第15話 修行をしよう
今話は1部だけなので19時の投稿はありません。
修練場に他の兵士はいなかった。思う存分使わせてもらおう。
早速、俺の実力を見たいということでロウさんと手合わせすることになる。互いに木刀を持って打ち込むのだが、ロウさんは俺の全ての攻撃を受け止めていた。仕舞いには、はじかれて俺の木刀は手から離れてしまう。やはりこの人はとてつもなく強い。
「大体わかったわ。それで、強くなりたいってどれくらい強くなりたいのかしら」
「それは……」
もちろんウェアウルフ以上の強さだ。
それを説明するのためにもロウさんにボートンで起こった出来事を全て話した。情けない話だけどロウさんは真剣に聞いてくれていた。
「私はこの国の魔物に詳しくないけど、話を聞く限りそのウェアウルフっていうのは獣人ね。身体能力がとても高いから普通の人間が勝てないのも当然よ」
「そう、ですか……」
俺は間違いなく普通の人間だ。俺がいくら鍛えたところで敵わないのだろうか。
ここでふと疑問が浮かぶ。
「ロウさんなら、ウェアウルフに勝てますか?」
あわよくばロウさんに倒してもらおう、などと弱気な思惑を含んでいることは否めない質問であった。
「そうねえ。それは私は普通の人間じゃないって言いたいのかしら」
にんまりと笑顔でロウさんは俺の頭を掴んだ。
「いえ、決してそういうわけでは!」
やばい潰される。
と、覚悟したが軽く頭を撫でられるだけで済んだ。
「まあ負ける要素がないわね。私ならちょちょいのちょいよ」
「やっぱり」
「やっぱり、ってどういうことかしらね」
「なんでもありません!」
ロウさんが手をわきわきするので慌てて発言を取り消した。そのうち本当に頭蓋骨を割られかねない。
俺が意固地にならずロウさんに倒してくれるようにお願いするべきなのだろうか。そう少し悩んだが、ハルバさんの顔が思い浮かぶ。
あの優しいハルバさんが大怪我をさせられたんだ。良くしてもらっていた俺が仕返ししなくてどうする。返り討ちにされそうになっても転移で逃げれば良いんだ。その分、俺は他の兵士達より頑張れる。やはり俺が強くなるしかない。
「俺は、ウェアウルフに勝てるようになれますか」
真剣な眼差しでロウさんに問いかけた。ロウさんは顎に手をやり、うーん、と唸る。
「そうねえ。リュート君自身をすぐに強くすることは無理だけど、道具を良い物にしてあげることはできるわ」
「道具を?」
「そうよ。この街に私の故郷出身の鍛冶屋がいるの。その人に頼めばウェアウルフに折られない剣を作ってくれるはずだわ」
なるほど、確かにそれも大事なことである。
「仕事の早い人だからあっという間に作ってくれると思うわ。何か書く物はあるかしら?」
「あっ、ちょっと待ってください」
俺は修練場に設置されている小屋に入り、そこから紙とペンを取ってロウさんに渡した。その紙にサラサラっと何かを書いてくれている。
「はい、書けたわよ。これをシードっていうお爺ちゃんに渡せば良いわ。この街に鍛冶屋がいっぱい並んでいる通りがあるんだけど、そこの一番奥のお店よ」
その通りには覚えがあった。この街に来た日、散々歩き回ったから。
「わかりました、行ってみます」
「今日のところはこれで解散ね。私もクーちゃんを待たせているし。また明日の昼頃にここで会いましょう」
「はい」
ロウさんは案山子をボコボコにして遊んでいるチビっ子二人の頭を撫でてから中心街の方へ行ってしまった。
俺も早速教えてもらった鍛冶屋に向かおうと二人を呼んだ。
一度、街の広場に戻ってそこから鍛冶屋や工場が並んでいる通りに入る。相変わらず人通りは少ないが、カーン、と鉄を打ち付ける音が聞こえたり、建物の中を覗くと皆せっせと色んな物を作っていた。
そんな通りを進み、端まで辿り着く。そこには通りの手前の方にあった建物よりも古びた建物があった。看板はかかっていないが、中から鉄を打つ音が聞こえる。
