第27話 首都奪還作戦
20時、旧首都イスタン。
街は空襲警報がかかっているのか、明かりは全て消えており、雲の隙間から時折伺う月明かりに、街は幻想的に浮かび上がっている。
その上空、僕達はいつものように4機編隊を2つ作って、空を飛んでいた。僕の隊は先頭にアサギさん、2番機に僕、3番機にチグサ、4番機にソラさん、という編隊。他の4人は、アヤメさんを先頭に僕達のやや後方を飛んでいた。
《第1機甲師団司令部より各隊、イスタン敵基地への夜襲を開始する。作戦開始!》
地表は真っ暗でよく見えないが、イスタン目前に展開していた陸軍が、先ずは敵基地の攻撃を開始する。
《第91多連装ロケット砲中隊、攻撃を開始する、座標確認、発射始め!》
《バルセル長距離地対地ミサイル大隊、攻撃始め!》
夜空には、ロケット砲から放たれたいくつもの白く輝く光が弧を描き、遠距離からバルセル軍の地対地ミサイルがハイダイブで敵基地に降り注ぐ。不謹慎かもしれないが、見ている分には綺麗だ。地上は大変なんだろうけど、敵はローレタラティスだ、慈悲はない。
《第102空挺偵察大隊は市街地の制圧に向かう》
敵軍が市街地に逃げ込まないように、空挺旅団が制圧に向かう、UH-60によるヘリボーンだ。数十機のヘリ部隊が低空で市街地に侵入し、大通り付近やビルの上に隊員を降下させていく。
《グレイ1から各機、グラム隊、スペクター隊は制空上空待機。グレイ隊、ブロッサム1、ソードは対地攻撃用意》
アサギさんの指示にそれぞれ応答していく。
《グラム1、了解よ》
《グラム2、ウィルコ》
《スペクター1、ウィルコ、グラム隊に続く》
《スペクター2、りょーかーい》
《グレイ2、了解!》
《ブロッサム1、ウィルコッ!》
《ソード、ウィルコ》
それぞれの応答が終わると、対地攻撃を任された僕達は背面を地上に向けて機体をロールさせて高度を落とす。
《レイ、高度計をよく見ろよ》
《わかってますっ!》
久々の夜間飛行でしかも市街地上空、首都ということもあって高層ビルが多少は建ち並んでいる、アサギさんも僕の事を心配してくれてるのだろうけど、ビルに衝突したりするようなヘマはしない。
《建物の間も警戒しろ、ランチャーが隠れているかもしれん》
地上の建物の間から携帯ミサイルや、対空戦車にミサイルを撃たれては戦闘機では対処出来ない、なるべく補足されないように飛び方を考えないと、真っ直ぐ飛ばないとかね。
ドンドンドン!
市街地から何かが爆発したのか、赤い炎が上がり燃える煙が空に上がる。
《くそ、待ち伏せだ!下がれ下がれ!》
先程市街地にヘリボーンした第102空挺偵察大隊からの通信だ、どうやら敵が市街地に潜んでいて待ち伏せ攻撃を受けたらしい、既に全部隊ヘリからの降下を終えていてすぐには逃げられない。
《空挺偵察大隊から司令部、市街地にて敵の待ち伏せを受けた、現在これと交戦中!ポイントを示す、支援爆撃を要請する!》
《了解した、あー、上空の支援機!よろしく頼む!》
なんて雑な指示なんだか、地上部隊が目標にレーザーポインターを使うからそこを攻撃して欲しいということだが・・・。
《市街地攻撃なんて聞いてないぞ、街には市民が残っているんじゃないのか?》
アサギさんはそれを気にする、いくら敵地とはいえ元々ここはグレイニアだ、市民に被害が及ぶようなことはしたくない。
《命令だ、もたもたすると地上部隊が壊滅してしまう、多少の犠牲は致し方ない、急げ》
《くっ・・・》
これは戦争だ、わかってはいる、わかってはいるが、こんな建物が密集しているところに爆弾を投下すれば建物の倒壊は免れないだろう。
アサギさんは決めかねている。
《俺がやる》
