第17話 決戦に備えよう
今話は1部だけなので19時の投稿はありません。
翌朝。
寝起きの俺の元に御付の兵士を連れたクルジュがやって来た。
「おはよう、リュート。もう日が昇っているというのにまだ寝ていたのか? 早くその寝癖を直せ」
「クルジュが来るの早いんだよ……。ちょっと待ってて」
出迎えのお茶も出さずに俺は洗面台へと向かい、水瓶から手で水を掬って顔を洗い寝癖を直す。
それから部屋に戻ると、寝起きのウサギ達がクルジュと話をしていた。
「ねえねえ、フルコースは?」
「フルコース? なんのことだ?」
「リュートが食べさせてくれるって言ってたの」
「あっ、クルジュ、それは――」
そこへ俺が割って入り、クルジュに事情を説明した。ついでに剣の費用についても話そうかと思ったけど喉から出てこなかった。
「――というわけなんだ。勝手に、ごめん」
「なに、それぐらい容易いことだ。今からでも食べに来るがよい」
「やったー!」「やったー!」
ウサギ達が飛び跳ねて喜んでいる。これで断られていたら俺がどんな目に合わされていたのやら。
「それで、こんな朝早くにどうしたの?」
「俺も好きで朝っぱらに来たわけではない。この時間しか暇がなかったのだ」
俺が訊ねるとクルジュがそれに少しご立腹な様子だ。
「まあ、リュートの話を直に聞きたかったのもあるが、報告することがあってな」
「もしかしてボートンのこと?」
「そうだ。明日、ここから兵を派遣してボートンの奪還作戦を開始することになった」
「そうか……」
明日か。急な話に思えるが町を丸ごと占拠されたんだ、取り返すのは早いに越したことはないだろう。
「俺も参加させて欲しい。必ず役に立つよ」
「そう言うと思って伝えたんだ。しかし、必ず役に立つとは、随分自信がついたようだな。鍛錬は順調なのか?」
「うっ……、まあ、それなりに」
昨日のブロック割りが失敗に終わったことが頭に浮かび、頼もしい返事が出来なかった。
「はっはっは、そうかそうか。俺はリュートを頼もしいと思っているぞ。一兵士としてだけでなく、友としてもな。存分に成果を上げてこい」
「うん、ありがとう」
友達からの信頼だ。裏切らないように精一杯頑張らなくては。
「あと、ハルバのことだが、心配するな。今回の作戦には参加出来るほどではないがかなり回復しているそうだ。ボートンを取り返した頃にはこの街に帰ってきているだろう」
「そうなんだ、良かった」
今回の作戦が弔い合戦にならなくて本当に良かった。ハルバさんに会えたら助けてもらったお礼とボートンを取り返した報告をしなければ。
それからクルジュの愚痴を聞いた。この間は落ち込んでいたのに次々と文句を垂れ流す様はさすがだなっと思った。そうでなくては皇帝なんて務まらないだろう。
俺が魔力を手に入れたことを話したら、あろうことか研究材料になって欲しいと言い出した。魔鉱石が採れる土地だがそれを有効活用出来ずにいたので、俺が手伝えば国力も上がるだろうとのこと。俺は苦笑いしながら、考えとくよ、という魔法の言葉で話題を流した。
「さて、そろそろ俺は城に戻らねばならない。チビっ子達は城で預かろう。リュートは思う存分鍛錬に励み、奪還作戦のために仕上げてこい」
「わかった。迷惑掛けるだろうけどお願いするよ」
そうしてクルジュはウサギ達を連れて城へ戻った。フルコースに釣られたウサギ達は、すごくはしゃいでいた。あんなに喜んでいるのは初めてみたかもしれない。少しなんとも言えない気持ちになってしまった。
ウサギ達が城で贅沢している中、俺は朝食を抜いて昼までゆっくり休んだ。
昼になると中心街に行き、いつも通り軽く食事をしてからロウさんが待つ修練場に向かった。
この日も木刀で石のブロックを割る訓練をした。結果は、夕方まで繰り返したが一刀両断するまでには至らなかった。
ロウさんに明日、またボートンへ行くことを伝えたら、まだ完全に魔力を扱いきれていないが充分強いから大丈夫、と背中を叩かれる。ブロックを割れなかったのは心残りだが、ウェアウルフの速さについていける力を得たんだ。必ず倒してやる。
そのための準備がまだ残っている。シードさんの所に作ってもらった剣を取りに行かなければならない
ロウさんに修行してもらったお礼を伝えると、帰ってきたらまたウサギ達も一緒にデザートを食べようと言われた。最後に握手を交わし、俺はもう一度礼を述べた。
一度家に戻ってタンスの中から金貨十枚を取り出す。マラソン大会でもらった賞金の千リラだ。それを小袋に入れて今度はシードさんの工房へと向かった。
相変わらずこの通りは人が少ない。建物内から色んな音が聞こえるので人はいるのだろうが、外には誰もいない。大金を持っている俺は、こそこそと足早にその道を進んだ。
その途中、不意に路地から誰かが飛び出してきて俺に思いっきりぶつかった。その拍子に千リラが入った小袋を落してしまう。
ぶつかった人を気遣う前に、慌ててそれを拾い上げようとしたその時、
「へへ、頂きだ」
何者かが走ってきて地面に落ちた小袋を拾って走り去って行く。
俺はその何者かを、背中を見ただけで判別出来るようになっていた。もう顔なじみと言っていいだろう。強盗の女の子だ。
ぶつかってきたのは取り巻きの物騒な男の一人であった。俺が急いで女の子を追いかけようとすると、その男が襲いかかって来た。
大金を盗られた俺はショックで頭が真っ白になり、記憶が曖昧になってしまった。だから、目の前の女の子が恐怖の眼差しで俺を見ている理由がわからない。
「て、てめえ、そんなに強いなんて聞いてないぞ!」
女の子が叫んだ。
少し冷静になった頭で周りを見渡すと、五人の男達が地に伏していた。どういう状況だ、これ?
