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婚約破棄されたので、距離を取ったら溺愛されました  作者: はねださら


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第16話 留守にするという感覚

朝の支度をしていると、

荷物が思ったより少ないことに気づいた。


小さな鞄に、着替えを一式。

手紙と、本を一冊。


それだけで、もう閉じてしまう。


「……すぐ戻るつもり、なのね」


独り言は、責める響きを持たなかった。


 


廊下に出ると、

管理人が帳簿を閉じるところだった。


「今日は、少し出かけます」


「ええ」


驚いた様子はない。


「何日ほどでしょうか」


「まだ、分かりません」


「分かりました」


それで終わりだった。


行き先も、理由も聞かれない。

戻るかどうかも、確認されない。


ただ、

留守にする

という事実だけが共有される。


 


庭を抜けると、

町へ続く道に、見知った背中があった。


「……おはようございます」


振り向いた青年が、軽く会釈する。


「おはようございます、リリアさん」


彼は、私の鞄に目を留めたが、

それ以上は見なかった。


「出かけられるんですね」


「ええ。少し」


「そうですか」


声色は、変わらない。


「……戻られますよね」


問いではなく、

確認でもなく、

当たり前のことを口にしただけの調子。


「ええ」


私がそう答えると、

彼はそれ以上何も言わなかった。


見送らない。

引き止めない。


「お気をつけて」


「ありがとうございます」


それで、十分だった。


 


町の門を抜けるとき、

振り返る必要はなかった。


ここは、離れる場所ではない。


少し、席を外すだけだ。


 


馬車に乗り、

揺れに身を任せる。


王都へ向かう道は、懐かしいはずなのに、

胸は騒がなかった。


招待状は、鞄の中に入れたままだ。


行くと決めたわけではない。

戻らないとも、決めていない。


ただ、

今はここを留守にしている

それだけ。


 


窓の外で、景色が少しずつ変わっていく。


畑が増え、

道が広くなり、

人の気配が濃くなる。


それでも私は、

静養地の空気を、まだ身にまとっていた。


急がない。

整えない。

答えを出さない。


それでいい。


 


王都が見え始めた頃、

私はふと、気づく。


不安がない。


戻る場所があると知っているからだ。


それだけで、

人はこんなにも落ち着いていられるのかと、

少し可笑しくなる。


 


馬車が城門へ近づく。


役割はない。

肩書きもない。


それでも、

私はここに来た。


「……少し、顔を出すだけ」


そう呟いて、

背筋を伸ばす。


これは、帰還ではない。

再開でもない。


ただの、留守の続き。


それを終えたら、

また戻る。


その前提が、

私を軽くしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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