63.
ミシェルの的確な指揮と手配のおかげで、援軍出発の準備は驚くほどスムーズに進んでいた。
城の中庭にはすでに転移魔法陣が起動し、眩い光とオゾンのような匂いを放っている。
「あんたは大蛇の相手。あたしは怪我人の治療よ」
「うむ。頼むぞ」
ガシャンと重装備を鳴らすギデオンの横に、杖を持ったフローラが並び立つ。
二人は躊躇することなく、眩い光の渦へと勢いよく飛び込んだ。
視界が晴れると、そこは湿った土と酷い腐敗臭が漂う南方の森であった。
ミシェルは遠く離れた帝城にいるというのに、事前の計算で正確な怪我人の位置を割り出している。
「まったく。ミシェルは見ていないのに、すべてが見えているようですごいな」
ギデオンは感心したように口角を上げ、深く頷いた。
彼は待機させていた魔導カーにフローラを乗せ、怪我人のいる方角へと向かわせようとする。
その直後、ビリビリと大気を震わせる異様な咆哮が轟いた。
「ジュララアアアアアッ」
木々の葉がザワザワと揺れ、鼓膜を突き破りそうな敵の叫びが響く。
ギデオンは迷うことなく、声のする方へと大きな体を向けて走り出そうとした。
「あんた、怖くないの? 毒で即死するかもしれないのにっ」
走り出した魔導カーの窓から顔を出したフローラが、青ざめた顔で叫ぶ。
巨大な皇帝はピタッと足を止め、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「平気だ。俺には女神がついている」
その言葉に、フローラはのけぞるように驚き、ふっと呆れたように息を吐き出した。
「あの子の信頼を裏切るんじゃあないわよ」
「無論だ」
ギデオンは力強く頷き、猛毒の立ち込める死地へと颯爽と駆け出していくのだった。