「もうお前には手を出さないから見逃してくれ。これも返すよ、ほら」
小袋を投げ渡され、俺はそれをキャッチする。中を見ると金貨が十枚入っていた。
「お前も明らかに大金を持ってますという風に歩いてんじゃねえよ。もっと堂々としてろ!」
そんな忠告を残して女の子は脱兎の如く走り去ってしまった。残された俺はもう一度辺りを見回す。
この有り様から考えるに、俺がこの男達を倒したようだ。全く覚えがないのは所謂キレた状態になっていたからだろう。あの女の子があんなに怯えるなんて俺はどれだけ暴れたんだ……。
しかし、魔力を手に入れて強くなっていて良かった。本当なら返り討ちにされて、今頃大きな木の下に埋められていたかもしれない。
空を見ると茜色が黒に侵食され始めている。俺は男達をそのままに残し、走ってシードさんの元へ向かった。
「遅かったな」
「す、すみません」
シードさんの工房に駆け込むと、開口一番そう言われたので俺は謝った。
「出来てるぜ。金を置いて持って行きな」
シードさんがクイッと指差した先に立てられた剣があった。作業台の端に千リラが入った小袋を置いて、その剣を手に取った。
重さはいつも使っていた剣と同じぐらい。鞘から抜いても刃に特別変わったところもなく、普通の剣との違いが俺にはわからなかった。
本当にこれが元は三千リラもする剣なのか、と疑問に思う。
「あの、本当にこれですか……?」
「そうだ。何か文句でもあるのか」
「い、いえ、文句だなんて! でも、他の剣と、その、違いが……」
しどろもどろになる俺を見て、シードさんはため息をついた。そして俺から剣を奪い取ると上段に振り上げる。
「す、すみません! 許してください!」
命乞いをする俺に向かって、と思ったが、俺の横にあった金床に向かって剣を振り下ろした。すると、音も無く金床が真っ二つになる。
「これは魔鉱石から抽出した魔力をコーディングしてある。ただの金属の塊程度ならこの通りだ。まだ文句はあるか」
俺はブンブンと力強く首を横に振った。剣を返してもらい、お礼と頭を下げてから俺は逃げ出すようにその場を去った。
家に戻るとウサギ達がベッドの上に寝転がっていた。腹をパンパンに膨らませて子豚のようだ。
「おかえりー」
「二人とも、すごいお腹だね……」
「いやあ、フルコースってすげえな。美味しい料理が次々に出てくるんだから」
ガーディが腹をポンポンと叩きながら満足そうに言った。これは俺一人で夕食を食べに行くことになりそうだ。
「リュート」
「どうしたの、ハーディ?」
「またお友達から伝言だよ。『頼むぞ』だって」
「……ああ」
クルジュから送られた言葉。一言だけだが、しかと俺の胸に響いた。
「じゃあ、俺、街でご飯食べてくるよ」
「いってらっしゃーい」「土産よろしくな」
ウサギ達を家に置いて外に出る。夜空を見上げると星がちらほらと瞬き始めていた。
明日はボートンへ移動。本格的な奪還作戦は明後日からだろう。
この世界に来てたくさん頑張ったなあ、と改めて思う。達成ボーナスという訳のわからないものの力もあったが、一番大きいのは俺を支えてくれた人達だ。
見ず知らずの俺をバイクに乗せて帝都まで送ってくれたタブラさん。
俺の強引なお願いで強くなるための手助けをしてくれたロウさん。
何事も消極的で根暗だった俺を変えてくれた。友達という大きな存在になってくれたクルジュとハルバさん。
今こうして改まるとハーディとガーディも一緒に居てくれて良かったと思う。
みんなのおかげでこうやって成長することが出来たんだ。そんな俺が自信を持って皆に感謝出来るように、ボートンでの失敗を挽回しなくてはいけない。
そのためにも今日は良い物を食べて英気を養わなくては。
俺は固い決意を胸に、中心街へ向かった。