「こんにちはー……」
おそるおそる開いていた扉から顔を突っ込んで声を掛けてみた。赤く燃える炉のそばにいた白髪の老人が俺をギロリと睨んだ。
「誰だ」
「リュートと申します。あの、ロウさんの紹介で来たんですけど……、シードさんですか?」
老人は作業を中断して入口で棒立ちになっている俺に歩み寄ってくる。顔には深い皺があったりと歳を感じさせるが、腕周りが筋肉のせいでものすごく太い。
「そうだ」
「あ、あの、これを……」
おずおずと俺はシードさんにロウさんが書いてくれた紙を手渡した。眉間の皺をさらに深くしながら、シードさんはそこに書かれている文字に目を通している。
「ロウの紹介なら断らんが、金はあるのか」
「いくらぐらいあれば……?」
「ここに書いてある剣なら三千リラだ」
「さ、三千っ!」
高いというレベルではない。マラソン大会でもらった賞金の千リラを合わせても今の俺には到底払えない金額である。
「非常に言いにくいんですけど、もう少しお安くしてもらったりとか……」
「できん。この剣には大量の魔鉱石を使うからな。お前が俺に路頭に迷え、というなら話は別だがな」
「いえ、そんなことは言いません!」
どうしよう、金が足りない。金が足りないなんてこの世界に来て最初の二、三日目以来だ。大金を持って心に余裕ができていたのにそれが崩れてしまった。
諦めてこの話をなかったことに、とも思うがロウさんが必要と判断して依頼した剣だ。今の俺に必要不可欠なものなのだろう。と、なるとクルジュに……。友達に金を貸してくれだなんてものすごく言いづらいがそれしかないか……。
いや、待てよ。
「魔鉱石がたくさんお渡しすれば安くしてもらえますか?」
「ん、ああ。魔鉱石の質にも寄るが材料を賄うなら安くしてやろう」
それを聞いた俺は後ろを振り返り、
「ハーディ、ちょっとこっち来て」
後ろで暇そうにしていた内の一人を呼んだ。
「なーにー?」
「この前、いっぱい石拾いしただろ? あれをまた使わせてもらいたいんだけど……」
「全部?」
「で、できれば」
「やだ!」
やはりそうきたか。簡単に事が運ぶとは俺も思ってはいなかった。
「またデザートいっぱい食べさせてあげるからさ」
「やだ!」
デザート攻撃が通じなくなってしまった。そりゃあれだけたくさん食べれば飽きもするか。
「じゃあさ、お城でフルコースを食べれるようにクルジュにお願いしてあげるよ」
「フルコース?」
「そうだよ、色んな料理が次々に出てくるんだ。お城の料理だから高級でとても美味しいよ」
「いいよ!」
ちょろいウサギだぜ、くっくっく。
ハーディが俺の足元に手をかざすとそこにこんもりと石の山が現れる。
「これ、全部魔鉱石のはずなんですけど、足りますか?」
「見よう」
突然現れた石の山に特にリアクションを見せずにシードさんは石をひとつ拾い上げてまじまじと観察する。
「なかなか上質なものみたいだな。これだけあれば充分だ。千リラでいいぜ」
それでも千リラなのか。ぼったくられているんじゃないかと心配になってしまうけど、払える値段ではある。
「わかりました、それでお願いします」
元の半額以下の値段になったんだ。お買い得のはず、と思うしかない。
「じゃあ三日後の夕方にまた来な。金はその時でいいよ」
それだけ言うとシードさんは背を向けて炉の方に戻ってしまった。職人って感じの雰囲気だが悪い人ではなさそうだ。俺は一度シードさんの方へ頭を下げてからその場を離れた。
街の広場まで戻りそこから城へ向かった。当初予定していた通りクルジュに相談しようと思ったからだ。ロウさんと修行することになったことも伝えたい。
だが、残念なことに今日はクルジュに会えなかった。使用人の方が言うには、ものすごく忙しいみたいで空き時間が出来れば直接俺の家に来てくれるとのこと。皇帝が不用意に出歩くのも如何なものかと思ったけど、城の中に篭りっぱなしではストレスも溜まるだろうし気分転換になるのだろう。
