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「お兄様、とてもお綺麗です!」

「まさかまたルーファスお姉様に会えるなんて……!」

「イアン、落ち着いて。どこにもお姉様はいない」


 いるのはドレスを着た僕だ。

 胸の傷が治った僕を待っていたのは、いい笑顔をした母上だった。

 心配し過ぎてシワが増えたと愚痴られ、ドレスをオーダーメイドで作ることを宣言された。母上のじゃない、僕のだ。


 ヴィヴィアンの分と一緒に作られたのは、純白のマーメイドドレスだった。

 上半身は体のラインが如実に出るタイトなシルエットで、膝上ぐらいからスカートの裾が幾重にも広がる。

 僕の裾は、半透明の布が折り重なって地面で広がるのに対し、ヴィヴィアンのものは膝辺りから大きなフリルが作られて、可愛らしい印象を受けた。

 今回、コサージュは髪飾りとして使用されている。

 ヴィヴィアンとお揃いのドレス……。

 いや、いくら僕がシスコンでも嬉しくないよ。

 あと、どうしてイアンもドレスを着てるんだろうか。

 青い髪に合わせた、襟が大きい水色のドレスは、とても似合っているけど。


「ボクのはスカートに見えて、ズボンですよ?」


 ひらりとイアンが裾を捲ると、生地の繋がりが見える。

 僕もそっちのほうが良かったな!?

 どちらにしてもフリフリなのは変わらないか。


「黙って眺められるだけなのも、結構堪えるな……」


 今回催された「お花畑に集まった妖精たちの会」には、観客席があった。

 そこには父上の他に、アルフレッドとテディ、エリックも座っている。

 辛い。

 アルフレッドがいるのは、エリックのせいだった。

 ちなみにテディにはアルフレッドからバレた。


 陛下からつけられた、僕の護衛兼、監視役に任じられたのは、エリックだった。

 使い回されてないか、エリック。

 しかし母上曰く、エリックがアルフレッドにつけられたのも、僕と会える機会を作るためだったらしい。僕が寂しがっているのを聞いて、王妃様が気を使ってくださったのだという。

 現実から逃げたくて、僕はそのときのことを振り返る。


「言ったでしょう? 王妃様には、目の敵にされていないって。恨まれてるのは、旦那様個人よ」

「父上がですか?」

「高等学院時代ね、あたしと王妃様、どちらが綺麗かって論争が起きたの」

「はぁ……」


 何とも無用な論争だった。

 系統が違うだけで、二人とも美人なんだ。

 優劣なんて、好みに左右されるだろう。


「もちろん、あたしたちは隠れて批評を聞いたわ」

「聞いてたのですか」

「だって気になるじゃない。皆、悩みに悩み抜いて答えを出していたわ。陛下に至っては、答えをにごしておられたわね」

「そうするしかないでしょう」

「けれど旦那様は違ったのよ」


 うふふ、と当時を思いだしているのか、母上が頬を染める。


「あたしだって即答されたの。あのときの王妃様の顔ったら……」


 高等学院時代、既に父上は無表情だったらしい。

 近寄りがたさは健在で、この質問にも回答はないと思われた。

 ダメ元で聞いたら、まさかの即答で、それが起因となって婚約も決まったと母上は語る。


「詳しく聞けば、綺麗さならあたし、可愛さなら王妃様というのが、正しい回答でしたけどね。王妃様は、そのときのことを少し根に持っておられるだけなのよ」


 しかしその「少し」が憶測を呼び、今の社交界に至る。


「王妃様も、結果としてウッドワード家の敵対勢力を煽ってしまったことを、気にしておられるわ。けど旦那様はそれを利用することにしたの。王妃派を介して、敵対勢力を監視できるようにね」


 だから、誘拐事件に関わった者もすぐにあぶり出せるわ、と微笑む母上は息子の僕から見ても綺麗だった。

 母上が言った通り、ほどなくして仮面の男と繋がりがあった者たちは、失脚することになる。

 これで夜会でも、僕に面と向かって突っかかってくる者は減るだろうと。

 減るだけで、いなくならないところが貴族社会らしい。

 こうして僕の誘拐事件が、一件落着したのはいい。

 そのお祝いの席が「お花畑に集まった妖精たちの会」なのは、どうかと思う。

 身内だけでおこなわれるはずが、僕の護衛になったエリックがアルフレッドに漏らしたことで、観客が増えることになったし。


「おおお、お兄様? とても綺麗だ!」

「そこはお兄様だと断定して欲しい」


 しばらく呆然と僕を見ていたアルフレッドが声を上げる。


「当たり前でしょう? わたくしのお兄様なんだから」

「手紙には、わたくしたちのって書いてただろ!?」

「冒頭に、事実をはっきり記しておいたはずですけど?」


 距離が縮まったかと思いきや、ヴィヴィアンとアルフレッドは相変わらずだ。

 今日はお祝いということで、デビュタント前だけど同席を許されている。


「ルーファスは嫁に出さないからな!」

「旦那様、ルーファスは跡取りでしてよ」


 遂には父上までとんちんかんなことを言い出して、頭痛を覚える。


「……ルーファス、綺麗だ」

「ありがとう、エリック。全然嬉しくない」


 褒められても喜べないのは、僕の心が荒んでいるせいだろうか。

 いけない、謙虚のオオカミにエサをやらないと。

 ふと視線を向けた先には、未だに固まっているテディの姿があった。

 テディは僕と目が合うと、ようやく再起動する。


「まるで朝露が滴る白百合みたいだ。花の妖精に、男女は関係ないんだな」

「あ、ありがとう……」


 テディの詩的な表現に頬を引きつらせる僕に対し、ヴィヴィアンは手を叩いて喜んだ。


「まぁ、とても素敵ですわ! どこぞの赤毛とは大違いですわね」

「オレも綺麗だって言ったぞ!?」

「わかっていませんわね」


 ケンカするほど仲が良い、と言っていいんだろうか。

 二人とも素直になれない点については、似通ってるように思う。


「殿下、ヴィーも褒めてください」

「うん? ヴィヴィアンも綺麗だぞ」

「どこが綺麗ですか?」

「えっと、長い髪は艶がのっているし、青い瞳は透き通ってるし」


 僕が質問を重ねると、アルフレッドはヴィヴィアンを見ながら、たどたどしく答える。


「それってお兄様と同じところではありませんの?」


 険のある言い方だった。

 けれど、ヴィヴィアンはいつかの父上のように、顔を真っ赤にしている。

 僕はそっとアルフレッドからヴィヴィアンを隠した。

 自分で仲を取り持っておいてなんだけど、ヴィヴィアンにはまだ色恋は早い気がするんだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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[良い点] 一気読みしました! ショタの魅力はもちろんですがキャラがみんな(お父様含む)可愛くて最高でした。 ラストの主人公のやりきれなさもニヤニヤですね。 [一言] 『ヒロイン』がでてから本番かと思…
[良い点] ルーがとてもいいこで、優しくて可愛かったです(*´ω`*) 家族も友達もとても素敵でした [気になる点] 続きがとっても気になります [一言] 区切りはついていますが、もっともっと彼らの…
[一言] もえもえ過ぎてもう本当にありがとうございます!
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