エピローグ 変わらない場所
朝、庭はいつも通りだった。
風が葉を揺らし、
遠くで水の音がする。
何も変わらない。
私は小道を歩く。
足音は軽く、
急ぐ理由もない。
ベンチには誰かが座っている。
名前は知らない。
知る必要もない。
その人は、ただ座っている。
それでいい。
川辺に向かう。
石に腰を下ろす。
水は変わらず流れている。
ここに来た人たちは、
それぞれの形で過ごしていく。
最初は戸惑い、
何もできずに立ち止まる人もいる。
何かを探し続ける人もいる。
離れられずに、
誰かのそばにいようとする人もいる。
そして――
少しずつ、
自分で選ぶようになる。
何をするか。
どこにいるか。
どう過ごすか。
誰にも決められず、
誰にも決めてもらわずに。
やがて、
自分で立てるようになる。
それができた人は、
ここを去る。
特別な別れはない。
引き止めることもない。
ただ、静かにいなくなる。
そして、
また別の誰かが来る。
同じように迷い、
同じように立ち止まり、
同じように選び始める。
その繰り返し。
ここは、
何かを与える場所ではない。
何かを教える場所でもない。
ただ、
選べる余白があるだけ。
私は水面を見る。
流れは止まらない。
それでも、
急ぐことはない。
背後で足音がする。
振り向かない。
その人は、
自分の場所へ向かう。
それでいい。
ここでは、
誰も導かない。
誰も救わない。
それでも、
人は整っていく。
私は立ち上がる。
風が少しだけ強くなる。
葉が揺れる。
音は変わらない。
この場所も、
変わらない。
私は歩き出す。
行き先は決めていない。
決めなくても、
困らない。
それが、この場所の形。
そして――
それで、十分だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この物語は、
誰かを救う話ではなく、
誰かが自分で立つまでの時間を見守る話でした。
特別な力も、特別な言葉もありません。
ただ、急がなくてもいい場所があるだけ。
それでも、人は変わっていく。
そして、その変化はとても静かで、確かなものです。
この場所に来た人たちは、
それぞれの形で整い、そして去っていきました。
でも、この場所は変わらず残り続けます。
もし読後に少しでも余白が残ったなら、
それがこの物語のすべてです。
ここまで読んでいただけたこと、本当に感謝しています。
もしよろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
そしてまた、どこかで続きを書くことがあれば。
そのときは、静かに戻ってきてください。




