第26話 いるべき場所
8月12日、13時、ブリーフィングルーム。
僕達は作戦の概要説明を受けているところだ。
『イスタン奪還作戦』
シンプルな名前だがそれが作戦名。イスタンこと、自由グレイニアの首都奪還作戦が始まる。
そこは現ローレタラティスの首都ということもあって居住者が多い、なるべくは市街地への侵攻は避けたいところだがローレタラティスの対応次第では、市街地侵攻もやむ無しだろう。
具体的な作戦については、僕達戦闘機で制空権を奪取、確保しつつ指定された地上目標への攻撃、陸軍が軍施設に攻撃を開始の後占領、状況によっては掃討戦に移行するらしい。とりあえず僕達の主な仕事は制空権の確保だ。
「本作戦もバルセル軍との共同作戦になるわ、なにか質問は?」
アーノル大佐が話を締めくくる、みんな顔を見合わせて質問はなさそうにしているけど、僕はパッと思いつき手を上げる。
「なに?レイ・アスール少尉?」
「首都を奪還したら紛争は終わるんですか?」
ブリーフィングルームが静寂に包まれる。
「・・・それはないでしょうね、敵も後がないわ。戻ってもローレニア、行ってもグレイニア、八方塞がりになるし、勝手に武装蜂起した身、降伏なんて出来ないでしょう」
薄々勘づいていたけどやっぱりそうだよね、どちらかの勢力が無くなるまで戦い続ける、これは殲滅戦だ。残党が再び蜂起しても厄介だろうし、それは当然のことなのかもしれない。
戦争はまだまだ終わりそうにないか。
「でも、交渉はしているわ。ローレタラティス次第ね」
こちらに優位な条件、または無条件で降伏さえしてくれれば殲滅まではしないのか。確かにまた、武装蜂起せずに平和にグレイニアで暮らしてくれるのならわざわざ殺す必要もないだろうけど、そんなに上手いこといくのかな?
「ただし、イスタン奪還作戦の主体とは別働隊が周囲の街を攻略していく予定よ、抜かりはないわ」
あくまで殲滅が主目標のようだ。
「他には?・・・・・・無いわね。作戦決行は本日20時、それまでゆっくり休んで。解散」
待機室。
作戦開始までまだ時間がある、少し寝とこうかなと悩みながらとりあえず僕はソファーでくつろいでいた。僕の隣には珍しく、ミルアとソロアが座ってそれぞれ紅茶とコーヒーを飲んでいる、そっくりすぎる双子だけど微妙に趣味趣向は違うのかな?2人とも小柄なので、ナナリスが割り込んできた時のようには狭くない。
そして目の前のテーブルではソラさんとルリさん、ニグルムくんがキャッキャとボードゲーム?で遊んでいる、実に微笑ましい。
「2人とも、元々RIOなの?操縦とかは?」
黙っておくのも何だか気が引けたので、2人に話しかけてみる。
「戦闘機の操縦は苦手です」
「祖国ではF-14のRIOなんだけど、今回は上が使わせてくれなくてね、仕方なくF-4に乗ってる」
なるほどそうだったのか、だからこの前ナナリスはF-4じゃキツイと言っていたのか、1つ謎が解決した。
でも、苦手ってことは操縦は出来るということか、2人とも凄いな。
「へぇー、やっぱりトムキャットとファントムだと結構違う?」
素人同然の質問にミルアとソロアは、一瞬顔を見合わせていたけど答えてくれる。
「そりゃもう」
「全然」
だよね、僕の乗ってるF-15だって初期型と比べたら全然違うし、年式も違えば扱うミサイルも違うだろう。
「そっか、ありがとう」
「「いえいえ」」
2人にお礼を言うと、2人揃って軽くお辞儀をして返してくれる。ほんと、パイロットの2人にも見習ってもらいたい礼儀正しさだ。
「ガキンチョ!」
「なんだよ、ガキじゃねぇーての!」
いったい何回目のやり取りなのか、ゆっくりしようと再びソファーにもたれかかった矢先、後ろからナナリスに騒がしく飛びつかれ首に腕を巻かれる。
「今、何考えてたぁ?」
耳元で呟くように囁かれ、体にゾクゾクと寒気が走り、首に巻かれている腕が徐々に締まっている気がする。ちょ、苦しい・・・。
「な、なにも・・・」
口に出してないのになんで分かるんだよ・・・、怖すぎる・・・。
彼女は僕を疑い続け、えー?ホントに?と僕の胸で首をブンブン振りながら、尋問を続ける。
「ちょっと!何してるのよ!」
救世主の登場、チグサ様!助けてください!目の前のソラさんは僕を見てニヤニヤしてるし、ルリさんもなんかジト目で睨んできて怒ってるみたいだし、ミルアとソロアも我関せずで誰も助けてくれないんです!
すかさずチグサはナナリスを僕から剥がそうと、引っ張ってくれているが、その反動なのかナナリスに掴まれた首がどんどん締まっていく。
「・・・ちょ、く、くる、し・・・」
ルリさんが慌てて、僕の首に巻かれているナナリスの腕に手をかけたところで、目の前が真っ暗になった。
●
は!ここは!?
目の前には知らない低い天井が、いや、僕のベッドのようだ。しかし、首締められて落ちるとか危なすぎだろ、被弾した時よりも死ぬかと思ったわ!
