》
その僕の必死の言葉は届かずラプターがミサイルを発射し、もういいと言わんばかりにチグサの後ろから離脱。
《きゃっ!!》
その直後、チグサの機体は爆煙に包まれた。
《チグサァ!!》
叫ぶと彼女の機体は煙から出てきた、まだ辛うじて飛んではいるけど大丈夫なのか?!
《だ、大丈夫、左エンジン緊急停止、電気系統一部故障、飛べるけど・・・・・・》
良かった生きてる、しかし片方のエンジンが止まってスピードが出ない彼女、このままではいい的になってしまう。
《私がエスコートするから、レイくんは戦って!》
下からものすごい勢いで上昇してきたF-35がチグサの後ろについて護衛してくれる、ミサキさんの声だ。
《分かりました、チグサをお願いします!》
そして、無事に空域を離脱してくれることを祈る。
よし落ち着け、チグサはちゃんと生きている、取り乱してる場合じゃない、ラプターの対処に専念だ。
《僕らの邪魔をするんじゃない!》
速度を上げて一度乱戦の場から離脱していくラプターを追う、ドッグファイトに持ち込めばなんとかなる、ミサイルが撃てなくても機銃がある。
幸いにもラプターより僕らのイーグルの方がスピードは速い、ただ単に旋回しているだけでは直ぐに追いつけるが。
《嘘だろっ!!》
僕から遠ざかる方向に飛んでいたと思っていたラプターは、いつの間にか機首を僕の方に向けていて擦れ違いざまに機銃を撃たれたが奇跡的に躱せた。どんな機動してんだよ!
くそったれくそったれくそったれ!
声に出しては言わないがそう叫びたかった。
《ブルー隊、援護する。レイ!白崎は俺に任せてナナリスを援護しろ!》
《りょ、了解です!》
ツルギさんが対地攻撃を終えて空戦に参加、僕と擦れ違い再び遠ざかるラプターを追う。
彼が来たら一安心か、僕はナナの援護に移行しようとするが。
《えっ・・・・・・》
振り向いた先、ちょうどナナの機体にミサイルが命中したのが見えた。
〈はっ、ざま見ろってんだよ〉
撃墜を確信したのかナナの後方から離脱していくトムキャット、しかし彼女も被弾したもののまだ飛んでいる。
《ムカつくぅぅぅ、レイは私が守るのにぃぃ!》
《ナナ!大丈夫!?》
《飛べるけど、むーかーつーくー!》
両エンジンから煙を吐きながらも辛うじて飛ぶナナ。飛べると言っても全然大丈夫そうには見えない、それをツルギさんも確認したのか。
《ブルー3、エスコートして離脱しろ》
《ブルー3、了解。直ぐに戻ります》
どこからともなくケイさんが現れ、ナナを護衛しつつあっという間に離脱していく。
僕はまだ何も出来ていない。ただただ好きな人が二人も被弾し怒りが込み上げてくる。
《許さない・・・・・・、ルリさん!》
《ウィルコ》
彼女もこの状況が許せないのかいつもより声が険しい。まだ開幕のナナの攻撃でしか敵機を落とせていないし、残った六機のトムキャットは機動が別次元で対応が追いつかない、ルリさんも手こずっているようだけど旋回し僕の後につくが。
《なっ!ルリさん危ない!》
《っ!!》
タイミングが悪かった、ツルギさんの追撃から逃れていたラプターがルリさんの機体を捉え、彼女は咄嗟にフレアを発射し機体を捻らせ離脱するも、放たれたミサイルはフレアに見向きもせずにルリさんの機体に一直線。
バァン!
