奇跡の星空の下で
オープニング曲『Altair-アルタイル-』
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紗々羅が去り、田所とチビスケ、二人並んで歩く。田所のその体格と人相から、すれ違う人はみな彼らを避けるように歩き去る。それは今までと変わらない、いつものこと。この二人が一緒にいて、用が無ければ話をすることもないのもいつものこと。そんな寡黙な田所が口を開いた。
「なぁ、チビスケ。ワシ、紗々羅さんに告ってみようと思う」
「マジで? 止めといた方がいいんじゃないかな?」
「なんで?」
「フラれるよ。確実に」
「なんてこといいやがる。やってみなきゃ分かんねぇだろ」
「真人、頭悪いな。まぁいいんじゃない? 当たって砕けても」
幼馴染であるチビスケは田所相手に容赦ない。が、田所もチビスケの言う事は素直に聞く。しかし今回は、田所の中に言われたところで止められない気持ちが芽生えていた。
見物客でごった返すエメラルド通りに、田所は次の花へと移動中のミツバチ紗々羅を見つける。今まで様々な修羅場をくぐり抜けてきたが、これほど心臓がドキドキしたことはない。とはいえ田所には『撤退』の2文字はない。ざわめきを掻き分け迷わず突進した。
「紗々羅さん! わ、ワシとその、つつつつつ付き合ってください!」
あまりにも唐突。『その辺り』の空気を読む、ということはできない田所だ。往来のど真ん中、祭りの最中。七夕まつりにご来場のみなさまの衆目が集まる中で、いきなりコレ。一方、急展開な状況に紗々羅は固まった。口はあんぐりと開いたまま、右手に持った齧りかけのチョコバナナは宙に浮いている。前触れも無く唐突にすっ飛んできた告白の言葉に脳の処理が追いつかないのは無理もない。それでも(やだ、こんなところで…みんなが見てるじゃない…)とはならないところが、やっぱり紗々羅。
「あー、ウチ、そういうのナシ。断ってんだわー」
と、一刀両断でバッサリ。
TPO弁えず告ればそりゃぁ…と誰もが思うが、田所はでかい図体に反し大いに狼狽える。
「なんで…どうして…」
「ウチらってまだ高校生じゃん? 今告って付き合ったとしても、他にいいコが見つかったらそっち行っちゃうでしょ? ウチもそんなんなるかもしんないしー。だからさー、そんな、今は一人に絞って付き合ったりしなくてもいいいんじゃね? いろんな人と出会って、話をして、見聞ひろげよーぜー。ニンゲン磨こうよ!」
「ワシじゃ、ダメなんすか?」
「ダメともイイとも言ってないしー。今が良くてもその先がどうなるかなんて分からないよねーって話。そだなー、5年後。ウチもまこっちゃんも、いろんな人と出会って、その上でまた5年後の七夕の日に会おうよ。その時には、まこっちゃんにはカワイイ彼女チャンができてるかもしんないし、ウチにもステキな彼氏クンがいるかもしんない。でもね、そんなの関係なく会おうよ。そしてまた出会って、まこっちゃんがウチのことイイな、って思ってくれて、ウチもまこっちゃんステキになったなーって思ったら付き合っちゃうかもしんない。でも先のことなんか分からないから、まこっちゃんもウチも、お互い忘れちゃってるかも。それでもそんなアヤフヤな約束、ウチとしてみない? どうかな?」
紗々羅は笑顔で小指を差し出す。魔導を使われたわけでもないのに田所の全身に電流が走った――――
肩をガックリ落とし、チビスケの元へトボトボと戻ってくる田所。
「どうだった? 聞かなくても分かるけど」
「なぁチビスケよ。人の大きさって、見た目じゃ分かんねぇもんだな」
「まぁそうだけど、どしたん? フラれたんでしょ?」
「ああ」
「ご愁傷様」
