第35話 不審な敵
9月2日。
自由グレイニアには隣国、否、敵国バルセルに進軍する能力もなければ、する理由もない。
言わば専守防衛だった。
バルセルが攻めてくるにしても、陸は山脈に1つある道を通ってくるしかなく、空挺部隊は僕達が健全であれば恐るるに足らない。
大部隊で攻めてこられたらキツイけど・・・。
《ブルー2、フォックス3!》
そんな時はブルー隊の彼女たちだ。エルゲートから来た援軍の彼女たちの腕は凄まじく、ルリさんが怖がるほど。
なんか、ルリさんが怖がると凄い強いという基準ができてしまっていた。
F-35の性能も凄いもので、あんなの無理だろって体勢でも敵機を撃墜していた。
今日もバルセル機が6機飛来したが僕が手を出す間もなく、アサギさん、ルリさん、ミサキさん、ケイさんが1機づつ撃墜し残りの2機は撤退して行った。
●
アルサーレ飛行場。
「んー、出番がない」
僕はいつものベンチに座り、腕を組み悩んでいた。
F-35はあまり足が速くない、僕達F-15が先に会敵して後から加わるといった感じで戦っているのだが、合流した瞬間に一瞬で敵機を落としていく。さすがは噂のイエローラインなのだけど、僕としては活躍できずあまり面白くないのが本音だし、アサギさんにいいとこを見せたかった。
開戦時に比べたら、僕も比べ物にならないぐらい強くなってる訳だし。
「んー・・・」
どうしたものか、アサギさんは大佐に報告に行ったっきり帰ってこず、チグサは機体の整備をしていて、ルリさんやアヤメさんの姿も見えない、1人で悩む。
「まあ、もっと上手くなればいい話なんだけど・・・」
自分で言って思わず笑ってしまう、それしか解決策がないからね。仕方ないね。
「誰かと思ったらレイくんか」
「ほえ?」
僕の隣にあまり見慣れない人が座る、ミサキさんだ。
どうしたんだろう?ケイさんの姿は見えないけど。
めちゃくちゃ美人のミサキさんが僕の横に座り、ちょっと緊張してしまう。
「ど、どうしたんですか?」
「うん、ちょっと気分転換」
そう言うと彼女は、目線をやや上げて空を見つめる。
「雲が多いね」
「は、はい」
なんか返事がぎこちなくなってしまう、どうしたらいいんだってばよ。
「そんなに緊張しなくていいよ」
彼女は僕の頭を優しく撫でる。
「ちょっ!」
案の定跳ねてしまう僕の髪の毛、そんなにスキンシップされると勘違いしてしまいます!僕は恥ずかしさを隠すために慌てて髪の毛を押さえる。ミサキさんは「あっ」と、驚くとクスクスと笑っていた。
僕はむーっと頬を膨らます。
「ごめんごめん」
やっべ、可愛すぎ、惚れそう。
邪なことを考えてしまい、たまらず頭をブンブンと振る。こんなのルリさんに見られたら、どうなってしまうことやら。
「・・・・・・何してるの?」
意識せずとも背筋がビシッと伸びる、なんもしてないのにチビりそうになった。恐る恐る振り向くと、蒼いジト目を僕に向ける幼女(年上)の姿が、心臓に悪すぎる。
「へ?べ、別になにも!」
「・・・・・・ふーん」
自分で聞いといて興味無さそうに流されると、ちょこちょこと回り込んで僕の膝上、定位置にちょこんと座る。
「仲良いんだね」
ミサキさんがニコニコしながら僕とルリさんを見る。
「まあ、なんというか・・・、いって!!」
仲いいのかな?返事に困っていると、内ももに激痛が走りルリさんを突き飛ばしそうになる。いつものルリさんの仕業なのだが、なんだかいつもより痛い。
「ルリさん!?」
「・・・・・・別に」
なんで怒ってるの!?仕方ないなぁ。
「仲良しです!」
ルリさんを抱き寄せて笑顔で言うと、肘の上の彼女はご満悦そうに両足をパタパタさせている、なんなんだよもー・・・。
それを見ていたミサキはまたクスクスと笑う、笑顔の多い人だなぁ。
「レイくんは、パイロットになってどのくらいなの?」
「え?んー、1年とちょっとです」
「そうなんだ!操縦、上手だね」
「そんなことないですよ」
謙遜するが、ちょっと嬉しい。本気のアサギさんやルリさん、ましてやあの人、ソラさんに比べたらまだまだひよっこだ、話にならないと思う。
「そう言えば男の人ってレイくんしかいないの?」
「あー、庁舎に何人かいるみたいですけど、パイロットは僕だけです」
他の男性はほとんど鉱山で働いていて、他は陸軍の方に取られていた。ここの基地にいる他の男性も身体が悪いとか何かしらの事情がある、空軍まで手が回らない、僕はたまたまというか、特別だった。
「へぇ、すごい!」
そんなに褒めないで!調子に乗ちゃいます!
