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追放された影の騎士は、偽王女に奪われた王都を取り戻す ―本物の第一王女と始める王国奪還物語―  作者: すなぎも


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第47話 一筋の光

 ブルーノがルーガルの群れに飲み込まれ、王都騎士団の背後に迫る。


 魔物に言葉は通じない。彼らにあるのは人を捕食するという本能だけだ。


「退け! 退けぇ!」


「早くしろ! 間に合わなくなるぞ」


「バカ! こっちはバステリオン側だ! こっちに来るな!」


 足並みが揃わない。鎧が衝突して騎士達が倒れ込み雪崩が起きる。


「っち! なにをしてる!」


 誰よりも早く動いたのはラズだった。


 だが、朝の平野に影はない。潜り、中を泳ぐことはできない。


 地を蹴り、魔物が迫る前線へと駆け出す。


 その姿を見て、アリスは号令を出した。


「門を開け! 志願するものだけでいい、王都軍を魔物から守りなさい! 無駄に命を散らさせるな!」


 その掛け声に、兵の手が止まる。


 敵に手を貸すのか? という不満。


 誰もが考える。奴等が殺されるうちに魔物を殺す準備を整えるべきだと。


「言われた通りに動きなさい、悩むのは我々の仕事ではありません! 門を開け! 志願者だけ外に出て魔物を殺すのです! 先頭は私に任せなさい!」


 シグレは叫ぶと、弾丸のように門上から飛び出し地に降りた。一線の矢のように前線へと迷わず駆け抜ける。


 先行するラズ、その背を追いかけるシグレ。


 だが、間に合わない。


 魔物の先頭はすでに崩れた王都軍の目の前に迫っていた。


「や、やめろ! 来るな、来るなぁ!」


 倒れる騎士に、ルーガルが涎を垂らして牙をむく。


 その時、影が一つ、王都軍の列の中から起き上がった。


 その影は音もなく周囲を駆け回る。


「影よ。突き刺せ」


 ルーガルの影が剣となり、己の身体を突き刺した。


 小さい身体に幼い顔立ち。


「な、なんだ。お前は」


「早く立ってください、言葉が通じる相手じゃないんです! 立って、戦って、生きるんです! それが今できることなんです!」


 影から現れた少女が背後に迫る爪を見ずに躱して、首を刀で跳ね飛ばす。


「魔物が相手だったら遠慮はいりません。シグレ様の許可も出た。全力で行かせてもらいます!」


 イオリは腰を低くしてルーガルの群れに突っ込んだ。攪乱するように影の中に飛び込んで、戸惑いで動きが鈍くなる獣を背後から突き刺していく。


 その姿に、王都軍の騎士が目を見開く。


「なんでバステリオンの奴が魔物を」


「迷う暇があったら態勢を整えろ! ガキに守られるのがお前らの仕事か!」


 前方に現れたラズがルーガルの群れに飛び込む。


「ラズ・グレイヴナイト! なぜ反逆者が」


「頭を回せ! 目の前を見ろ! 悩んでる場合か!」


 影に潜り、ラズは叫ぶ。


「イオリ、森の中で使った魔法を思い出せ。一気に数を減らすぞ!」


「無理です師匠! 今は明るすぎて魔力が足りません!」


「俺が影を濃くして足止めをする。全力でやれるだけやれ!」


 ラズは影から出て、剣に闇を纏わせる。


 そして、ルーガルの影に突き刺した。


「広がれ」


 周囲の影が一層、陰る。魔物の隙間に日差しが照らす地面にまで影が広がり、辺りが微かに光を失う。


「イオリ!」


「はいっ、全力で行きます!」


 影の中で、イオリは目を閉じる。魔力を流して周囲を探り、ルーガルの気配と呼吸を正確に掴み取る。


「貫いて!」


 影が剣となり、何十、何百というルーガルの身体を突き刺した。


 呻き、身体を貫く影の剣から逃れようと藻掻く身体は、切断されて地に落ちる。


「影魔法? イオリが、やってるのか?」


 門上でそれを見ていた兵が呟く。それは小さい音だったが、すぐにバステリオンに広まっていく。


 いつもシグレの後ろに隠れ、情報共有を主に行動していた彼女が。前線に出てラズと共に王都騎士団を守るため、魔物と戦っている。


「バステリオンの民よ、人を助けたいと思う人は私に続いて! 迷っている時間はないわよ!」