《ルリさん!》
後を振り向きながら旋回するも彼女の機体は爆煙に包まれ直ぐにその中から出てくると、片翼を失っていた。
《え!?べ、ベイルアウトしてください!》
どうやって彼女は飛んでいるんだ、主翼を片方失っても彼女はまだユラユラと飛んでいる。
《こんなところで出来ない、アルサーレまで戻るからレイは戦ってっ!》
ルリさん言うことも最もだ、こんな敵地のど真ん中でベイルアウトしたらもれなく捕虜になってしまう。誰の護衛もなくゆっくりと東に旋回していく彼女、しかし、それを追う戦闘機はいない、戻ったところでどうにも出来ないと判断してくれたのか、それが救いだった。
そして、いつの間にかこの空に残ったのは、ツルギさんと僕だけになってしまった。
《くっ・・・・・・、水咲さんと啓はすぐ戻ってくる、それまで耐えるぞ》
歯を噛み締めるツルギさん、僕だって悔しい。
彼も万全じゃないし、これ以上戦えるか?
もういい、そう思った。
旋回し彼の後ろにつく。
《・・・・・・ツルギさん、今まで本当にお世話になりました、楽しかったです》
《・・・・・・あぁ、俺も楽しかったよ》
てっきりそんな事言うんじゃねぇ、と怒鳴られるかと思ったが彼も僕の心中を察してくれているのか、それ以上は言わない。
もう無理だよ、チグサもナナもルリさんも被弾して勝てるわけが無い。
ここまで頑張ったんだ、天国に行ってもアサギさんだって許してくれるだろう。
ビ、ビ、ビ、ビーーーー!
ラプターに真後ろにつかれたのだろう、ミサイルアラートがコックピットに響き耳を劈く。
これでやっと楽になれるか、目を瞑ろうとした時。
《ん?いや、諦めるにはまだ早い、フレア!ブレイク!》
何かに気がついたツルギさんの言葉に反射的にフレアを発射、機体をグルグルと捻らせて身体が勝手にミサイルを回避する。
すると突然、目の前に見たことの無い戦闘機が現れた。
パッと見はラプターに似ているがその色は暗灰色で両翼端を赤く塗り、無人機のような小型の機体を三機引き連れて僕の目の前に現れたそれ。その機体の斜め後方には暗灰色のSu-37が並んで飛んでいる、これってツルギさんが以前対応したというローレニア機!?
《ツルギちゃん、助けに来たわよ》
ツルギちゃん!?
《やっぱり従姉さんか、無線でその呼び方はやめてくれ!》
《あら、じゃーなんて呼んだらいいの?》
《今はブルー1だ!》
《了解、ブルー1》
えぇ、やっぱり本当にツルギさんの従姉さんだったのか?しかも、ツルギさんをちゃん呼び・・・・・・。というか死の淵に立っていたのに今の状況に理解が追いつかない。何がどうなっているんだ?
《ーー陸軍本部より各部隊、ローレニアがバルセルに宣戦布告した、新しい識別情報を送るーー》
え、ローレニアがバルセルに宣戦布告?一体なぜこのタイミングで?
《ーーローレニア王立陸軍中南部方面隊司令、ホーリー少将だ、空の若造に先を越されるな、進軍開始!ーー》
ここからでは見えないが、北に陣取っていたのであろうローレニア陸軍が動き出したようだ。
《説明はおいおいゆっくりしまょう、先ずは目の前の敵を叩くわよ、ソルーダはF-15の援護に回って》
《ウィルコ》
コールサインはソルーダというのか、カナード翼が珍しいSu-37がくるっと可憐に宙を舞って僕の後ろにつく、声からして女の人のようだけど。
《男なのに諦めるなんてみっともない、全部聞いてたよ》
《こんなの諦めない方がすごいですよ!》
ちょっと好きになれそうにないかな。
《で、イーグル、コールサインは?》
《グレイです》
《そのまんまねぇ、グレイ、行くわよ》
《りょ、了解》
僕の大好きな人が使っていたコールサインだ、機体が薄灰色だからグレイにしたなんて浅はかな考えではないし、なんと言われようが変えるつもりは無い。
僕はソルーダと連携してトムキャットを追う、初めて組むはずなのに違和感が全くないのに驚いた、僕の飛び方に彼女が合わせてくれていたのだろう、この人も凄腕のエースか。
一方、ツルギさん達も戦闘が始まっていて、見慣れない戦闘機が引き連れていた無人機がものすごい機動で敵を翻弄している、ローレタラティスが使っていた無人機なんておもちゃみたいな性能だ。
バァン!