というわけですぐに城を出てまた街へ行き、夕食を食べた。ボートン周辺の田舎料理も良かったが街の料理の方が安心できる。ウサギ肉は使ってないだろうから。
その後は銭湯でサッパリし、家に戻った。明日もロウさんと修行をして強くならなければいけないので早めに寝ることにする。ウサギ達に俺を起こす時にまた殴ったらフルコースはなしと脅しておいた。しょぼくれていたが俺の命に関わるのであきらめてもらおう。その代わりに、ウサギの姿で俺の腹の上で寝る許可を与えてやった。
朝の日差しが窓から差し込む。
少々重苦しかったが眠りから覚め、張り切ってストレッチをして身体をほぐした。
街で朝食を食べて、ロウさんとの約束の時間までウロウロすることにする。千リラもする剣を買うので歩いて金を貯めておこうという算段だ。
リーエンさんが領収書をもらって城に出せば経費として返ってくると言っていたけど、千リラもする剣を勝手に買っても適応されるのだろうか。まあ、俺は国のトップと友達だし掛け合ってなんとかしてもらうか……。コネを全力で使う嫌な人間になっていないか少し心配になってしまった。
小遣い稼ぎで時間を潰し、約束の時間になったので修練場に向かう。俺が到着してから数分後にロウさんもやって来た。今日は使い魔のクーちゃんも一緒に来たようだ。
「お待たせ。今日は対ウェアウルフを意識して手合わせしましょう」
「はい、よろしくお願いします!」
今日の修行が始まる。俺は木刀。ロウさんは素手だ。
ロウさんは鮮やかな身のこなしで俺の攻撃をことごとくかわしてしまう。逆に俺はロウさんからの攻撃に反応できず身体に手刀を何度も浴びた。
しかし、一時間、二時間と時間が経つごとにロウさんの動きが見えるようになってくる。手刀を木刀で受け止め、すかさずロウさんの肩に一太刀入れることができた。
「お見事。リュート君は飲み込みが早いわねえ。鍛え甲斐があってお兄さんも楽しいわ」
「あはは、ありがとうございます」
短い間に成長を感じれて嬉しく思う。これならウェアウルフもなんとか――、
「でもねえ」
「えっ?」
正面にいたはずのロウさんが姿を消した。
驚きで目を見開いた俺の首筋に手が当たる。
「獣人が本気を出せばこれぐらいの速さだと思うわ。見えたかしら」
その問いに俺はゆっくりと首を振る。
振り返るとロウさんが微笑んでいた。
勘違いも甚だしい。ロウさんはまだ手加減をしてくれていたのだ。確かに一瞬で兵士達を倒したウェアウルフの動きは今のロウさんぐらいだろう。その事実を改めて思い知らされひどく落ち込む。
「素早い相手と戦う際に二つの対応があるわ。でもリュート君はそのうちの一つだけ、自分もその速さについていく、ということしかできない」
俺があの速さに……。
一刻も早くウェアウルフを倒したいが、一朝一夕ではどうにもならないというのは理解できる。くそっ……!
「もう夕方ね。今日はこれぐらいにしときましょ。ほら! 私も何か策を考えておくからそんなに落ち込まないで。また明日も同じ時間にね」
「はい……、明日もよろしくお願いします」
ロウさんはウサギ達と飛び回って追いかけっこをしていたクーちゃんを呼び戻し、中心街の方へ歩いて行った。
「どうしたの、リュート?」
「まあ元気だせよ」
「うん……、ありがとう……」
あまりの落ち込み具合に二羽からも慰められてしまった。
そうだな、元気を出すしかない。もう一度俺は強くなるんだ、と自分に言い聞かせる。手加減してくれていたとはいえ、最初は全然ロウさんに攻撃が当たらなかったがそれを追えるようになったんだ。成長はしているはずだ。
明日も頑張ろうと気を引き締め直し、俺達も中心街に向かい夕食をたらふく食べた。




