第12-1話 ベトベトになろう
12話は3部構成なので19時と21時にも更新します。
晴天に恵まれ朝から移動を開始した俺達は、昼過ぎにここクーフ地方で一番大きな町、ボートンに到着した。ここが最後の輸送地点だ。
町は城壁に囲まれ鉱山都市と呼ばれるほど金属資源が豊富で、採掘、加工、運搬など、住民のほとんどはそれらに関わっているらしい。
到着して早々自由時間となったので、リーエンさんが剣を新調したいと言っていたのを思い出し、ここでなら安く買えると思ったがそれでも八十リラぐらいするようだ。帝都に帰れば千リラあるが、今はここまで移動して来たボーナスの四十リラほどしかないのであきらめた。
さて、昼飯も済ませたし何をしようか。
いつも通り特に目的もなく空飛ぶウサギ二羽を引き連れてフラフラしていると、町の入口である大きな門の前で何十人かの兵士が武器を手に集まっていた。その中にハルバさんの姿もあったので何事かと訊ねてみる。
「ハルバさん、何かあったんですか?」
「おや、リュート君。採掘場に魔物が出たらしく、それを退治しに行くところだよ」
「魔物、ですか……」
「人数は足りているけどリュート君も行くかい? 話を聞くところに寄るとそんなに危険な魔物でもないみたいなんだ。ただ数がね……」
ハルバさんは困ったように口にした。昨日の熊のような危険な奴が相手なら考えるところだが、そんなに危険でもないなら俺も手伝った方が良いだろう。
「俺も行きます。少しでもお役に立てるように頑張りますので」
それを聞いたハルバさんが微笑む。
「ありがとう。もう出発するけど準備は大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
俺は着込んだ防具と腰に携えた剣を触って見せた。
「よし、では行こうか」
そう言うとハルバさんは兵士達に勇ましく号令をかけて先頭に立つ。これぞリーダーという身のこなしで憧れてしまいそうだ。
そして、俺を含めた部隊は町を出て採掘場へ向かった。
山中にある採掘場の周りは、木々もなく広々としていた。その入口はぽっかりと穴が開いており、奥は洞窟のようになっているように見えた。
まずは数人の兵士が偵察に潜って行く。
「ここは最近見つかった鉱脈があって、入口は狭いけど中は広いらしい。道が入り組んでいるらしいから迷子にならないように気をつけるんだよ」
「わかりました」
偵察が戻ってくる待ち時間の間に、少し緊張している俺にハルバさんが優しく声をかけてくれた。魔物も恐いけどはぐれないようにしなければ。
ウサギ達はというと、ハーディは大きな石を拾ってはそれ投げて割ったりして遊んでいる。ガーディは俺と同じく待機している兵士達と何やら笑い声も交えながら談笑していた。子供特有の破壊衝動を満たしているハーディも恐いが、圧倒的なコミュ力を見せるガーディも恐い。
しばらくすると偵察に行っていた兵士が戻ってきた。誰もが身体にてらてらとする粘液を付けている。何があったのだろうか。
ハルバさんが報告を聞くと一つ頷いてから部隊全体に指示を飛ばす。
「槍を持っている者が前へ。それ以外の者は後ろをサポートしろ。行くぞ」
指示通りに兵士が動き、ハルバさんを先頭に皆が穴の中へと消えていく。
俺は槍を持っていないので後ろの安全を守る役割だ。人数がいるとはいえ戦いに行くのだから気を引き締めていこう。
「ハーディ、行くよー」
「はーい」
まだ石で遊んでいたハーディを呼ぶと素直な返事が返ってきた。その手には手の平サイズの大きさをした石が握られている。
「綺麗な石、いっぱい拾ったからリュートにもあげる」
「えっ、う、うん……、ありがとう」
手渡された石をよく見ると緑色のエメラルドの粒をまぶしたようにキラキラしていた。確かに綺麗ではある。
「ハーディの分の石は?」
俺に石を渡して手ぶらになったハーディに訊ねる。
「私のは異空間にしまってあるよ」
異空間?
よくわからない単語が出てきたが、既に最後の兵士が洞窟に入ろうとしていたので深く追求している時間はない。俺は慌てて部隊の最後尾についた。
洞窟内は天井が高く横幅もあり平坦な道が続いていた。ハルバさんの言っていた通り道が入り組んでいるが、しっかりと灯りがつけられているので、前の兵士について行けばはぐれることはなさそうだ。
しかし地上とは勝手が違うので緊張しながら歩を進める。すると、
「パンパカパーン!」
「うわっ!」
後ろにいるハーディが突然、馴染み深くなってきたいつものアレを叫んだので心臓が止まるかと思った。振り返ると天使の輪がピカピカしていた。
「おめでとう! 『移動距離、十キロメートル』を達成したよ! ボーナスとして十リラが贈られるよ!」
「えっ、なんで今更……」
新しいボーナスかと思えば、最近はめんどくさいという理由で教えてくれすらいなかった十キロ達成のお知らせであった。
「えへへー、リュートが驚くだろうってガーディが言ったの」
「あはは! 見事に引っかかったな」
二人とも実に楽しそうである。こっちは気を張ってそれどころではないというのに。
俺の前を歩いていた兵士もさぞ驚いただろうと振り返ると、
「あ、あれ……?」
そこには誰もいなかった。
先は丁字路になっており、急いで両方の道を確認したが同じような道が続いているだけで人っ子一人いない。血の気が引く感覚を思い知ってしまう。
早まる心臓の鼓動を抑え冷静になろうとする。とりあえず耳を澄ませて足音を探ってみたが物音ひとつしなかった。
落ち着け俺。
こういう分かれ道では人間ついつい右に行ってしまうと聞いたことがある。ということは右に行けば皆と合流できるのではないか。
いやいや、先に偵察に入った兵士が魔物がいる所へ道案内しているだろうし、事はそう簡単ではないだろう。
合流するのはあきらめて帰るという選択肢もある。だが、ここまで何回も分かれ道があったので帰るのも一苦労しそうだ。
ここはウサギ達の不思議パワーに賭けてみるか。
「なあ、二人とも。みんなはどっちに行ったかわかる?」
「わかんなーい」「知らん」
終わった。
まあ、心の大半はアテにしていなかったので切り替えよう。
右を見て左を見てを繰り返していると、段々下手に動かずにここで待っているのが正解な気がしてきた。
そうだ、俺は慎重な男。一か八かの選択肢は選ばない。
あとでハルバさんに怒られるかもしれないが、それは素直に謝って許してもらうしかない。
「なあ、早く進もうぜ」
「いや、ここで皆が帰ってくるのを待つよ」
俺が今後の方針を告げると、見るからに子供の二人が子供のように騒ぎ出す。
「えー、私探検したいー!」
「こんな所にいても仕方ないだろ。退屈で死んじまうよ!」
二人がイタズラしたせいでこうなったというのに反省色が全くない。そして俺が一番恐れていた言葉をハーディが口にする。
「じゃあ、私とガーディで先に行くね」
「弱虫引きこもり根暗野郎はここで朽ち果てとけ」
ガーディからもとびっきりの悪口を言われてしまう。精神的に成長した俺でも心にくるものがある。
それよりも二人が俺を置いて先に進むと言っているのだ。となると俺の取る道は一つ。
「やっぱり俺も行きます……」
二人が心配というより俺一人だけこんな所に置いていかれるのは耐えれない上での決断であった。




