第63話 思惑
僕は医務室に来ていた。
「イテテッ!」
「男の子なんだからじっとしてなさい」
なぜここにいるかと言うと、ウエリさんに会いに、ではなくあの時キールさんが撃った銃弾が掠めて頬を怪我をしたのだが、その傷が跡にならないようにテープを貼っていてその交換のためだ。
被れないように消毒されてるのだけど、意外と染みて痛い。
「まったく、男の子はこういう怪我好きよねぇ」
うん、まあ、こういう怪我があったら少しカッコイイと思ってしまうのは男特有のものだと思う、なかなかに厨二病臭いし。
チグサとかは跡が残ったらと心配してくれたが、本人としては残ったら残ったで別にって感じだ。
「えぇ、カッコよくないですか?」
「貴方、あと数センチズレてたら死んでるのよ?」
「そうですけど・・・・・・」
それは言わないで欲しい、服の袖から拳銃が出てきた時はそりゃもう、ていうか何も考える暇がなかった。
ツルギさんが躊躇なく放った銃弾はキールさんの手の中にある拳銃に見事に当たって弾いたのだが、キールさんが撃ったのもほぼ同時、いや、ギリギリツルギさんの方が早くて射線が逸れた。あとコンマ1秒ツルギさんが遅かったら死んでいる、考えただけでも身震いしてしまう。
俯いて黙っていると、少し乱暴に白いテープを頬に貼られた。
「痛い!」
「死んだら元も子もないんだからね、はい、終わりよ」
「分かってますよ・・・・・・、またお願いします」
「別に私じゃなくてもあの子達にやってもらっていいのよ?」
それは御免だ、絶対私がやる私がやる、と取り合いになってそれどころじゃなくなる。
「いえ、逆に時間かかりそうなんで」
「そう?じゃ、またおいで」
一礼して僕は医務室を出ると。
「うわっ!びっくりした!」
出るとすぐ目の前にルリさんがチョコんと佇んで待っていた。座敷わらしかと思ったよ、心臓に悪い。
「・・・・・・行くよ」
「え?どこにぃ!?」
ガシッと手を掴まれて、ちょこちょこと走るルリさんに連行されて行ったのだった。
待機室。
なんだ待機室かよ、何処に連れていかれるのかと思った。
僕が到着するとちょうどオメガ隊の3人もやってきた。
「レイ、まだそれ取れないの?」
チグサが覗き込んで頬に貼られたテープを見て心配してくれる。
「もうちょっとかかるって」
全治一、二週間と言ったところ、そんなすぐには治らないよ。
「でも、なんかカッコイイねっ!」
「いたっ!バカ触るな!」
「ごーめーんー」
何も考えずつんつんしてくるナナ、そこまで痛くはなかったけどこういうのはちゃんと怒っておかないと後が面倒だ。少しキツめに怒ると、謝りながら僕の腕をブンブンと振る。
「ごめんな、もうちょっと早く反応できてたら撃たせなかったんだが。やっぱブランクって怖いな」
そして、僕が座っている椅子の後ろから顔を出すツルギさん。
ごめんなって言われても、あれを防ぐことができたんだから凄い以外の何物でもない、と言うか拳銃の精度が凄すぎる。あの時のツルギさんの目は眼力だけで人を殺せそうなほど鋭く、今までで一番カッコよかった。
「いや、それでもツルギさん凄すぎますよ。あの距離でピンポイントで当たります?普通」
20メートルは離れていたと思う、それをさも同然のことのように当てて見せた彼、小銃ならともかく拳銃なのだ。空でも陸でも理不尽という言葉が似合うのか。
「ん?ああ、昔嫌ってほどやらされたからなぁ、当然当然」
ニヒヒと笑う彼、昔?ああ、言っていた王家直轄部隊にいた時かな?どんな訓練をしたらそんなことが出来るのか、あまり追求しない方が良さそうだ。
「お前が死ななくて良かった良かった」
「ちょっ!」
そして、僕の髪をくしゃくしゃと撫でたと思えば彼は自分の席に戻って行った。
「ねーねー、私、王子様が何してたのか見てないんだけどー」
ああ、ナナは何も知らずに裏方に回ってくれてたんだった、そりゃ見てないよね、キールさんの仲間を連行して登場する前の話だし。
