最終話「町を守る」
祭りから数日後のことだった。
ライザスがパトロールをしていると、若い番兵が駆けつけてくる。
「た、た、た、大変ですっ!」
「どうした?」
「ま、ま、ま。ま、ま、ま」
「落ち着け」
落ち着いた番兵が報告する。
「町の外に……大勢のならず者が……! 100……いや200人ぐらいはいます!」
「なんだと!?」
「連中、黒い火の玉がシンボルの旗を持ってて……一体なんなんでしょう!?」
近くにいたジーナが気づく。
「……それは『悪の魂』の連中だ」
「お前が壊滅させたっていう……」
「正確には壊滅には至らなかった。首領を始め、何人かの中心人物は逃がしてしまったんだ。詰めが甘かった」
ザワザワ……。
周囲の町民にも不安が広がる。その中にはジーナに話しかけてきたメグもいた。
「お母さん、怖いよ……」
「大丈夫よ。だから泣かないで……」
ジーナは決心する。
「私が行こう。奴らの狙いはおそらく私だからな」
**********
町の外には、報告通り無数のならず者がいた。どいつもこいつも血に飢えた顔をしている。真面目に生きるより、他人を傷つけた方が楽に楽しく生きられると結論を出した連中の集まりだ。
「待ってたぜえ……」
『悪の魂』の首領がいた。凶悪な面構えをしている。
「やはりお前だったか」
「ああ、以前は世話になったな。大鎌使いなんてふざけてるのかって舐めてかかったらひでえ目にあっちまった」
「壊滅させられて、仲間を集めて復活したというわけか」
「復活どころじゃねえ! 人数は前より増えたし、むしろ勢力は増してんだよ! 部下からてめえがここにいるって報告を受けた時は笑いが止まらなかったぜ!」
笑いが止まらないという言葉とは裏腹に、首領が殺意をむき出しにする。
「殺してやるぜ、死神! その後はついでにその町も襲ってやる! 祝賀会会場にちょうどいいからなァ!!!」
「相手してやる」
大鎌を構えるジーナ。ライザスが続こうとすると、
「いや、ここは私一人でいい。お前は万一のため、町の人たちを避難させてくれ。それに……私が奴らに倒されたら、戦える者がいなくなってしまう」
すると、ライザスは――
「そうはいかない」
「なぜだ!」
「ジーナ……お前はもう、この町の一部だからな。だからこの町の守り神である俺が守る!」
「……ありがとう」
ジーナとライザスは『悪の魂』に向き合う。
「お? もう一人剣士もいやがるのか? まあ一人が二人になったところで死ぬのは変わらねえがな。仲良くあの世に送ってやるよ」
剣を抜き、首領が号令をかける。
「やっちまえぇ!!!」
ウオオオオオッ!
ならず者たちが一斉に襲い掛かってきた。
「行くぞジーナ!」
「ああ!」
たった二人で集団に斬り込んでいく。津波に石ころが挑むような、あまりにも絶望的な光景だ。
だが、二人はただの石ころではなかった。
ズバッ!
ライザスの剣が敵の胸を切り裂く。
ザンッ!
ジーナの大鎌が急所を貫く。
「うぎゃあああああっ……!」
「ぐわっ!」
「ギャアッ!!!」
ライザスとジーナは見事なコンビネーションで敵を倒していく。
ライザスが隙を見せればジーナがカバーする。ジーナがチャンスを作ればライザスがすかさずそれを活かす。
1プラス1は2ではなく10にも20にもなる……そんな戦いぶりだった。
「うぎゃっ!」
「ぐえっ!」
「がふぅっ!」
聞こえるのは部下の悲鳴ばかり。
二人の予想以上に強さにひるむ首領。
「ど、どうなってやがる! あの女はここまでの強さじゃなかったはずだ! もう一人の剣士が強いといってもこんな押されるわけねえ!」
彼の計算は間違っていなかった。
ジーナが一人であれば、おそらく新生・『悪の魂』は勝てた。仮にジーナ級の戦士がもう一人いたとしても、もう一人いるだけならいい勝負にはなった。
だが……二人はあまりに息が合いすぎていた。ろくに訓練もしてない、連携も取れないならず者集団が、数で押せるような相手ではなかった。
こうなると、部下にも逃亡者が出てくる。
「お、おいっ! 待て! 逃げるんじゃねえ! 逃げたらブチ殺すぞ!」
こうなるとまるで統制が取れない。急造された組織の弱点が露呈した格好だ。
そこにジーナが現れる。
「残念だったな」
「ひっ!」
「あの時お前を逃がしたのは私のミスだ。あれからさらに罪を重ねてきただろうからな……」
「ぐっ……!」
「私の異名は“死神”……」
鎌を向けられた首領は、手に持っていた剣で襲いかかる。
「くそおおおおおおっ!!! 俺は……『悪の魂』は滅びねえんだあああああっ!!!」
「魂は死神に刈られる運命だ!」
ザンッ……。
首領の首が飛んだ。頭を失った体がその場に倒れる。それがならず者集団の終焉を知らせる合図となった。
ライザスが駆け寄ってくる。
「終わったな」
「ああ。手伝ってくれてありがとう。それと……」
「?」
「私も町の一部だと言ってくれて……嬉しかった」
ニコリと笑うジーナに、ライザスは決意した。ずっと言えなかったことを言おう。言うのは今しかないと――
「ジーナ!」
「ん?」
「これからもずっとこの町にいてくれないか。いや……俺のそばにいてくれないか」
ジーナはゆっくりと頷く。この言葉をずっと待っていたのかもしれない。
「こちらこそ……よろしく頼む」
すると――
避難したと思われていた町の住民たちがそこにいた。
「おめでとう!」
「よっ、お似合いだよ!」
「ヒューヒュー!」
大勢に祝福され、顔を真っ赤にしてしまう二人であった。
**********
ライザスの家――
エプロンをつけたジーナが、野菜サラダを用意する。
「今日は私が作ってみた。さ、食べてくれ」
「いただきます」
サラダをもりもり食べるライザス。
「どうだ?」
「うん、うまい! いい味付けしてるよ!」
「ふふっ、よかった」
二人は今や恋人同士。朝っぱらだというのにイチャついている。
「じゃあ、今日もパトロールに行くか」
「うん」
「守り神と……」
「死神で」
「町を守るぞっ!」
剣と大鎌を携え、二人は家を出る。
それからというもの、守り神と死神に守られたこの町はいつまでも平和であったということだ。
~おわり~
これで完結となります。
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