第70話 立派な隊長
深青色のライトニングⅡのツルギさんと、純白のラプターのシロサキがとんでもない機動で空を飛んでいる。
それは本当に見とれてしまうほど素早く、可憐で周りに実力の差を見せつけていた。
《えぇ、ヤバ、見えないんだけど》
《あれでどっちも被弾してないって・・・・・・》
ナナもチグサも驚愕、それに僕なんかが、援護します!なんて言える空気でもなく、ただ様子を見て周りを旋回することしか出来ない。もちろん、他の戦闘機が来てないかの確認は怠っていない。
一方、ミサキさん達も完全に入るタイミングを逃したみたいで、いつでも援護できるようにとつかず離れず絶妙な距離で待機している。
《あっ!》
戦況が動いた!
シロサキがミサイルを放った瞬間にツルギさんはコブラでギリギリ回避してみせ、見事にラプターの後ろにつくが撃たれたミサイルは弧を描いて戻って来ているような・・・・・・。
《ツルギさん、危ない!》
バララッ。
と、一瞬ツルギさんは機関銃を撃つがすぐにその存在に気付き、フレアを使いクルクルッと回ってミサイルを回避、ツルギさん目掛けて戻ってきたミサイルはフレアに目標を換えて爆発する。ツルギさんも使っていた全方位探知式のミサイルか、精度が良くないと言えども直撃コースだった、危ない・・・・・・。
ふーっと、胸を撫で下ろしているとラプターの主翼から白い煙が出ているのが見えた。
当たったのか?
《くっ・・・・・・、深追い無用、一旦帰投する》
ああ、無理したからキズが痛むのか、歯を食いしばったように喋るツルギさん、こればっかりはなんとも言えない。
するとラプターの方も反転してバルセルへと帰っていく、主翼ということは燃料が漏れてるのかな?よく引火しなかったな。
そして、続々とツルギさんの機体の元へとみんなが集まる。
《大丈夫ですか?》
《・・・・・・痛い、横になりたい》
なんかもう自分の命を削って戦ってくれているようで本当に申し訳ない。でもツルギさんがいなかったらさっきの空戦、一瞬で僕達が負けていたと思う。てか、片目だけであんな機動ができるんだったら両目が見えてたら勝ててたんじゃないだろうか?まぁ、無いものねだりか・・・・・・。
《帰りましょう》
とりあえずはツルギさんの体調が心配だ、僕達は基地へと急いだ。
●
基地につきキャノピーを開くも、ツルギさんは片目を押さえたまま出てこない。
ミサキさんと、ケイさんがタラップを昇って確認すると痛くて動けないとの事。そんなに無理させちゃったの!?と下で僕達4人がアワアワしているとミサキさんに肩を貸してってツルギさんが降りてきた。
「いてて・・・・・・、ごめんな大丈夫だから」
謝るのは僕の方だ、また無理をさせてしまった、いくら僕達では対応できないにしても心が痛い。それに、大丈夫と言っても片目を押さえて痛みのせいか顔を顰めるツルギさん、とても痛々しかった。
《ーーアスール大尉、司令室までーー》
僕だけ呼ばれた、なんだろう、一人とか嫌だなぁ。
ツルギさんのことはミサキさん達に任せて僕は司令室に走った。
司令室。
「陸軍から連絡があった、対地攻撃に感謝するとの事だ」
ホッ、なんだその事か良かった。
「そしてしばらくは陸軍がカルシューレ方面を対応する。しかし、夜に違う作戦への参加を頼まれた。山岳部隊がアルサーレの山を越えてバルセル山裾の街、レルトンに夜襲を仕掛ける、その対地支援だ」
レルトンか、アルサーレの山道を越えてセレクレアの隣街の名前だが、一応それなりの陸軍は展開しているらしい。そこを山越えした山岳部隊が陽動のために攻撃、空軍もそれに続いて欲しいとの事、市街地爆撃とかあまりしたくないがこれは戦争だ仕方ない、そう割り切るしかないんだ。
「また攻撃要請が来るかもしれんが夜までゆっくり休んでくれ、19時までに待機室に集まっておくこと。以上」
話は終わり、僕は敬礼して司令室を後にした。
ツルギさんはどこに行ったかな?とりあえず部屋に行ってみよう。
プレハブのツルギさん達の部屋に向かい、ドアの前に立つとコンコン、とノックする。
「はーい」
ミサキさんの声だ、ここで正解だった。
「レイです、入ってもいいですか?」
「いいよー」
ガチャっとドアを開けるとベッドで横になり痛そうに頭を押さえているツルギさんが最初に見え、ミサキさんとケイさんは奥のベッドで心配そうに彼を見守っていた。
「おお、レイ。なんの話しだった?」
ツルギさんは僕を見ると、目を顰めながらも口元をニッと笑わせて聞いてくる。