再び二人並んで黙って歩く――――おもむろに田所が口を開いた。
「なぁチビスケ」
「何?」
「ワシ、真人間になるわ」
「…は?」
「ワシ、これから真人間になって、自分磨くわ」
「…それはそれで…悪くない話、だけどね」
見上げる田所の目にうっすらと輝くもの。チビスケが田所が涙を流すのを見たはいつ振りか? だが、前から来る人を田所がスッと避けてすれ違うのを見たとき、チビスケは田所の中で何かが変わったんだろうな、ということは分かった。
◆
19:30を過ぎ、屋台は次々と本日の店じまいをしていく。七夕まつり本日の部は間もなく終わりを告げようとしている。解散のあいさつをしたいと望陵2-Bの先導で近くの廣塚八幡神社へ向かった。境内奥にある幼稚園の前の広場で2-Bと代之宮勢で向かいあう形で集まる。そして2-B代表として、澪が1歩前へ出てあいさつの辞を述べることに。
「代之宮の皆さん。今日は私たちと一緒に七夕まつりを回っていただき、ありがとうございました。それで…その…神代君と、彼がお世話になっている代之宮の皆さんにお話があります」
改まった言い回しに代之宮勢はザワついた。
澪は言う。
望陵学園が間もなく再開すること。
望陵の校長が大樹を望陵に戻れるよう取り計らっていること。
ただし、それは本人の意思次第である、ということ。
滑らかに説明する澪。ここまでの話す内容は準備してきたのだろう。
「それは神代君も同じことで…それで、どうなのかな? 神代君は。望陵に…その、戻ってくる、のかな…」
だが最後の部分は自信無さげに言い淀んだ。今宵一緒に竹飾りの下を巡り歩いて、大樹は相変わらずだということは分かった。でもそれと…今彼が代之宮で置かれている立場とは関係ない。誰彼なく慕っている環境に対して望陵が、まして澪自身がどれだけの価値を提供できるのか。そう思うと胸が締めつけられる。
「待てよ! 神代は今じゃ俺たちの守り神で」
言い出したのは五十嵐慎一。大樹に真っ先に絡んでいった、あの赤シャツの男だ。だがその言葉は最後まで言えなかった。
「バカヤロウ!」
「ゲハーっ⁈」
予告なしで田所に殴り飛ばされた。目の当たりにした2-B、そりゃぁ驚く。
「大丈夫っす」
「ウチじゃもうこれレクレーションなんで」
代之宮の連中は事もなげにフォロー。望陵的には『文化の違い』を思い知らされたところではある。
「いつまで神代に頼って甘えるつもりだ! 神代はお前らを鍛えて強くしてくれた。だったら。その恩返しに、代之宮は自分らで守ると約束して、神代を笑って送り出してやるのがスジってもんだろうが!」
田所は五十嵐を怒鳴りつけた。それを代之宮の全員がしんみりと聞き入る。
「神代。お前はどう思ってるんだ? 以前お前が言った通り、ワシらのことはワシらでやらなきゃならねぇんだと思う。だからワシらのことは心配するな。お前の思う通りにしろ」
田所は振り返り、大樹を見た。怒りでもない、悲しみでもない、まして喜びでもない、とてもニュートラルな顔だった。
そして大樹は頭を下げた。代之宮の『仲間たち』へ向けて。
「…済まないみんな。オレは…望陵に戻る。あそこはオレの居場所なんだ」
澪は息を呑んだ。代わりに涙が溢れ出た。そして深々と頭を下げ
「ありがとう。代之宮のみなさん…」
声を震わせてお礼の言葉を述べた。
この日、7月7日。風にそよぐ神社の木々から『奇跡の夜空』が覗く。そこには、廣塚の街明かりにも明るさを失わないベガとアルタイルが、天の川を挟んで輝いていた
◆
エンディング曲『おおきくなるみ』
https://x.com/HanashioKikei/status/2080624037781193157?s=20




