第71話 缶詰
18時45分。
「ほら、レイ、起きて!」
「う〜ん、あと、15分・・・」
「・・・・・・」
「はい!起きた!起きましたぁー!」
なんか殺気を感じて飛び起きる。
ん?ああ、プレハブか・・・・・・。何故か分からないけどとても残念な気持ちになった、胸の奥底がモヤモヤする。
寝ぼけ眼でベッドに胡座をかいて座り、頭をポリポリ掻いていると、何か大変な事に気がつく。
「・・・・・・僕、寝てた?」
自分のベッドに座る3人に、は?て顔をされた。
そんな蔑んだ顔で見なくても・・・・・・。
「うっそ!いつの間に!?」
寝る気なんて全くなかったのにいつの間に寝ていたんだよ僕!え?え?とキョロキョロしてしまう。
「寝顔可愛かったよぉ」
お色気たっぷりに、しかしニヒヒと悪い笑顔でナナが近寄ってきて僕の隣に座り肩に両手をそっと添えると僕の頬にキスをしてきた。
「っ!!」
「ちょっと、どさくさに紛れて何してんの!レイも何赤くなってんのよ!」
激おこのチグサ、別にどさくさには紛れてないと思うけど・・・。それも何の前フリもなく急にされたらそりゃびっくりするし、緊張もする。ぷりぷり怒る彼女、僕の前にドスドス足音大きくやって来てナナリスを引き剥がそうとする。
「いいじゃーん、頬にぐらいぃぃぃ」
「ダメに決まってるでしょ!」
「いててててっ!」
寝起きにこの状況はキツい、僕の傍にいたいナナと離したいチグサの2人に腕を引っ張られて引き千切られそうだ。
「もっ!」「ぺっ!」
いつの間に来たのか、目が引き攣っているルリさんに正面からチョップを食らう二人。
「・・・・・・時間だよ」
はっ!やばい!時計を見ると18時50分。
集合時間は19時だ、僕とチグサとナナは急いで支度して待機室に急いだ。
待機室。
「お、遅かったなレイ。・・・・・・頬にキスマークついてるぞ?」
「えぇ!?」
待機室に入って早々にツルギさんにそれを指摘される、嘘マジで?さっきのナナのが?と冷や汗をかきながら頬をぺたぺたと触っていると。
「嘘だよ、なんだ?またイチャついてたのか、どほっ!!」
嘘かよ!嘘にしても当たってるし怖すぎる!しかし、彼にバチが当たったのか、ケイさんに思いっきりみぞおちに肘打ちを食らうツルギさん、彼女もちゃんと学習したみたいで頭は狙っていない、とても優しい。
「い、息が・・・・・・」
悶絶するツルギさんに、涼しい顔をするケイさんに呆れ顔のミサキさん、本当にこの三人は仲がいいな(棒)
「変なこと言わないでくださいよ」
そんな彼を横目に僕達も彼の後ろの席に着く、左にチグサ、右にルリさん、その隣にナナ。
「王子様もう痛くないの?」
ヒョイっと僕の前を通って、ツルギさんの後ろから顔を出すナナ。
「大丈夫大丈夫、心配ありがと」
「へへぇ、なら良かった」
もう彼は王子様呼びを容認してしまってるようだ、ナナって怒っても構わず使ってるもんね、そりゃ諦めるか。一方の彼女はツルギさんにありがとうと言われて無い尻尾を振って喜んでいる。
「王子様でいいんですか?」
一応聞いておこう。
「指摘するのが面倒くさくなった」
「あ、なんかすいません・・・・・・」
ですよねぇ、僕の監督不十分で申し訳ない。
「お前は使うなよ?」
「分かってますよ!」
何故か釘を刺される、使わないよ、そんな小っ恥ずかしい呼び方!
