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第11-2話

 その後、俺達は村に戻って昼食を満喫した。

 レージベアの死体は村の人達が回収し、毛皮などを使って工芸品にするらしい。肉も調理され皆に振舞われた。俺も頂いたが何というか野生の味だった。

 片づけをして少し休むと、また次の集落を目指して輸送隊は村を発った。

 昼間の熊騒動で大変な思いをしたが、それ以外は順調に進み、日もやや沈み始めた頃にこの日最後の町に到着する。


「お疲れ様。明日も早いからゆっくり休んでくれ」

「はい、そうします」


 ハルバさんが労ってくれて明日も頑張ろうという気になれた。俺って結構単純なのかもしれない。


「なー、リュート。はらへったー」

「へったー」


 ウサギ達は相変わらずのマイペース振りだ。


「ははは、せっかくだから町に出て食べてきたらいいよ」

「あ、あの……、ハルバさんも一緒に、どうですか……?」


 人を食事に誘うという初めての行動を起こしてしまった。恥ずかしいがこういう時はこう言うものだろうと俺の中の大和魂がアドバイスしてきた。


「俺はまだ仕事が残っていて待たせるのも悪いから三人で行っておいで。せっかくのお誘いをごめんね」

「い、いえ! 仕事じゃ、仕方ないですから」


 フラれてしまったが他意があるわけではないだろう。うん、また今度誘ってみよう。


 ハルバさんと別れて俺達はこの地域の郷土料理が食べられる店に入った。

 お金は、今日移動したボーナス分の三十リラがある。クルジュにもらった千リラは持ち運ぶには心配なので借りている家に隠してきていた。

 注文表を見ていると山菜鍋という料理を見つけた。説明書きには山菜が多めの鍋で肉を熊かウサギか選べると書いてあった。

 ――ウ、ウサギだと!


「ねえ、注文しないの?」

「なんでも良いから早くしろよー」

「ご、ごめん。えっと――」


 昼間に熊肉を食べたので普通ならウサギ肉にする流れではある。しかし、この二人がいるのにそれはマズイだろうということで熊肉入りの鍋を注文した。一人で変な汗を出してしまった。

 そして、運ばれてきた鍋を美味しく平らげる。ここの熊肉は臭みがなく美味しかった。やはりちゃんとした店で食べた方がいいな。


 兵士の宿舎に戻り、ハルバさんに言われた通りすぐに寝ることにした。またまた気を使ってもらったのか、この宿舎の部屋も俺とウサギ達の三人だけである。


「もう寝るの?」

「明日も早いみたいだし――、いてっ」


 ベッドに座って寝ようとしていたらガーディから枕が飛んできた。


「あはは、命中ー」

「あー、私もやるー」

「ちょ、二人とももう寝るから、あぷっ」


 どうしよう、子供二人が遊び出してしまった。こういう時、世の親御さんはどうするのだろうか。


「よし、わかった。二人とも俺に向かって枕を投げて来い。それで、俺が受け止めたらおとなしく寝ること」

「お、勝負か。いいぜ」

「わかったー」


 これが正解だろう。声を荒げて怒っても仕方ないしな。そんなこと出来る気がしないけど。


「よーし、じゃあリュートが死なない程度に力を出すか」

「やれー」

「はっはっは、かかってこい」


 死なない程度とは実に子供らしい謳い文句だ。何回かわざと大げさに当たってやろう。

 俺がそんな大人の余裕を見せていると、


「死ねー!」


 ガーディが放った枕は弾丸のように俺の顔を掠めて壁をぶち破った。


「ちっ、外したか」

「次、私ね」

「ちょ、ちょっと、タ、タイムタイム! 待って! ステイ!」


 命の危険を感じ、慌てて次の一投を止める。


「なんだよ」「なーにー?」

「えーと、先ほど飛んできた枕に当たっていたら、俺、死んでたんじゃないかなーって」

「大丈夫だろ。手加減したし」


 いやいや、石でできた壁を突き破るほどの枕を喰らって死なないはずがない。それに投げる時によからぬ掛け声を聞いた気がするぞ。


「勝負を始める前と威力が違うのですが……」

「ん? そりゃ魔力を込めたからな」


 魔力とな。ゲームでよく使われるあれか。

 そういえばこの前出会ったオネエの人が俺には魔力がないとか言っていたな。そしてこのウサギ達にはあるようだ。


「いくよー」

「ちょま――」


 ハーディが放った枕はまたも弾丸のように俺の顔を掠めて壁をぶち破った。死ぬわ!


「二人とも、もう勝負は終わり! 俺の負け!」

「えー、もっと投げたいー」

「途中で逃げるなよー」


 冗談ではない、命がいくつもあっても足らないとはこのことだ。


「そういえば私達が勝った時どうするか決めてなかったね」

「んー、火でも着けようか」

「いや、それも死ぬから……」


 子供は無邪気にえげつないことをするから恐ろしい。


「ちょっと私眠たくなったかも」

「じゃ、じゃあ今日はもう寝よう! ほらほら、灯り消すからガーディもベッドに入って」

「えー、俺はまだ眠くないんだけど」

「暗くして目を瞑れば寝れるから。さあさあ」

「仕方ねえなあ」


 ハーディはさっさとベッドに入り、ガーディものそのそとベッドに入ってくれた。俺は急いで部屋の灯りを落とす。ふう、なんとか誤魔化せたな。

 まだ寝る時間には早いが今日はよく寝れそうだ。朝から歩き続けたが、この世界に来てそんな毎日ばかりなので慣れてしまいその疲れはあまりない。熊と戦ったことの疲れが大半だろう。


 今回もらった能力について改めて考える。兵士となった今、ハルバさんも言っていたが危険な動物、魔物と呼ばれる奴らと戦う機会もまたあるかもしれない。その時に役立ってくれる能力なのは間違いない。しかし、ここでふと思う。

 確かハーディが、『倒した種族と同種族と戦う時に身体能力が上がる』と説明してくれたな。熊は獣族と呼んでいたが、それ以外の種族の魔物と初めて戦う時は俺自身の力で戦えってことなのではないだろうか。ハルバさんに弱らせてもらってトドメを俺が……。卑怯なことこの上ないけど、生きなければならないので仕方ない。候補に入れておこう。


 そんなことを考えているといつの間にか眠ってしまう。

 あと三日。無事に任務を果たし、クルジュに熊を倒したことを自慢げに報告してやるとしよう。


 翌朝、ウサギ達が開けた穴のせいで宿舎の管理人さんにたっぷり怒られてしまった。

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