 門が軋み、少しずつ開く。


 アリスを先頭に、バステリオンの兵たちが一斉に外に雪崩れ込み、王都軍の横を抜けて魔物へと突き進む。


 だが、遠い。防衛線を想定していた彼等が攻めに転じるには時間が掛かる。


 ラズとイオリがルーガルが駆逐していく。


 シグレが掻い潜る魔物を排除していく。


 アリスとバステリオンが手助けをしようと野原を駆けあがる。


 それを見て、王都軍の騎士たちは混乱していた。


「なぜ敵が俺たちを助ける?」


「今は敵味方じゃない、生きるために戦うの! 迷ってる暇なんてない!」


 耳にしたアリスが叫ぶ。


「貴方達も騎士でしょう、意地を見せたらどうなの! 民にそんな姿を見せてきたつもりなの! 貴方達はこんなところで死んで、何がしたかったの!」


 言葉が刺さる。それは命令でも指示でもない。


 それでも、王都軍の中で一人が盾を上げた。次にもう一人。逃げるだけの足が、踏みとどまる足に変わる。


「構えろ、隊列を建て直せ! 隙間を作るな!」


「前列は盾、後列は魔法で攻撃! 前進して魔物を押し返すぞ!」


 軍勢に秩序が戻る。


 シグレが背中でそれを感じで前線に出る。それに合流するように、ラズとイオリが後退する。


「ルーガルの息の根を止めるなら首です! 跳ね飛ばせばいいですが、突き刺して致命的なダメージになります! 冷静に急所を狙ってください!」


 シグレの指示に従い、王都軍がルーガルと衝突し、首を突いて命を砕く。


 イオリが影に潜り混乱させる。


 ラズが影を伸ばして魔物の動きを止める。


 シグレの刀が閃き、首を落とす。


 騎士団が波を押し返す。


 だが、途切れない。


 ラズの呼吸が浅くなる。


 シグレの刀が血に鈍る。


 イオリは既に影に潜る余裕すらない。


「クソっ! 押し切られるぞ!」


 ラズの声に焦りが混じった。


「長が見当たりません、どこにっ!」


 シグレが探る。


 焦りがミスを呼び、騎士団が押され始める。


「弱気になるな、いつか途切れる! 今は耐え時だ!」


 ラズが叫ぶ。だが、あとどれほどの魔物がいるか、確かではない。


 月夜の軍勢ではアリスがルーガル・オーダーを、ラズがルーガル・ファウンダーを倒した。ファウンダーは必要ない。せめてオーダーを落とせ今は凌げる。


 だが、シグレですらオーダーを探り当てられない。群れの後方にいるはずの長は、しかしまだ姿を現していない。


 隊列が崩れ始める。魔物の牙が届き始める。


 その時、空が白く裂けた。光が降る。炎でも雷でもない、透明な白。


 そこに音はない。目が痛いほど純粋な光。ただ、強いだけの日光。


 ルーガルの群れが、微かな熱に、一怯えたように足を止めた。


 次の瞬間、光が強まり、魔物たちが塵として消える。


 焼け焦げた匂いはない。ただ、消えた。死骸も骨も残らない。


 広範囲の熱線が突如として魔物に降り注いで一帯を焼き尽くした。


 なにが起こったのか、誰もわからない。


 眩い光がいきなり魔物を飲み込み、荒野から全てを消し去った。


 ただ、それだけだ。


 戦場が、静まり返る。


 白い残光の向こうに、銀髪が揺れた。


 赤い瞳。眠たげな目。


「……レイ」


 呟いたのは、最前でその姿を確認したラズだった。


 彼女は答えない。なにも言わずにラズの目の前で足を止める。


 その場にいた全員が、息を止めた。


 バステリオンの兵も、王都の騎士も、アリスも、シグレも。


 圧倒的な強さは、歓声より先に沈黙を作る。


 そして、ただ一言だけ落とす。


「ラズ。こんなところにいた」


 他の者には決して見せることない純粋な笑みに、ラズはしゃがんで目を合わせる。


「元気にしてたか?」


「うん。退屈だったけど。またラズに会えたからいい」


「そうか。俺は大変だったけど、レイに会えたならそれでいい」


 ラズがレイの頭の上に手を置いて、ホッと胸を撫でおろす。


 それが伝染するように、戦場ようやく息を吐いた。


 魔物の気配はない。


 レイの一撃で、この戦いは完全に終わったのだ。

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