もうなんかニヤニヤが止まらない、これがアサギさんが危惧していたことなのか・・・。
「何してるのー?」
今度は機体の整備を終えたのかチグサが格納庫からやってきた、例のごとく飛行服の袖はたくし上げ、ジッパーを胸の下まで開け、黒いインナーの下の胸の膨らみが普通に見える。
「どこ、ニヤニヤしながら見てるのよ!」
「ばっ!ちっげーよ!」
チグサは、わざとらしく頬を赤らめながら胸元を両手で隠す、見てはいたがニヤニヤしてたのは違う理由だ、誤解も甚だしい。
「痛いっ!!」
もうてんやわんやだ、またルリさんに内ももを抓られる。ミサキさんもいるんだからちょっとは自重して欲しい。
当のミサキさんは口を片手で押さえて笑いを堪えている様子だが、目尻には涙のようなものが見えた、笑い泣きではなさそう。
「ミサキさん?」
「あ、ううん、大丈夫。なんでもないよ」
なんでここにはこうも訳ありの人が集まるのだろうか。彼女はニッコリと笑って袖で涙をゴシゴシと拭く。
「面白い人たちだね、みんないい人そうでよかった、改めてよろしくね」
ニッコリと笑うミサキさん、その笑顔は眩しくて見ていられなかった。
「あと、啓ちゃんはあんな感じだけど本当はいい子だから、今はそっとしておいてあげて」
「え?あ、わかりました」
1番機の事を聞いて泣き出してしまったこと、それにものすごい暗い事を考えるとそういうことなのだろか。
最も信頼する1番機が撃墜されて悲しくないわけなんてない、ミサキさんも無理に明るく振舞っているはずだ。もしもボクの1番機、アサギさんが撃墜されたら・・・、僕は正気を保っていられるだろうか・・・。
いやいや、なんてことを考えているんだ。彼女が落ちるわけなんて・・・。
無いとも言いきれない。
いつか彼女に言われた。
「お前も死ぬかもしれないし、私も死ぬかもしれない」
紛争の時はたまたまみんな生き残った、本当にたまたま。
この国にバルセルと戦い抜く力なんて残ってない。
考えれば考えるだけ、悪い事ばかり考えてしまう僕。
なんで、どうしてこんな目にあっているのか、早くなんの争いのない世界で自由になりたい。
「レイ」
「へ?」
自然に俯いていた目線をあげると、アサギさんが首を傾げて立っていた。
背は自分よ高くて、飛行服をピシッと着こなし、体格もスラッとして色んな意味で良い、そして、キリッとした顔立ちで、焦げ茶色のショートボブがとてもカッコカワイイ。のだけど、めっちゃ怖いアサギさん。
「なんで泣いている?」
「え?」
頬を触ると濡れていた。
膝に乗っていたルリさんは、慌ててそこから降りて僕の内ももを摩ってくれるが抓られたのが痛くて泣いているわけじゃない。
シンとの約束が守れるかの不安に、押しつぶされそうだった。
僕は無言で立ち上がりアサギさんに抱きついた。
「ちょ、どうした?おい?」
あたふたするアサギさん、僕はお構い無しに抱きつく手に力を入れる。
「なんだ?ストレスか?」
ストレスと言われればストレスだ、しばらくこうしていたい。チグサがルリさんか分からなかったが、誰かが背中を摩ってくれている。
「あらあら、赤ちゃん返りかしら?」
「違いますっ!」
いったいいつ現れたのか、アヤメさんに弄られ、慌ててアサギさんから離れ顔を真っ赤にして否定した。
僕は涙目だったが、みんながそれを見てて笑う。
「もー!」
地団駄踏んでちょっと怒るが。
「心配するな、約束は出来んがな」
「ええ、大丈夫よ」
「・・・・・・うん」
「レイ、心配しすぎぃ」
みんなどっからそんな自信が出てくるのか、不思議で仕方ない。
だけど、信じるしかない。
「・・・・・・ミサキさん」
おや、全員集合だ、ケイさんも現れた。
「あ、啓ちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・はい」
部屋で休んでいたのか、なんだか病的に痩せてるし大丈夫なのかな?ケイさんはミサキさんの問に答えると僕に目線を向ける、目に光のないジトッとした目。それは悲しさに満ちていて、なんて声をかけたらいいのか・・・。
にしてもルリさんになんだか雰囲気が似ている、似ている・・・、なんか引っかかるんだよなぁ・・・。ジト目だから?わからない。
「ん?レイくんがどうかした?」
「・・・・・・いえ、何も」
ぷいっと目線を逸らすケイさん、なんだろ?まあ、気にしても仕方ないか。
《ーー目標探知、グレイ隊、ブロッサム1、準備出来しだい離陸せよーー》
ああ、またかよ!指定されたアサギさんと僕、チグサは戦闘機に急いだ。
「頑張って!」
ミサキさんは手を振ってくれ、僕も軽く振って返した。
●
僕の斜め右前方にアサギさん、右側にチグサとデルタ隊形で飛んでいた。
今回はいつものバルセル機とは違うよう。
《グレイ1から各機、目標のレーダー感度が弱い、無人機と思われる、注意しろ》
バルセルも無人機を持っているのか、まあ、今のご時世どこの国も持っているか、有人機だと消耗が半端ないし。
目前に敵機を視認した、1機のみで戦闘機とあまり大きさは変わらないと思うけど・・・。
なんだろう偵察機かな?
