第18-1話 町を救おう
帝都を発ち二日目の昼前。
俺達はボートンを包囲していた部隊と合流した。その中でなんとハルバさんの姿を見つけた。
「ハルバさん、大丈夫なんですか!」
「やあ、リュート君。大丈夫も何も全く問題ないよ。この戦いに隊長である俺が参加しないわけにはいかない」
「でも、そんなに脂汗を浮かせて……」
平静を繕っているがハルバさんは辛そうだ。まだ怪我が痛むのだろう。
「俺、さらに強くなりました。色んな人のおかげです。だから必ずウェアウルフを倒します!」
ハルバさんに決意表明をする。それを聞いたハルバさんはいつもの優しい笑顔を俺に向けてくれた。しかし、その表情には少し陰りがあるようにも見えた。
「頼りにさせてもらうよ。……それで状況なんだが、厄介な敵がもう一体増えているんだよ」
「厄介な敵、ですか」
「ケーニヒウルフと言ってね。この辺りの魔物の主のような奴だ。ウェアウルフより手強い相手と言っていいだろう」
「あのウェアウルフより強い……」
その事実に俺が戸惑いを見せていると、町の城門付近で何か動きがあったようで騒ぎ始めた。
「敵だー! 矢を放てー!」
前線にいた兵士が声を上げた。俺の位置からもその敵の姿が見える。
ウェアウルフのような姿形だが、その大きさはただでさえ巨体なウェアウルフより二回りは大きいだろう。顔には大きな切り傷が走っており、戦いに慣れている雰囲気がある。
そんなケーニヒウルフに兵士達が矢を射掛け、何十本という矢が襲いかかった。
だが、その矢は全て地面に突き刺さる。ケーニヒウルフは忽然と姿を消したのである。正確に言うと、ウェアウルフが見せた動きと同じか、それ以上の速さで矢の雨をかわしたのだ。
「ハッハッハ、虫けら共がわらわらと集まりよって。俺が蹴散らしてくれる」
おぞましい声でケーニヒウルフが叫んだ。町を取り囲む俺達兵士の数が増えたので打って出てきたというわけか。
城門前で衝突が起こった。大勢の兵士がケーニヒウルフに攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃は当たらず逆に反撃を受けて次々と兵士が散っていく。
早くなんとかしなければ全滅とまでは行かなくても大打撃を受けることになるだろう。そうするとボートン奪還作戦は失敗だ。動き出さなければならない。
「ハルバさん、ウェアウルフはどこに!」
「町から出た様子はないからまだ中にいると思うが……」
「わかりました、行って来ます!」
「ま、待つんだ! 一人じゃ――」
ハルバさんの制止を振り切って俺は激戦となっている城門前へ駆け出した。
また一人で行動してしまい、俺は何度この過ちを犯すのだろうか。ハルバさんに謝ることがまた一つ増えてしまった。だが、状況から考えるにこれが最善のはずだ。
ウサギの姿をした二羽も俺の後を追ってくる。
「じゃあ俺達はまた上から見ているからよ」
「がんばってねー」
飛ぶ角度を上げて町の上空に行ってしまった。
あいつらなりの応援ももらった。絶対に成功させるんだ。
俺は魔力で脚力を強化し、兵士達の断末魔に心を痛めながら城門を突破した。
町に入るとレージウルフが次々に牙を向いてきた。それを俺はシードさんに作ってもらった剣を存分に振るって跳ね除けていく。魔力を手に入れたことにより一対一でなくても倒せるようになったのは大きい。何体ものレージウルフに囲まれても俺はそれを難なく突破した。
そうやって町中を駆け回りながら暴れていると、ついにターゲットを発見する。
「この前逃げ出したまぬけな人間ではないか。心変わりして俺に殺されることにしたのか? くっくっく」
建物の屋根の上に現れたウェアウルフが戯言を吐いた。
周りに残っていたレージウルフ達が俺から距離を置く。向こうもタイマンをご所望のようだ。
「もう逃げない。お前を倒しに来たんだ」
そう宣言し剣先をウェアウルフに向ける。
「冴えない冗談だ。呆れてしまうな」
ウェアウルフは本当に呆れたかのように大きなあくびをして見せた。
「俺も忙しくてな。町の外で戯れになっている王の元へ向かわなくてはならん。俺の遊び相手が減ってしまうからなあ」
王というのはケーニヒウルフのことだろう。こいつはどこまでも人間を見下しているようだ。
「俺が遊んでやる。それでお前は終わりだ」
「ふんっ」
剣を構え挑発するとウェアウルフはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
空気の流れが止まり時間までもが止まった感覚に陥る。
一瞬の油断が命取りとなる。さらに気を引き締める。
そして、睨みつけていたウェアウルフの姿が消えた。
俺は前方に飛び込んで一回転する。先ほどまで俺の首があった場所にウェアウルフの鋭い爪が通り過ぎていた。
「ほう、かわしたか。まぬけな人間風情がやるではないか。褒めてやろう」
「これっぽちも褒めるような言い方じゃないけど」
「口の減らない雑魚め」
ウェアウルフの顔つきが変わる。今度は本気で向かってくるだろう。俺も剣を構えてそれに備える。




