第73話 外の名前
朝、門の外で管理人とユリウスが話していた。
私は庭の小道を歩きながら、その声を遠くに聞く。
「王都からの書簡です」
ユリウスが封を確認している。
「珍しいですね」
管理人の声は穏やかだ。
「問い合わせのようです」
私は足を止めない。
庭のベンチに腰を下ろす。
書簡は静養地では珍しいものではない。
家族からのものもあれば、手続きの確認もある。
だが今日の封筒は、少し厚かった。
昼過ぎ、食堂でその話題が出る。
「王都から、ですか」
誰かが言う。
「ええ」
管理人は特別な調子を変えない。
「この場所について、いくつか質問が」
「質問?」
エマはいない。
去った人の席はもう埋まっている。
「療養の方法についてだそうです」
「方法、ですか」
私は湯のみを持つ。
「特別なものはありませんが」
管理人はそう答える。
ユリウスが紙をめくる。
「規則が少ない理由や、滞在者の回復率など」
「回復率」
食堂に小さな笑いが起きる。
「測っていません」
管理人は静かに言う。
午後、庭に出るとユリウスが書簡を読み直していた。
「返事を書くのですか」
私は通りがかりに聞く。
「形式上は」
「何を書きますか」
彼は少し考える。
「特別なことはしていない、と」
私は頷く。
それが一番正確だ。
夕方、川辺に立つ。
彼が隣に来る。
「外から見ると、不思議な場所に見えるのでしょう」
「そうかもしれません」
「説明できますか」
私は水面を見る。
「困っていない人が増える場所、と」
彼は小さく笑う。
「分かりにくいですね」
「ええ」
夜、部屋に戻る。
窓を開けると、風は変わらない。
外の世界では、名前が付くのかもしれない。
療養地。
静養所。
回復の場所。
でもここでは、ただの場所だ。
私は灯りを落とす。
外に名前が生まれても、
ここは変わらない。
私は、ここにいる。
それで、十分だった。
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