だがしかしラプターの前には無力か、所謂変態機動で一機落とされてしまう。
《あれが噂のシロ?強すぎでしょ》
《俺も手を焼いてるんだよ!俺がドッグファイトに持ち込むから従姉さんは他の奴を攻撃して》
《クロウって呼びなさい、ヘマするんじゃないわよ!》
ツルギさんのお従姉さんはクロウというコールサインなのか、彼の進言通りに無人機を引き連れてツルギさんの後方を一旦離脱していく。
《グレイ、残弾は?》
《機銃が少しに、通常ミサイルが二発に、アクティブミサイルが二発です》
《了解、まだ行けるね》
するとソルーダは僕の前に出る。
《お手並み拝見》
《ちょ!》
すると彼女は僕には出来ない機動で空を飛び回り敵を追いかけ回す、偏向ノズルにカナードがついてるSu-37とF-15を一緒にしないで欲しいが僕はそれを必死に追いかける。
バーンッ!
《はい、次!》
《くっ!》
バァン!
ソルーダがクルビットを駆使して放ったミサイルは敵機の背面に直撃、爆発四散し、止まっている彼女を狙って飛んできたトムキャットに向かって僕はアクティブミサイルを放つと見事に命中、自分でも何が起こったのか理解できなかった。
《やるじゃない、なかなか見込みはあるわねー》
《あ、ありがとうございます》
褒められてるのかな?んー、ツルギさんに褒められるよりあんまり嬉しく感じない。戦闘中だしあんまり考えてられないし。
※
くっそちょこまかと逃げやがって。
殺す気こそ無いものの俺は白崎を止める為に追っているがクルクルと躱され全く捕捉できない、まあ電波妨害されてるし狙ったところで当たらないけど。
無人機が放ったミサイルも機体に当たる直前にAPSによって迎撃されてしまう。
しかし、APSには限りがあるはずだ、このまま押し込めばいけるか?
と考えているとラプターは旋回中に機体をその場で文字通り一回転させるクルビットをやってみせ俺の方に機首が向く。
どうやったらあんな高速でクルビットができるのやら、理解できない。そもそも俺の機体だってクルビットもどきしか出来ないからな。
左目の痛みを我慢しながらロールし続けて旋回して逃げる。
このままだと機体の方は大丈夫でも、俺の身体が持たないぞ・・・・・・。
従姉さんでも厳しいのにどうしたものか、次の手段を考えていると。
《俺もいるぞ、ランスロット1、交戦》
《ランスロット2、交戦っ!》
超高速で空気を切りながら前進翼の珍しい機体、Su-47、二機がどこからともなく現れ空戦に参加、流れるようにラプターの後ろに張り付く。
ランスロット、っておいおい兄さんも来たのかよ嫌だなぁ、嫌いなんだって・・・・・・。
と、俺の事情を優先することも出来ずに旋回し様子を伺う。
ものすごい速さで繰り広げられるドッグファイト、何がどうなってるのかここからでは分からないが、ローレニア最強の兄さんを持ってしてでも互角か、最悪だな。
《ボクのツルギ!元気してた?》
《ヒナ!?》
むむむ!ランスロット2ってヒナになったの?俺の幼なじみみたいなやつなんだけど、どこでどうこじらせたのか俺を自分の所有物扱いしてくる面倒なやつだ。
好き好きとスキンシップが激しくて困っていたのが5年前、まだ続いているようだ。
《せっかく助けに来たんだから、一緒に戦おう!》
《あ、ああ》
なんか亡命前に戻った気がして懐かしく思ったけど、あんまり嬉しくはないな。
レイはソルーダと組んで上手くいってるようだし、こっちはこっちで戦うことにした。