するとタイミングよくガイ大佐が待機室に現れ、僕達は姿勢をビシッと正す。
「揃ってるな、今夜の作戦の説明だ」
モニターにスイッチを入れスライド画面を表示し、そこに書かれていたのは。
『レルトン夜襲』
作戦としては単純なもので、山越えをした解放陸軍第一山岳大隊約200名でバルセル国境の街、セレクレアの南にある街「レルトン」の陸軍基地を強襲、僕達空軍もそれに合わせて陸軍指示のもと空爆を敢行。そしてその後、第一空挺旅団の第141空挺特殊作戦大隊が、第151ヘリコプター集団のCH-47と合同で100名規模のヘリボーンを強行、一時的にでもレルトンを制圧するというものだった。
文字で表せれば簡単だが、そう上手くいくのだろうか?敵の規模もいまいち分からないし。
「バルセル陸軍はセレクレア周辺及び、ローレニア国境の街ゼイセルに隣接するトロークレアに戦力を集中させている。そこで戦線から少し離れたレルトンを攻撃し戦力の分散を図りたいとの事だ、幸いササイ少佐のおかげでラプターはしばらく飛べないだろうからな」
なるほど、目的は理解出来た。
「しかし、レルトン攻略の陸軍部隊は決死隊となるだろう、レルトン奪還にセレクレアから陸軍が出発したのを見計らって総攻撃を開始する予定だ、我々もレルトンまで援護が出来ん」
そうか、そうだよね。僕達も必死だけど陸軍はもっと必死だ、決死隊の囮を使ってまでセレクレアを落とそうと躍起になっている。しかし、一応は彼らも特殊部隊だ僕達は無事を祈るしかない。
「作戦開始時刻は24時とされた、まだ時間があるがそれまでスクランブル待機、食事も済ませておくように、以上だ」
大佐は待機室から出ていった。まだ5時間もある、もう少し休めるかな。
「私、食事貰ってくるねぇ」
「・・・・・・私も」
ナナとルリさんが2人でピョンと立ち上がって部屋を出ていく。
今日も缶詰系だろう。はぁ、紛争前みたいな豪華な食事が食べたいなぁ。
●
夕食は缶パンとコーンクリームのスープ缶だった、んー、いつもの!
そろそろ栄養失調で倒れるんじゃないかと思うが、思っているより栄養バランスはいいらしく、弊害と言えばお腹がすぐに空くぐらいしかなかった。だから変に文句言えないんだよねぇ、文句言ったところで変わらないんだけどさ。
「わっ、投げるなよ」
「届かないんだもぉーん」
缶詰が入ったダンボールをルリさんが持ち、ナナがそれを渡してくれる。前列のツルギさん達にはちゃんと手渡しなのに、後列の僕には結構なスピードで投げてくるから怖い怖い。
そして、配り終えたナナとルリさんは席につき、僕達はお祈りをして缶詰を開ける。
缶の中にギチギチに詰まったパンと、黄色いコーンクリームスープ。
「毎回思うけどさぁ、スープ缶ぐらい温めて欲しいよねぇ」
文句を言うナナ、それは妥当な意見だった、冷たいとなんだかザラザラ食感だし。だけど倉庫から出して持って来ただけなのだから仕方ない、ここにはガスコンロとかもないし。整備員からガスバーナーを借りようともしたけど、それはそれで大変なのでこのままでいいか、となったのである。もうこれにも慣れたしね。
僕は缶に詰まったパンを出して膝の上に置き、小さくちぎってスープに浸して食べる。これが一番美味しい食べ方だ、パンそのままはパサパサ過ぎて喉を詰まらせてしまう。
隣で小さい口にパンを頬張って、もっもっ、と可愛く食べるルリさん。
僕の目を気にしつつ口元を隠しながら上品に食べるチグサ。
バクバクと爆速で食べるナナ、落ち着けっての。
ツルギさんの方もミサキさんが「美味しいね」と言って2人とも頷いていて微笑ましい。
「非常食はエルゲートより豪華だよな」
そう言ってスープを啜るツルギさん。え、どんなに酷いの?
「どんなのだったんですか?」
「ローレニアに侵攻した時のは、パンだけだった」
「だけ!?」
「だけ、しかも一日二食」
死んじゃう!いくら非常用の栄養がいろいろ入っている缶パンでもそれは少なすぎるだろ。まあ、大規模侵攻だったし食料まで手が回らなかったのか?それはそれでマズくないか?現代戦で餓死者が出なくて良かった。
「お腹空いたぁーん」
はい?悲壮感に満ち溢れた声でナナが嘆いている、ふと屈んでルリさんの隣のナナを見るとさっきまで詰まっていたはずの缶詰は空っぽだった。
「ナナ、お前味わって食べろよ!」
「だってお腹すいてたんだもーん」
もーんじゃないよ、どんなスピードで食べたらもう無くなるんだよ。プーっとふくれっ面をして何故か不機嫌なナナ、全く仕方ないなぁ。
「ほら、缶貸して」
「んー?」
ルリさん経由でナナのスープ缶を貰うと、僕のスープを少し分けてあげパンも半分に割ってナナに返す。
「あげるよ、あんまりお腹すいてないし」
「え、でもー・・・・・・」
申し訳なさそうに僕とあげたパンを交互に見るナナ、お腹が空いてないのは嘘だし、なんならもっと食べたい、けど今は分けてあげてもいい、そんな気分だった。
「ちょっとレイ、ちゃんと食べないとまた倒れちゃうよ?」
チグサに注意されるけど、もうあげちゃったしね。ナナの方も申し訳なさそうにしてはいるが、貰ったものは返さないぞとガッチリと握りしめている。
「まったく・・・・・・」
突然前で聞いていたツルギさんがため息混じりに言って立ち上がる。ありゃ、騒がしすぎたかな?