「キールさんが僕に斬りかかったナイフを拳銃で撃って弾き飛ばして、袖から出した拳銃も弾き飛ばしたの」
簡単に説明する、言ってる本人もよく分からない状況だけど。
「なにそれヤバーイっ!さすが王子様!」
んー、王子様関係あるのかな?っていうかもう王子様呼びが定着している、ツルギさん怒らないかな・・・・・・。
そうこうしていると大佐が入ってきた。
僕達は話をやめて席に座る。
「さて、まずは改めてオメガ隊の諸君、ようこそ自由グレイニア解放空軍トモパーレ飛行場へ。もうわかってると思うが騒がしい者ばかりだ、早く慣れてくれ」
なんか最近大佐まで弄ってくるようになってきた気がする、さすがに文句は言えないので黙っておこう。
「これからの方針についてだが、皆も知っての通り、ローレニアがバルセル国境付近に軍を展開しつつある、真意は不明だがローレニアの事だ、何かしら考えているのだろう。我々の飛行場にも時々偵察に来ているようだ、そうだろ、ササイ大尉?」
大佐に話を振られるツルギさん、どういう事?と彼を見ると、立ち上がって前に出たと思うとモニターに映し出されたのは5機の戦闘機。
「暗灰色、ローレニアの戦闘機、この前レイ達がセレクレア攻撃に出ていた時、この基地の上空に来ていたのを俺が対応した時の写真だ」
えっ、そんなことあったの?全く知らなかった。
「この最新鋭機Su-57は主翼の端が赤色に塗られている、王家直轄近衛飛行隊のマークだ。この機体の後ろにいるのは大きさからして無人機、隣のSu-37は通常の部隊だと思う。俺が対応に上がった時は敵対行動を取らなかったから特に何もしなかったが、要件は不明」
偵察機でもない最新鋭戦闘機を使ってローレニアは何がしたいのだろうか、ステルス性能が高いからと言ってもツルギさんに見つかっている、謎が多い。
「はいはーい!」
ナナが珍しく手を挙げて質問する。
「王家ってことはー、あのフェロンは王子様の親戚?」
みんなの前で王子様呼びはやめてあげて、ホント悪気が全く無いのがタチが悪い。
「王子様はやめろっての!・・・・・・んー、部隊マークを見る限り、従姉さんかなぁ・・・・・・」
怒りつつも答えてあげるツルギさん、優しい。
彼はSu-57の垂直尾翼を拡大する、そこには鳥のようなマークがある。画質が悪くてハッキリとは分からないがこれが部隊マークかな?
「従姉さん?」
ナナが筆頭にみんなが首を傾げる。
「そう、ローレニアの第2王女。多分な!」
「王女様!!」
目がキラッキラするナナ、でもなんで一国の王女がこんな戦線に?あ、前の紛争でも国王が来るぐらいだからローレニアはそれが普通なのかな?
「ん、待てよ?」
急に深刻な顔になって顎に手をやるツルギさん、どうしたのかな?
「仮にあれが従姉さんだとしたら。俺、探されてる??」
凄い不安そうな顔でこっちを向くツルギさん、僕達に聞かないでください。
えぇー!まずいまずい!と自分の頭をガシガシと掻き、さっきまで冷静だったのが嘘のように情緒不安定になる彼、どうしたんだってばよ。
「従姉さんにバレたってことは、兄さんにもバレるってことで・・・・・・」
ああああ、と声を震わせこの世の終わりの顔になって自分の席に戻る、ちょっと!自己完結しないで説明して欲しいんですけど!
「よく分からんが、ローレニア機はササイ大尉を探しているのか?」
「・・・・・・あ、はい、多分・・・・・・」
大佐も困惑気味、あー、まあ納得はできるかな?国王様が王女様を使って元王子を探している。いや、そう簡単に納得はできない、そんな壮大なこと。てか、大佐ってツルギさんが元王子なの知ってたっけ?
「見つかったらヤバいんですか?」
放心状態となっている彼に容赦なく聞いてみる。
「お前、俺を殺そうとした人だぞ、探されてるなんて生きた心地がしねーよ!」
「ありゃま」
あら、僕の命が狙われてるのが終わったと思ったら、今度はツルギさんの番?