声をあげたのはソラさんだ、躊躇してしまう僕達をよそに編隊から離脱し高度を下げていく。
《しか、し・・・・・・》
彼はアサギさんの返事を待つことなく、既に地上部隊がポイントしている目標に照準を合わせる。
《投下》
静かに言うソラさん、暗くて爆弾の行く末は見えなかったが数秒後に地表で爆発、轟音と共にいくつかの建物が崩れ、瓦礫へと変わる。
《派手にやってくれたな!感謝する!道が開けたぞ、進路変更西北西に向かえ!》
地上部隊こそ喜んでいるがこっちはなんとも言えない雰囲気だ、一体今ので何人死んだのか。
仕事を終えたソラさんが再び編隊に合流する。
《戦争ってのはこんなもんだ》
わかってる、わかってるよ!俺は操縦桿を強く握る。
今まで敵機や地上兵器にしか攻撃したことしかなかった、まさか市街地を攻撃する日が来るなんて思ってもいない、これじゃあいつらと同じだ、何が正しくて何が悪いのだろうか。
《アサギさん・・・》
隊長に正解を求める。
《・・・ソラの言う通りだ、各機、気合いを入れ直せ。これは戦争だ》
結局そうなってしまうのか、血で血を洗う他方法はない。僕は考えることを辞めた。
●
陸軍が敵軍事施設への本格的な進軍を開始した。
相変わらず空には曳光弾による線が多数引かれ、街には赤い光とともに炎が上がる。
《そろそろ燃料がなくなる》
ずっとここにいて制空していたいがそうもいかない、空中給油機もいないし、基地に帰らないと。
しかし、戦闘機がいない、帰るにしても誰が空を守るのか。
《機甲師団司令部より上空の支援機へ、アントス基地へ交代機を要請している、そろそろ到着すると思う、到着次第、グリゴリにて燃料補給を実施せよ》
え?僕達の他に戦闘機隊がいたのか?全く知らなかった。アントスと言えばここから南に行ったところにある港街だ、少し前にローレタラティス軍が撤退し無血開城したのは聞いていたがいつの間に戦闘機が配備されたのか。
《どうせ、ひよっこか傭兵だろう》
《でしょうね》
アサギさんとソラさんの言う通りだ、僕だって分かる、そんな簡単に戦闘機乗りにはなれないことぐらい。昨日今日制圧したような飛行場から飛んでくる戦闘機なんて全然頼りにならない。
ま、自分が言えたものではないけどね。
《バルセル軍かもよぉ?》
確かに、ナナリスの言うことも一理ある。
とりあえず早く合流しないと分からないことばかりだ。
少し待つと交代の戦闘機隊が到着した。
《アントス航空隊所属ライド隊到着した、直掩機、交代します》
薄灰色のF-15戦闘機が4機、南から接近してきて上空を旋回していた僕達の後ろにゆっくりと近づく。
薄灰色の機体カラーということはグレイニアの部隊だ、主翼にはしっかりと2本の青い線が放射状に伸びている。
新規に設立された部隊なのだろうか。
《こちらグレイ隊グレイ1、ライド隊。聞かない部隊だが新規の部隊か?》
慎重になっているアサギさん、どこの馬の骨か分からない部隊にここを守ってもらう訳にはいかない、それは僕でも分かるけど、直球過ぎやしないか?ちょっと失礼だとも思う。
《ライド1からグレイ1。そうです、新規設立の傭兵部隊、すぐに信用しろとは言いませんがとりあえず燃料補給へ戻ってください》
なるほど、ソラさんみたいな人達がアントスにもいたということか。それはそれで納得したけどみんなが傭兵か・・・。
《グレイ1、ウィルコ、変なことをするなよ》
《わぁかってます》
信用出来ないよね、僕だってそうだ。だけどグレイニアには正規のパイロットはアサギさんたち以外に見たことがない、人手不足なのだから仕方ないと言えば仕方ないのか。
ライド隊も承知しているのだろう、アサギさんが不審に思っているのを承知で怒ったりはしない。
