第21話 変わらない朝
目を覚ますと、窓の外が明るかった。
特別早いわけでも、遅いわけでもない。
いつもと同じ時間。
私は一度だけ寝返りを打ってから、ゆっくりと起き上がる。
「……よく眠れた」
声に出してみて、
その事実に少しだけ驚いた。
身支度を整え、廊下に出る。
床のきしむ音も、
差し込む光の角度も、
出かける前と何も変わらない。
使用人とすれ違う。
「おはようございます、リリアさん」
「おはようございます」
それだけ。
王都から戻ったことを、
誰も話題にしない。
聞かれもしなければ、
触れられもしない。
食堂では、いつもの席に朝食が用意されていた。
湯気の立つスープと、
焼いたばかりのパン。
私は席に着き、
何も考えずに手を伸ばす。
「……変わらないわね」
味も、量も、
昨日までと同じ。
それが、少しだけ嬉しかった。
食後、庭に出る。
朝露がまだ残っていて、
草の先が光っている。
ベンチに腰を下ろし、
しばらく空を眺めた。
何かをしなければ、と思わない。
考えをまとめる必要もない。
「……今日は、何をしようかしら」
問いかけても、
答えを急がない。
少しして、管理人が庭を横切った。
「今日は、特に予定はありません」
「そうですか」
「ええ」
それ以上、話は続かない。
以前なら、
その「予定」が何を意味するかを
考えていたかもしれない。
今は、
空いている、というだけだ。
昼前、川の方へ歩く。
道で何人かとすれ違うが、
皆、いつも通りだ。
「こんにちは」
「こんにちは、リリアさん」
それだけで通り過ぎる。
視線に、探る色はない。
確認も、期待もない。
川辺に着き、
石に腰を下ろす。
水の流れは一定で、
音も変わらない。
私は靴先で小石を一つ転がした。
王都での出来事を思い返しても、
感情は揺れなかった。
懐かしさも、後悔も、
どちらも遠い。
「……ちゃんと、置いてきたのね」
そう思って、
胸の奥が少し軽くなる。
帰り道、
あの青年とすれ違った。
「おはようございます、リリアさん」
「おはようございます」
彼は立ち止まらない。
私も立ち止まらない。
けれど、
歩調が自然と合った。
「……今日は、穏やかですね」
「ええ」
それだけで十分だった。
午後は、部屋で本を読む。
頁をめくる音だけが、
静かに続く。
途中で集中が切れても、
焦らない。
何かを成し遂げる一日ではない。
ただ、過ごす日だ。
夕方、窓の外が少し暗くなった頃、
私はようやく気づく。
王都から戻った翌日なのに、
特別な感情がない。
達成感も、喪失感もない。
「……これでいいのね」
そう思えたことが、
一番の変化だった。
夜、灯りを落とす前、
窓を少し開ける。
風が入ってきて、
カーテンが揺れる。
私は深く息を吸って、吐いた。
変わらない朝。
変わらない夜。
けれど、
変わらなくていい場所に戻ってきた。
その事実が、
静かに胸に残っていた。
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