「ありゃま、じゃねーよっ!もー!放っといてくれると思ってたのにぃー!」
ダメだ、完全に壊れてしまっている。頭が取れそうなほど頭を掻きまくるツルギさん、取り乱しすぎだとも思うけどそれだけ怖いのか。
すると隣に座って黙っていたケイさんが取り乱しているツルギさんの手を握り、彼は「え?」と黙る。
「剣くんは私が守ります、二度と落とさせはしません」
カッコイイ!ケイさんの顔には使命感が満ち溢れていて、誰も寄せ付けない、そんな気迫が感じられた。
いいな!僕もあのぐらい強い人に守って欲しい、羨ましそうな瞳で見ているとチグサに睨まれているのに気がついた。相手にすると何を言われるかわかったもんじゃない、すっと目を逸らした。
「とりあえずは解決でいいかな?」
大佐の声にツルギさんではなくケイさんが力強く頷く。
「じゃあ次だ、バルセル国内の情勢についてだがタバルニアが反戦工作をしているらしい、南岸爆撃でもそこまで上がらなかった反戦の声が最近大きくなってきていると」
各国の思惑が渦巻いているようだ、グレイニア南のゾール湾を挟んで対岸にあるタバルニア共和国、あの国は永世中立国を名乗っているがバルセルと隣接していることもあり、隣で戦争をしているのを良くは思っていないはずだ。グレイニアかバルセルかどちらかに工作をするとなるとそれはバルセルになる、いくら中立国と言えどもバルセルが勢力を増すのは面白くないはず、それこそグレイニアに負けてもらっては困るだろう。
「確認しようにもタバルニアはしらを切るだろうからな、上手くやってくれるのを祈るしかない」
長期戦になれば単独では勝機の無いこの戦争、各国の思惑が合致したらどうにかなるかもしれない、少しの希望が見えた気がする。
「そして最後に、解放陸軍本部からの情報だ。各地国境防衛に展開していた陸軍戦力をカルシューレへ招集中、全戦力を戦線へ集めている。この事が分かるか?」
大佐は僕達の顔を見回す。
僕は分かる気がしたが分かりたくなかった。
「ローレニア、タバルニア、エルゲートの状況にもよるが一世一代、最初で最後の大反攻作戦を行うと息巻いている。バルセル侵攻、これが失敗すれば我々の負けだ」
正規空軍戦力はたった6機だが今飛べるのは4機、それにエルゲートの援軍を加えても10機、陸軍には意見できないのだろうけど、そんな作戦成功するのかな。
ボクはそれを聞いても意外と冷静だった。
「これについては他言無用、・・・・・・まあ言う相手はおらんか。以上解散」
ガイ大佐は書類をまとめて出ていく。
僕達は座ったまま、誰かが立つまで立たない立てない。
しばらく沈黙が続いていると僕は立ち上がりクロキさんの元へ行く。
「こんな大変な時に来てもらってすみません」
「いやなに、俺は大丈夫さ、もっとヤバいのを経験してる」
そう言ってくれてありがたい。
「これは勝つしかないですね、笹井さん」
「ん?俺は元々そのつもりだけど?」
いつの間にか少し冷静さを取り戻したツルギさんはクロキさんの言葉にハハハと笑う、やっぱり彼は頼もしい。
もはや彼がいないと成り立たない部分もある、ツルギさん居ないと僕死んでるし。
しかし、そう簡単にことは運ぶのだろうか、不安しかない。
《ーー敵機探知、方位260、数10、当基地に向かっている模様、稼働全機出撃せよーー》
「さーて、お出ましだ!」
パンパンと手を叩き、ツルギさんの掛け声でみんな立ち上がってミーティングルームを駆け出る。
各人それぞれの格納庫に走り準備を行う。
《ブルー1からグレイ、先に上がるぞ》
《グレイ了解、すぐ上がります!》
さすがツルギさんたちだ一瞬で準備を終えて格納庫から出て、僕達の入る格納庫の前を横切っていく。
《ブロッサム1準備よしっ!》
《グラム、よし》
《エレイン、いけるよー!》
《グレイ了解、滑走路まで進出》
僕達が格納庫を出るとすぐにオメガ隊も動き出す。
《オメガ隊、グレイ隊に続く》
ブルー隊の3人が轟音を響かせ上がった、すぐに滑走路に並ぶ。
《ーーグレイ隊離陸許可、オメガ隊はグレイ隊に続けーー》
4機で間を空けてダイヤモンド隊形で並び、エンジン出力を上げて滑走路を走る。
なんてことない、いつもと同じ、上空を旋回していたブルー隊と合流、続いて上がったオメガ隊と一緒に西の空へと向かった。