《グレイ1から各機、補給のためグリゴリ基地に向かう。方位270》
そして、僕達はアヤメさんを先頭に、補給のためにこの前奪還したグリゴリ基地に進路を向けた。
●
グリゴリ基地。
約1か月前に僕とアサギさん達とでノースシュルツを攻撃している間に、アヤメさん達が航空支援をして陸軍が奪還した街。
平野に広がるまあまあ大きな街にはまだ攻撃の爪痕が深く残っているが、街外れにある飛行場はだいぶ綺麗に整備されている。
闇夜に滑走路の誘導灯が綺麗に並び。駐機場には陸軍のヘリコプターが何機か駐められているのがうっすら見えた。
《ーーグレイ隊、グラム隊、スペクター隊、プロッサム1、ソード、順次着陸を許可するーー》
1本しかない滑走路にF-15とF-4が次々に着陸していく。
僕は着陸して駐機場に案内され、小休憩の為に早々にコックピットから降りるとすぐさま整備員によって機体の整備補給が行われる。
「ふぅー」
額に滴る汗を袖で拭って空を見上げる、目の前に広がるのは満点の星空だ。いったい今は何時だろうか。
「レイ、お疲れ様」
「ああ、チグサ。おつかれ」
後ろからまだまだ元気なチグサが駆け寄ってきた。僕は結構ヘトヘトだ、さすがは先輩。
「ここ、意外と綺麗な基地だね」
「そう?アルサーレの方がいいよ」
「そりゃそうだけどさ」
チグサの言う通り、降りてみると庁舎やら格納庫やらはまあまあ綺麗だ、攻撃で倒壊したのを建て直したのだろう、アルサーレより綺麗なのに決まっている。しかし、長年いるアルサーレの方が愛着はある。別に、ここに転属になった訳じゃないんだ、深く考えなくてもいいだろう。
「レイ!」
「ちょわっ!!」
チグサと仲良く話していると誰かが後ろから背中に飛びついてきた、よろけて転けそうになるが何とか踏ん張る。誰かと言っても一人しかいない、ナナリスだ。
「次の出撃も頑張ろうねぇ!」
甘ったるく語尾を伸ばし、息が耳にかかってむず痒い。
「ああ、わかったから降りろって!」
チグサの蔑んだ目と言ったらシャレにならない程冷徹だ、早くどいてくれ!
「よその基地でイチャつくなよ」
「イチャついてません!!」
後ろから近寄ってきたソラさんに弄られる。
ソラさんに向かって大声で否定すると、彼の後ろに居たルリさんも冷たい目で僕を見ていた。何故か胸が痛い。
「降りろよっ!」
「やだーーー」
ぐるぐる回るが全然降りてくれない。変に相手にするのも余計に体力を使うので、そのままにすることにした。
「気を抜くなよ」
髪の毛をガシガシとされた、アサギさんだ。ぺしゃんこになった髪がクシャクシャになるからやめて欲しい。アサギさんの顔をチラッと覗くと少し厳しい目をしていた。
「はい」
ふざけて返そうとも思ったがアサギさんの顔を見ると思いとどまって、短く返す。
「アサギさん・・・・・・」
「なんだ?」
「戦争なんで仕方ないです」
「・・・・・・」
僕が気にしても仕方ないと思うが、市街地攻撃を躊躇していた彼女を気にかける。アサギさんは少し黙って僕を見つめる。
なんだか重い空気に耐えれなくなったのか ナナリスは音もなく僕の背中からずり落ちた。
「ああ、分かってるよ」
彼女はしばらく僕を見つめると、またガシガシと僕の髪の毛をクシャクシャにする。
「ちょ!」
今度は慌てて髪の毛を押さえると彼女は笑っていた。
「戦争ってのは、誰かが死んで誰かが生きる。俺は死ぬかもしれないし、お前は生きるかもしれない。それだけの事だよ」
ソラさん、そんなことを言わないで欲しい、僕はみんなでこの戦争を切り抜けたい、乗り越えたい、アサギさんだってそう思っているはずだ。
「ああ、ソラの言う通りだ。悔いのないように生きないとな」
僕は上唇を強く噛み締めた。