「あ、起きた」
声のする方、ベッドの側にナナリスがいた、心配そうに僕の様子を伺っているけど、君が原因だからね?ここは、怒っていることを表すために壁側に寝返りして、ナナリスに背を向けた。
「ごーめーんー」
全然気持ちがこもってない、僕は無視する。
「怒っちゃやーだー」
僕をゆさゆさと揺すってくるが、ダメだダメだ、毅然とした態度で無視する。
「無視しないでぇぇぇ」
無視無視、悪いのは君だ。
「うぅぅ・・・」
彼女は僕を揺するのをやめて、やっと静かになった。はあ、やれやれと思っていると鼻を啜る音が背中から聞こえてくる。
僕は慌てて起き上がり、ナナリスの方へと振り返ると。
「え?どした?」
頬に涙を流しながら、ナナリスは普通に泣いていた。なんで?
「だってぇー!」
「ちょわ!!」
ベッドに飛び上がり、その勢いのまま押し倒されて僕の胸でおいおいと泣く彼女。壁に頭を打って、また気絶するかと思うほど凄い勢いだった。
「ちょっと!どうしたの?」
まだまだ泣く彼女、んー、他に誰もいないみたいだし、しばらくこのままにしとくか。
「わ、私・・・」
震える声でナナリスが口を開く。
「初めてガキンチョ・・・、レイに会った時から・・・」
え、今名前で呼ばれたような・・・。
「レイのことが好きになっちゃったみたいで・・・」
ほぇ?今なんと?
「だから意地悪な態度ばっかりとっちゃって、お話したくて変に弄っちゃったりして、好きになりすぎるといけないって思って名前で呼べなくて・・・」
小学生かよ。だから、毎回毎回ガキンチョ扱いしてきたのか、戦争が終われば彼女達はバルセルに帰ってしまう、別れが辛くなるのが嫌だったのだろう。でも、我慢できずに言ってしまった感じか。
しかし、好きなんて言われるのは初めてだ、それはすごく嬉しく思うけど、それと同時にちょっと複雑な気持ちになる。
だって僕は皆好きだから。恋愛感情的にどうかと言われればそれは分からない、だけど、みんなが好き。
僕の教官でなかなか褒めてくれないアサギさん。
僕の先輩で色々気にかけてくれるチグサ。
クールで口数少ないけど、行動がいちいち可愛いルリさん。
いつもみんなのサポートをしてくれているアヤメさん。
そして、最強でめっちゃカッコイイ、ソラさん。
みんな大好きだ、だから僕は。
「ありがとう」
そう言うことしか出来ない。
しばらく僕の胸で泣くナナリスを落ち着かせるために、そのままそっと背中をさすっていると。
部屋のドアがガチャっと開いた。
「レイ、起き・・・・・・は?」
部屋に入ってきて目が合うと、硬直してしまったチグサが、蔑んだ酷い目でボクを見下してくる。
「これは、そのー・・・、違うんです!」
何がだよ!自分で自分にツッコミを入れる、そんな言い方じゃ誤解しか生まれないだろ。
「あーそう、ルリに言ってやる」
ちょ!それは勘弁!何をされるかわかったもんじゃない、てか、なんで言う必要があるの、待ってくれー!と叫ぶがナナリスがどいてくれないのでチグサを追えない。
「ちょっと、ナナリスどいてって!もー、ナナってば!」
「あ!ナナって呼んでくれた!」
口が滑ってナナって呼んでしまった、これには彼女も相当に嬉しかったようで、子犬のようにスリスリとしてきて余計にどいてくれない。
「んじゃ、ごゆっくり」
「ちょっとー!」
チグサは静かにドアを閉めて行ってしまった。
●
出撃前、駐機場。
「チグサ!なんにもなかったから、機嫌直してよ」
昼間のことで、彼女はぜんぜん口を効いてくれない。追いかける僕を置いて、スタスタと足早に先に行ってしまう。
「あ、レイ!頑張ろうね!」
自分の機体に向かうナナリスが、僕に向かって手を振ってくれている。無視すると後が怖いので、一応小さく手を振り返すと、キャッキャと喜んでいる。いや、嬉しいけどさ、空気を読んで欲しい。
チグサは足を止めてナナリスの方を見ている。
「ガキンチョ呼ばわりしてたのに、レイって呼んでるし・・・、何も無いわけないでしょ・・・」
確かに・・・、何も無いとか説得力無さすぎるよな・・・。いやでも、本当に何もしてない。
「どうした?喧嘩でもしてるの?」
ソラさんが僕の背中をトンと叩いて、僕とチグサの仲裁に入ってくれる。彼も意外と僕達のことを見てくれているようだ、まあ、あんなあからさまに僕と距離をとっているチグサを見ると誰でも勘づくか。
「チグサが・・・」
「レイが・・・」
2人でお互いに指をさして、ソラさんに訴える。
「なんだよ、ニグルムの方がよっぽど大人っぽいぞ。チグサさん、ちょっと」
なんかディスられてしまった、ソラさんは仕方ないなぁと、頭を掻きながらチグサを連れて行き、僕の聞こえないところで、何やらヒソヒソと話している、何話してるんだろ?
「・・・・・・え!?ち、違います!」
チグサがびっくりしたような大声を上げて、ソラさんをポコポコと殴りだした、いったい何を言ったのやら。
プンプンと怒りながらチグサは、僕の所へ戻って来たと思ったら、手を引っ張り戦闘機の方へと連れていかれる。
「なになに!?」
「なんでもない!行くよ!」
ソラさん何を言ったんだよ。まあいいか、口効いてくれるようになったし、後で確認しとこう。
そして、僕はチグサに手を引かれたまま、自分の戦闘機まで連れていかれた。
僕の機体は入院している1ヶ月の間に修理され、以前となんの遜色も無い。
素早く機体に乗り込み、チェックを済ませる。これは別に何もブランクを感じる事はなく、体に染み付いていて不自由を感じなかった、アサギさんにみっちり指導されたおかげだろう。
そして、順次滑走路へと並び、僕は1ヶ月ぶりに空に戻った。