「ちょっと待ってろ」
ん?そう言い残して彼は待機室から出て行ってしまう、みんなでどうしたんだろうと顔を見合わせていると数分経って彼は戻ってきた、何か持っている。
「ほら」
僕を含めみんなに何かを投げ渡す、小さな袋に入ったそれは。
「「「チョコ!!」」」
みんなでそう叫んだ。
いったいこんなもの何処に隠していたんだ、悪い人だ。
「いざと言う時に取っておいたんだけどさ、今がその時かなって。味わって・・・・・・、コラ!ナナリス!!」
注意した頃には一口で食べてしまったナナ、天国に昇ってしまいそうな程幸せそうな顔をしていて空気をいっぱいに吸うと。
「あまーーーーーーーーーーいっ!!」
耳をつんざくナナの絶叫。その爆音は耳を塞いでいても鼓膜が破れそうな程凄まじく、隣のルリさんとか吹き飛んでしまいそうだった、かわいい。
「し・あ・わ・せ」
バタッ。
あ、死んだかな?
頭の上に魂が出てきてそうな程、見事に彼女は椅子にもたれて倒れてしまい動きそうにない。今日一面白い。
プププ、と堪えていると。
「あー、やっと出したんだ」
「いつ出すのかと思ってました」
ミサキさんはニコニコとチョコの袋を開けていて、ケイさんもジト目を若干緩ませている。
「え、知ってたの?」
「そりゃ、あんな大事そうにしてたらねぇ」
「剣くんの事はなんでも知ってます」
ちょいちょいケイさんの言動は怖い、それストーカーじゃない?何も隠し事ができないツルギさんをちょっとだけ不憫に思うのであった。
そしてルリさんは甘さの衝撃で死んだナナの膝上にある僕があげたパンを回収し、さも自分のものだと言わんばかりに食べようとしている。おいおい、怒られるぞ。
「ちょっとルリ!私が貰ったのぉ!」
「・・・・・・あ、生きてた」
「生きてたじゃなーーい!」
ムクッと起き上がったナナにビックと驚くルリさん、本当に死んだと思ってたの?もう何してんだよ。
「はいはい半分こ、いい?」
僕は君たちのお母さんじゃない、ルリさんが大事そうに持っていた僕が上げたパンを取ってさらに半分に割り2人にあげる。
「むー、今回だけだよぉ」
「・・・・・・ありがとう」
聞き分けが良くてよかった、ルリさんも意外とお腹が空いていたみたいだ、いつも満腹そうにしていたからてっきり少食なのだと思っていた。ナナはあげたパンをまたバクバクと早食いし、ルリさんは少しづつ食べる。リスみたいでかわいい。
「本当にお前ら騒がしいな、やるよ」
僕の前の椅子からツルギさんが振り向くと、男なのに可愛らしくニッと笑って、僕に彼の4分の1程のパンを投げ渡してくれる。
「え?」
「こんないろいろあげてるとベルツィオを思い出すっての、イッ!」
今度はミサキさんにドスっと肘打ちされるツルギさん、ちょっと痛そう。てか二人とも乱暴・・・・・・。
「ま、まあ、かわいい弟にお兄ちゃんがご飯を分けてあげる、当然だろ?」
「お兄ちゃん!?」
あまりに唐突なことで腹の底から笑いが込み上げてきて、ダメだと分かっていても今にも吹き出しそうで両手で口を押える。
「なっ!笑うなバカ!」
あんなドヤ顔で言っといて顔を真っ赤にするツルギさん、それを見てケイさんもプププと吹き出しそうだ。そんなに笑うなんて、いつも冷静沈着なケイさんが珍しい。
「お兄ぃちゃ~ん?」
あーあ、ナナが新しい弄り材料を見つけてものすごい悪い顔をしているぞ、こればっかりはしーらない。
「ナナリス!お前は言うな!」
「私も王子様のお兄ちゃんほいしぃぃぃん!」
何故かルリさんの腕を持ってブンブンと彼女を振るナナ、いつもは無表情なのに珍しく眉間にシワを寄せて迷惑そうなルリさん。さてさて、いよいよ収拾がつかなくなってきたぞ。僕知らない!