《ん?無人機ではないな》
大きさ的にも無人機ではなさそうだし、形的にも偵察機ではなさそう。
ビ、ビ、ビ・・・。
敵のレーダー照射を受ける。
戦闘機に間違いない。
《ステルス戦闘機だ!ブレイク!》
アサギさんの酷く焦る声、ステルス戦闘機ということはF-14でもF-4でもないということだけど。バルセルの主力戦闘機はそれしか聞いたことがない、いったいなんなんだ。
《グレイ2、了解!》
《ウィルコ!》
僕達は慌てて散開、敵機は補足しつつもミサイルを放つことなく高速で接近してくる、とりあえずは敵の出方をうかがう。
《おいおい、冗談だろ。ラプターか・・・》
悪魔を見たような感じだった。
世界最強のステルス戦闘機、機体色は純白のF-22ラプターが僕達を掠めて急上昇していく。
垂直尾翼にはグレーで描かれた翼を開く鷹のマークに、主翼には緑色の逆三角形、バルセルの国籍マーク。
何故だ、F-22はどの国もライセンス生産はしておらずエルゲート製の機体しか存在しないはず。いくらエルゲートから戦闘機を購入しているバルセルでも、空軍より陸軍に力を入れている、あんな高性能の機体を何故保有しているのか。
《グレイ1から管制、バルセルがラプターを持ってるなんて聞いてないぞ》
基地管制に言っても仕方ないだろうに、アサギさんは悪態をついていた。
《ーーなにっ、上には報告しておく。グラム隊を至急向かわせる、粘ってくれーー》
《グレイ1、ウィルコ。レイ、チグサ、集中しろよ、交戦許可》
いつもより集中した声で僕達に指示をするアサギさん、こんな所で死ねない、死ぬ訳にはいかない。
ルリさん達が来るまで概ね十分、僕はヘルメット越しに頭を叩いて集中する。
《了解、グレイ2交戦》
《ブロッサム1交戦!》
僕達は純白のラプターを追う、3対1でこちら側が圧倒的に有利なのだが、所謂変態機動と言うやつか、後ろに付いたと思ったらありえない機動で躱され、ラプターは明後日の方向に飛んでいた。
運良く後ろにつけても一瞬で捕捉しようにも電波妨害を受けて、ロック出来ずに躱される。
完全に遊ばれている格好だった。
《くそっ》
ついつい舌打ち混じりに声が漏れる。
《イライラするな、耐えろ》
もう少しで我らがエース、グラム隊が増援に駆けつけてくれるはず、我慢だ僕。
ただただ宙を舞う、純白のラプターと薄灰色のイーグル。
《そこっ!・・・むーっ!》
チグサもミサイルがロック出来ないならとガンポッドを使って攻撃を試みるが、上手くいかない様子だ。
無駄に時間だけが過ぎていく。
《グラム隊、まもなく到着するわ》
お!意外とお早い登場。
彼女たちをレーダー探知、これで5対1。これでどうにもならなかったら最早お手上げだ。
すると、純白のラプターはヒラヒラと華麗に飛んでいたと思うと進路を西に転換、ものすごい速さでバルセルの方向えと飛んでいってしまう。
《深追い無用、何しに来たんだ?》
アサギさんの言う通り、ラプターの目的が分かることも無く僕達は基地に帰投きた。