「夜まで休めます、19時に待機室集合でそれから陸軍の山岳部隊と合同でレルトンという街を攻撃します。詳しくは待機室で説明されると思います」
「そうか、ありがとう」
僕から目線を離して天井を見つめるツルギさん。
僕は彼が横になるベッドの縁に座る。
「どうした?痛み止めは貰ってる、ちょっと休めば大丈夫さ」
不安そうに様子を伺う僕の気持ちがわかっているかのように、また彼はニッと笑って言ってくれる。
「はい・・・・・・」
シーツを掴み何故かギュッと力が入る。
怪我をしているツルギさんにこれ以上頼るのも良くないと思いつつも、頼らないと戦うこともままならない、無理して欲しくないが無理をさせてしまう、僕はどうしたらいいんだろう。いろいろな考えが頭を交差する。
「なぁ、レイ」
「なんですか?」
俯いていた顔を上げると、彼はよいしょっと言って体を起こす。ちょっと!と水咲さんに怒られているがお構い無し。
「チョコワッフルがめっちゃ美味い店を知ってるんだ、今度一緒に行こうな」
普段死亡フラグを言うなって言うくせに、ここぞとばかりにそう言って僕の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でてくれる。何故彼は今そんな話をするのだろうか、僕には分からない。でもチョコワッフルかぁ、しばらく甘い物とか全然食べてないからお腹いっぱい食べたいなぁ。
「約束ですよ」
「ああ」
僕は彼の手を握る、僕の手より少し冷たい。
「最近スキンシップが多いな、人肌でも恋しいのか?」
「なっ!違います!」
可愛い顔して今度は悪そうに歯を見せて笑うツルギさん、僕は慌てて握っていた手を離し立ち上がる。
「大丈夫大丈夫、いつでも抱いてやるか、どふっ!!」
なんて破廉恥な事を言うのかと思ったら、言い切る前に無表情のケイさんに枕で思いっきり後頭部を叩かれるツルギさん。ちょっと、頭はヤバイんじゃないだろうか。
「いっーーーー!啓、頭は、やめて・・・・・・」
「あ、すみません・・・・・・」
案の定振動が怪我に響いたようで、頭を抱えて悶絶するツルギさんに、いつもの感じでやってしまい我に返って慌てて介抱するケイさん。咄嗟攻撃でもね、あれは痛いよ。ミサキさんも、やれやれ、と困り顔だ。
ちょっと話を変えてあげよう。
「てか、さっきの空戦凄かったですね!一瞬で8機も落とすなんて!」
「だろ!いやー見事に決まって良かったよ。啓も分かっててくれてたし、水咲さんのタイミングもバッチリだった」
痛いのを忘れてしまったのかバッと顔を上げて、子供のようにテンションが高くなるツルギさん。まあでも、あれを真似しろって言われてもぜったいできないと思う、彼ら3人の信頼関係があってこそだ。
「啓のコブラが意外に綺麗で驚いたよ」
「いえ、・・・・・・ありがとうございます」
なんだか嬉しそうにジト目を逸らせて頬を赤らめるケイさん、かわいい。
「ラプターってあれ当たったんですか?」
「ギリギリ1発な、あの後無理な機動で避けたから頭が取れそうなぐらい痛かった」
ハハハと笑うツルギさん、笑い事ではないと思うんだけど。もしラプターが被弾してなかったらそれそこ返り討ちにあっていると思う。恐ろしい。
「もう、考えて行動して下さいよ」
無理するなって言っても彼は無理するし、もう少し考えて飛んで欲しい、かな。後先考えて飛んでいるのかまったく分からない。
そして僕の言葉に、また笑うツルギさん。
さてさて、大丈夫そうだしそろそろおいとましようかな。
「じゃあ、そろそろ戻りますね」
「あ、ああ、ゆっくり休めよ」
貴方がね、とは思うも言いはしない。ミサキさんは相変わらずの太陽のような笑顔で手を振ってくれて、ケイさんも申し訳なさそうにお辞儀をして見送ってくれた。
そして自分の部屋に戻る。
中に入るとナナの煩いお出迎え。チグサとルリさんはチグサのベッドに並んで座っている。
「レーイッ!遅かったね、何の話しだったぁ?」
「あー、ツルギさんの所寄ってたから」
「そっか!大丈夫そうだったぁ?」
僕は自分のベッドに座るとナナはさも同然と自分のベッドではなく僕の隣に座り、3人とも僕の方を向く。んー、ナナを睨むチグサの顔が怖い、喧嘩しないだけまだマシか。
「ツルギさんは大丈夫そうかな。それで、19時に待機室に集合でそれまで休みだよ」
靴を脱ぎながらそう言ってナナを躱し、背伸びをしながら僕はベッドに横になった。
※
あれ?寝ちゃった??
