刀
橋の上で斬り合いが始まった。
あまりの事に、繁之介は口を開けたまま、見入っている。
橋の上の男達は、なにやら口々に叫んでいたが、遠くて何を言っているかまでは聞き取れない。
そのほとんどは意味を成さない怒声のようでもあった。
刀がぶつかり合う甲高い金属音が、繁之介を現実に引き戻した。
「下村の奴、あの虚無僧に斬られちまうんじゃないか」
青い月の光に照らされた大蔵の美しい横顔が、ニヤリと歪んだ。
「下村が死ねば、手間が省けるじゃないか」
繁之助はその時、大蔵に感じた「自分の持っていない何か」の正体が解った気がした。
与助は、距離をとり、けん制したはずだった。
が、繁蔵は逃げるどころか、踏み込んで間合いを詰めた。
そうして、刀を抜く間がないと悟るや、脇差のこじりで与助の背中に一撃を加えた。
与助は勢い余って、嗣次に身体を預ける格好になった。
「ばかやろ!邪魔だ」
嗣次が体制を立て直したとき、繁蔵は既に鞘を抜き払っていた。
平間は、騒ぎが始まるや、常に斬りかかった。
既に及び腰になっていた常は背中に浅手を受けたが、そのまま逃げだした。
平間は深追いせず、繁蔵に向き直った。
嗣次、孫次郎、甚蔵が、間合いをとって繁蔵を取り囲む中、与助だけが狂ったように刀を振り回している。
繁蔵は、長ドスで軽くいなした。
鉄と鉄のぶつかり合う音が響いた。
孫次郎と甚蔵は、申し合わせたように天蓋を外した。
笹川繁蔵の顔には、怒りとも、愉悦ともつかない表情が浮かんでいる。
「うるせえな。三下!」
繁蔵はそう言って、与助に向けて刀を薙いだ。
与助は大きく仰け反り、仰向けのまま倒れた。
天蓋がずれて、視界を失った与助は、大声で叫び散らしながら、なお刀を振るう。
その切っ先が、繁蔵の着物の裾を裂いた。
繁蔵は、ほんの一瞬足元に気を取られた。
刹那、
嗣次は正面から袈裟懸けに斬りつけた。
繁蔵の動きが止まった。
平間、孫次郎、甚蔵が三方から、巨魁の身体を貫く。
繁蔵は膝をつくと、もう一度、長ドスを大きく薙ぎ払った。
「ハッは」
返り血を浴びた嗣次が笑った。
「わりいな。あんたはいい奴だが、おれぁ、相撲取りって奴が大っ嫌いなんだ」
そう吐き捨て、繁蔵の首を刎ねた。
嗣次が見下ろしたその首は、笑っていた。
こうして、その長刀は初めて人の血を吸った。