「じゃー、私はお姉ちゃんだね!」
「へ?」
ツルギさんに負けず劣らずのドヤ顔で言ったのはまさかのチグサ、状況が掴めず待機室は一瞬静まり返る。
「・・・・・・?」
当のチグサは、え?なんか変なこと言った?と言わんばかりにナナ顔負けのアホそうな顔をしている。んー、昔のよしみだフォローしてあげよう。
「そ、そうだねチグサ姉」
笑顔でそう言うと火山が噴火しそうなほど顔を真っ赤にするチグサ、あれれ、やっちゃったかな?
「なんなのよさっきの間は!それに、チグサ姉はレイも使ってもいいけど、本当の弟しか使っちゃダメぇ!」
「えぇ!どっち!?」
ポコポコと両手で殴られて意外に痛い、恥ずかしいのを紛らわそうとしてるんだろうけど、チグサ姉はやめてあげた方が良かったかな。思い出させてしまったようで、彼女の目尻には涙の様なものが見えた気がした。
「なぁに、騒がしいわね。私も混ぜてよ」
突然待機室のドアが開き、誰かと思えば、僕達のバカ騒ぎを聞き付けたのか医務官のウエリさんがやってきた。すると、ナナがめちゃくちゃ悪そうな顔をして立ち上がり彼女の隣にユラユラと踊りながら行く。
「ツルギがレイのお兄ちゃんで、チグサがレイのお姉ちゃん!」
バカ、唐突過ぎるだろ。
「あらー、じゃぁ妹は誰かしら?」
え、この一瞬で状況理解したの?ウエリさんはオホホと頬に手を置いて辺りを見回していると。
「んー、ルリ?」
首を傾げながらいつものアホそうな顔でルリさんを見るナナ、いや、歳的にお姉ちゃんです、幼女(歳上)なんです。案の定ナナはルリさんに睨まれてしまい。
「違うみたいです!」
と、敬礼してウエリさんに報告していた。なんで、今日はそんなに面白いの。
「まったく、なんの話をしてるのよ」
話を合わせただけで状況は分かってなかったみたいだ、ウエリさんは笑いながらケイさんの隣に座る。
「ナナリスさんはレイくんのなんなの?」
突然ハッとしたウエリさんは彼女もまた悪そうに笑いながらナナに聞く、んー、嫌な予感がする。
てか、変に頭が働く人が多すぎ。
「え、お嫁さん」
「ぶっ!」
スープを啜るんじゃなかった、見事にぶちまけてしまう。ツルギさんにかかってないかな?
「ちょっと、レイのお嫁さんは私よ!わーたーし!」
「えーん、チグサはお姉ちゃんでしょぉーん!」
「それは例え話よ!」
「よーくーばーりーぃ!」
僕をまたいでナナとキャットファイトを繰り広げるチグサ、もー、ウエリさんが爆弾ぶっ込むからぁ。と、爆弾を投下した当の本人を見ると爆笑している。
「もっ!」「ぺっ!」
お、ルリさんが椅子の上に立って、本日二度目のいつものチョップで二人を鎮める。言ってやってくださいルリさん、ちょっとは静かにしろと!
「・・・・・・レイのお嫁さんは、私」
ドヤァァァ、じゃねぇよ!火に油注いでどうすんの!?
当のルリさんは腰に手を当てて言ってやった、ぐらいにしか思ってないようだけど言われた二人の目付きがやばい。
当然の如くバトルが始まるわけで。
僕知らない!何がどうなっても知らない!
「なになに、あの子たち面白いわね」
ウエリさんはご満悦、ツルギさんはこめかみに手を当ててため息をつき、ミサキさんとケイさんは遠巻きに見て笑っていた。
これはこれで戦争が終わった後も思いやられるな・・・・・・。