休みだよ、と言ってベッドに横になった瞬間、レイはスースーと寝息をたてて眠ってしまった。
隣に座ってたナナリスが右頬をつんつんと突っつくも全く反応なし。
「え、ヤバ、はやっ」
えぇ、と驚愕する彼女。もはや寝たと言うよりも気絶に近い、大丈夫なのかな?
「ほら、ゆっくり寝かしてあげなさいよ」
「えーん、おやすみのちゅーするぅ」
「ダメ!」
レイから離れようとしないナナリスを無理やり引き剥がし、掛け布団を彼にかけてあげる。
頬のキズが痛々しくてテープをなぞるように頬を触る。男のくせに私より肌触りがいい気がする、羨ましいな。
そして何故か私のベッドに3人で座り、レイの様子を見ている。
「ちょっと、自分のベッドで休みなさいよ」
そう言っても2人は反応無し、ルリは足をブラブラさせ、ナナリスは膝に肘を置き手のひらに顎を乗せて2人してレイの寝顔を見ている。
「すごいよねぇ・・・・・・」
「え?」
右隣のナナリスがボソッと言う。
「レイって難民だったんでしょ?それがさ、一生懸命訓練してさ、アサギさんの下で頑張ってさ、私たちの隊長してさ、それに大尉になってさ、スゴすぎるでしょ」
左隣のルリもうんうんと頷く。
確かにそう考えたらスゴい、いや、スゴいでは足りないぐらいレイは頑張っていた。つい最近まで訓練生で早く一人前になってよねと言っていたのに、気がつけばあっという間に抜かされているし、ただでさえ隊長という責任を伴う役職なのに文句も言わずに続けている。これもアサギさんが見込んで、厳しく育て上げられたたまものなのだろうか。
「レイは、立派だよ。近くで見てきた私が一番分かってる」
これだけは譲れない、ナナリスよりもレイのことは私が一番よく知っている。
泣き虫なところは治らないけど、以前よりずっとカッコイイ目をしている。
私はそんな一生懸命なレイが好きだ。
まあそうは言っても私、レイに一目惚れしてたんだけどね。あの時から。
「・・・・・・レイを、よろしく」
「え?」
ルリがすごく小さな声でそう言うと私のベッドからピョンと飛び降り、自分のベッドへ走っていき飛び乗って布団を被ってしまう。
「何よルリ、別に死ぬわけじゃないんだから・・・・・・」
苦笑いしながらもルリに話しかけるが、彼女は布団を被ったまま動かない。
嫌な空気が流れて、ナナリスとどうしようかと顔を見合わせていると。
「・・・・・・誰がいつ死ぬか分からない、頼めるうちに頼んどく」
「ルリ・・・・・・」
そんな事言わないでよ・・・・・・。
「じゃー、私も頼もっかなぁ。その代わり!私が生き残ったらレイの事は任せてねぇぇ」
ニヒヒと笑うナナリス、二人ともどうしたのさ。私だってこの戦争に生き残る自信なんてないし、レイを守れる技量も無い、ここまで生き残れたのは本当にたまたまだ、頼まれる筋合いも無いし、頼まれたくもない。でも。
「任せて」
そう言うことしか出来なかった。
任されてなるものか、レイは私のものだけどみんなでこの戦争を生き残るんだ。
みんなで普段は全然頼りないレイの面倒を見るんだ。
みんなで笑って楽しくお酒を飲むんだ。
みんなで桜の花を植えるんだ。
「でも、・・・・・・死んじゃダメだよ」
こんな重い話をしていても、レイは可愛い顔をして眠っていた。




