それでも偉そうなハルさん
結局、春日の処分は停職二ヶ月と決まった。
「検査入院が長引いたと思うことにしたよ」
折角持って来たばかりの荷物をまたまとめて、春日はデスクを離れた。
「その前に一服してこうかな」サンライズをちらっと見るので、仕方なくまた付き合う。
屋上は相変わらず、人けがなかった。二人の吐き出す煙だけが軽くたなびいていた。
「オマエ……今度のコトはやり過ぎだと思う」
根が小心者のサンライズは、小さな声でそう言った。
「先にちゃんと、支部長に相談すべきだったと思うよ」
「かわいいなあ、サンちゃんは」親戚のオヤジみたいな口調で笑っている。
「そういう点がオマエのいい所だ、それよかナカガワには用心しろよ、なるべく関わり合いになるな」
「オマエのせいで十分顔を覚えられちまった」
そうむくれると、親戚のオジサンが飴玉をくれるように、箱に残った煙草をそのまま彼に押し付けた。
「まあしばらく会えないけど、元気でな。禁煙すんなよ。あと部下を死なせるなよ、オレみたいに」
「そんなにいっぺんに約束させるな」
ボビーやシヴァを危険に巻き込むこともあるのだろうか、これからずっと任務を遂行するにあたっては、リーダーならば常に部下の身の安全に気を配る必要はあるだろう。
「オレ、こわくなったかも……」正直に言うと、春日がじっと彼の顔をみた。
「オレだって、ずっと怖かったさ」
自分だけならどうにでもなる、しかし他人の命まで預かる立場だからな。
「今でも、時々キャリーの所には行くんだ、様子を見に」
春日がかかっている病院に神経医療センターが併設されており、彼女はそこに居るのだと。
「女性なのか」男女同権と言いながらも、特務の女性は珍しい。
「ああ……だから助かったのかも知れない、命だけはね」
夕闇が迫り、屋上の照明が一つ点いた。春日の表情も読み取り難くなってきた。
「あの時に、オレはできることはやった、それでも部下を助けられなかった。悔やんで悔やんで……敵よりもまずテメエを呪ったよ。どうしてオレだけ残ったんだ、って。
それでもさ、実はこないだの任務が原因でHIVに感染しました、って医者どもからいわれた時にさ、逆に急にふっ切れたのよ。
それから、彼らが死んだのはもう取り返しがつかない、そう考えることにした。オレが生きてこうして這いずっているのも……シゴトを続けているのも、少しでもヤツらの死を無駄にしたくない、と思ってよ」
春日は煙草に火をつけようと胸ポケットをさぐってから、箱ごとサンライズに渡したのを急に思い出したようだった。
「それでも、キャリーの様子を見に行くたびに、やっぱりオレは単なるヒトデナシのオヤジだ、って思えてしまう。彼女はいつまでも、あの時から抜け出せないんだ、そうしてそれを見ているオレも……怖くて震えが止まらなくなる」
それでも、見守らずにはいられないのだ、と彼は寂しく笑った。
「オマエも、いい部下がいるからな……シヴァとか、あのオネエとか」
「正規雇用じゃないけどね、バイトだから気楽なもんだ」
「それでも、オマエを十分信頼してる。出来るヤツらだし……大事にしてやれよ」
「そうだな」
「それにオレもシヴァくんには先日世話になったし」はい? 何ですって?
「非常ベルの操作と解除、リモコン頼んでさ」聞いてません、そんなの聞いてませんてば。
「やっぱりオマエはアクマだ」それでオレまで巻き込みやがって。ケツを蹴りに行ったが、予測されて避けられてしまった。
「バカ、とっとと帰れ。もう来んな」
「はいはい、二ヶ月は来ませんよ~ダンナ」何となくうれしそうに、彼は非常階段を駆け下りていった。




