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俺とあいつと娘の夏  作者: 水元悠紀


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16/16

16.距離が近い

重い空気の中、沈黙を破ったのは輝さんだった。

「犬飼さんありがとう。・・・・今ではこの国の民が小さい頃から教わる事なんだよ。我がいえは国から飼育を許可されてはいるが、もし万が一不備があれば即その資格を失うのだよ・・・・。」

輝さんの目が赤い。

美奈さんは輝さんを心配そうに見ている。

もう輝さんの背中を摩ってはいないが、美奈さんの手はまだ輝さんの背中にある。

「10年前も一つ頭が産まれてね。あの時は、私も光も何とかして育てられないか、どうにかできないか、犬飼さんにも両親にも2人で掛け合ったんだ。勿論痛ましい過去の事は教わっていたし、我が家がどういう立場でケルベロスを飼育しているかも知っていた。それでも私達はあの子を助けたかったんだ・・・・。」

遥の目も赤い。

あれ?

いつの間にか光が遥のそばに居るのだが?

ちょっと待ておい遥と距離近過ぎじゃねぇか?

「でも、私達が犬飼さんに諭され、両親から説教を受けている間にあの子は天に旅立ってしまった・・・・。ぐすっ。ミルク、ミルクが上手く飲めなくっ、てっ・・・・。」

泣いてしまった輝さんに美奈さんが「頑張ったわね」と言いながら再び背中を摩っている。

うんとても悲しい過去だったね。

良く頑張って話してくれたよ。

でも今の俺は遥との距離が近過ぎる光が気になってそれどころじゃないんだ!

部屋に入った時は光の右に俺、左に遥で、それぞれの間隔は等間隔だったはずだ。

だが今、俺と光の間はだいぶ開いていて、遥と光の間はほとんど隙間なんて無い!

けしからん距離を許容する訳にはいかないので、2人の間に割って入ろうと思い、一歩踏み出そうとした時。

「この子はちゃんとミルクを飲んでました!少しは長く生きられるんじゃないですか?!」

それまで下を向いていた遥が顔を上げて犬飼さんと輝さんを交互に見ながら大声を出した。

「遥ちゃん、それは」

光が嗜めようとしたが、遥は更に続ける。

「体が弱いなら届けを出さずに少しだけでも様子を見てからまた考えたらもしかしたら」

「できません」

「できない」

「遥ちゃん」

犬飼さんと輝さんと光が同時に喋った。

遥がびっくりしたのか、目を大きくして黙った。

「遥君の言ってる事は私達が10年前に犬飼さんや両親に言った事と同じだ。私達だけじゃない。過去にも何度か同じように一つ頭を育てようとした人達がいたのだよ。でも結局色々問題が生じて、一つ頭だけでなく、管理不十分として飼育側も処罰されたりしたんだ。」

輝さんは遥の目を真っ直ぐ見て言った。

犬飼さんが続ける。

「先程申し上げた通り、全てのケルベロスは戸籍を持ちます。出生届も死亡届も7日以内に出さなければなりません。毎月国の監査もあります。たとえこの子が7日以上生きられたとしても、国に生存が確認された場合、虚偽の申告をしたという事になりますので、この子も我々も白木様達も全て処罰されるのです。」

遥は何か言おうとしたが、口を開く事は無かった。

俺は、未だ遥と距離が近過ぎる光も物凄く気になるが、輝さんと犬飼さんの話を聞いて疑問を抱いたので質問する事にした。

「あのー、こちらの世界には『犬』はいないんですか?」

全員が俺を見る。

光が一瞬驚いた顔をして、急に顔を真っ赤にして、さり気なく遥と距離を取りながら「ああ、犬か、犬はいないよ」と言った。

クスッという声が聞こえた気がして、そちらを見ると、美奈さんが光を見て笑ったようだった。

何にせよ光が遥から離れたので良かった良かった。

「昔はこの世界にもいたんだけど、絶滅しちゃったんだ。博物館に剥製があったりするよ。」

うーん。

この世界における犬って、ニホンオオカミみたいな扱いなのか?

そういえば遥が小学生の頃、あやめと3人で行った博物館で剥製を見たけど、実はニホンオオカミの剥製って物凄く希少だそうな。

この世界での犬もそのくらい希少なんだろうか?

「そっちの世界だと個人で犬を飼ってるから、初めて見た時は驚いたよ。」

そうだろうな。

光から見たら、一つ頭がたくさんいて、尚且つ個人飼育だもんなあ。

気軽に愛犬と遊んだり散歩できるなんて考えられないだろうなあ。

そんな事を思っていたら。

「珍しくなければ分からない・・・・」

「戸籍も無い・・・・」

「ミルクは飲めた・・・・」

遥が眉間に皺を寄せて小声で何か呟いている。

俺が見ている事に気がついたのか、遥がこちらを見てニコッとした。

「ケルベロスじゃなくて犬なら当たり前だもんね。」

「は?」

妙に自信あり気な表情をしているようなんだが。

嫌な予感がする。

「この世界だとこの子は最長で7日しか生きられないって事ですよね。」

犬飼さんが「そうなりますが・・・・」と困惑している。

遥は子犬をじっと見て、それから俺達を見てから言った。

「この子は私が飼います!」

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