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episode14 ツーリング

 ヒロシはその三人を、特にイオムを見つめれば、イオムもヒロシを見つめていた。

 思わず、互いに笑顔になって、右手を挙げて親指と人差し指、小指を立てれば、イオムも続き同じように右手を挙げて親指、人差し指に小指を立てた。

「すまんのう。ほんとうならば、そなたを厚く歓迎し宴を催したいところじゃが。エヴァン・ラニンとガイアは、深く関わるのをよしとしておらぬのじゃ」

 年老いた魔術師が一人、杖をヒロシに向けた。すると、光に包まれて、D-トラッカーとともに姿が消えた。

「ああ……」

 イオムは哀しそうな瞳でそれを見ていた。エヴァン・ラニンの世界はガイアと違うところがありすぎるゆえに、うまくやっていけそうで、やっていけないことが多々あった。哀しいことも多々あった。その哀しいことを避けるため、やむなく深く関わることを避けるようになった。

「惜しいことじゃ。しかし、大世界樹も、ジョーイも、我らも、ガイアから来た鉄の馬の勇者を忘れることはないであろう」

 老魔術師は、空を見上げた。澄んだ空だった。ヒロシの瞳も同じように澄んでいたのが印象的だった。

 大世界樹は風に揺られながら、静かにすべてを見守っていた。

 それからも、リレントレス・クルーエルは今までと同じようにエヴァン・ラニンとガイアを行き来しているが、悪さは働いてないようだ。おかげで事件もなく平穏そのもので、エヴァン・ラニンの人々はリレントレス・クルーエルが改心したのだと喜んでいた。

 当のリレントレス・クルーエルはガイアの書物をよく読むようになっていた。その書物には、鉄の馬の絵が貼り付けられていた。

 

 ヒロシは自分の家の前で、D-トラッカーに跨ったまま停まっていた。

「あれ、オレなにやってんだ」

 何も覚えていない。

 おかしい。と思ったが、どうにも思い出せない。異世界のエヴァン・ラニンに行ってたことを忘れていた。老魔術師がそうしたのだが、わかるわけもなかった。

「ヒロシ、あんたなにやってんの」

 母親が家から出て、家の前で突っ立っている息子を不思議そうに見ている。

「いや、オレ、どうしちゃったんだろうと思って……」

「変な子だね。今日は学校、臨時休校で遊びに行ってたんじゃないの」

「え、臨時休校?」

 わけがわからない。なにか他の理由であったような気がするけど、どうにも思い出せない。

「あ、隣の家は?」

 ふと、口から出る言葉。しかし母親はぽかんとして。

「隣。ずっと前から空き家じゃない。どうしたの?」

 という。ヒロシはぽかんとして「ああ、そう」とだけこたえて、なぜそんなことを言ったのか自分でもわからないまま、部屋に戻った。

 部屋に戻って、なんとなくDVDレコーダーに録画していたX-GAMESのMOTO・Xを見た。

 見ていて、なぜか、なにかを手放さざるをえなくなって、それが哀しいような気持ちになって、涙が溢れて、泣いていた。


 それから学校に通いアルバイトに励み、バイクに夢中になる日々を送れた。

 それは、なんでもない日々かもしれない。でも、そのなんでもない、ということが大切なことだと、なぜか自分でも不思議なくらい思えた。自分は老けた人間なのかと葛藤しつつ。

 それよりも、夏休みに向けて、ヒロシはバイトに励んだ。夏休みは四国の酷道439(国道439号)と阿蘇山に行くんだ、と気合が入った。

 そして日曜日にはD-トラッカーとともに風となり、風を抜いてゆく。

 街を駆け抜け、峠道に入りさあ行くぞ、と加速したとき。

 ふと、葉っぱが四枚、目の前でひらひらと飛んだ。

 かまわず加速し、峠道を疾走すると、四枚の葉っぱはまるでヒロシと競争するかのように、しばらく目の前でうまく風に乗って飛んでいた。

「なんだ?」

 四枚の葉っぱに、なぜか懐かしさを覚えて、我知らず葉っぱを追う自分がいた。

 上り坂にさしかかれば、坂の上で白い雲の泳ぐ青空が広がるのが見えた。葉っぱは、空に向かって飛び立つかのように風に運ばれて、坂を上り。上りきれば、まさに空へと飛び立って、どこまでもどこまでも、昇っていって、ついには空にとけこんでいった。

 ヒロシは坂を上りきったところでとまって、四枚の葉っぱが昇ってゆくのを見送っていた。

 気がつけば、右手を挙げ、親指と人差し指と小指を立てて。

 あとで、オレなにやってるんだ、と気づいて恥ずかしくなった。


 ついに夏休みに突入し、ヒロシは天にも昇る気持ちでD-トラッカーとともに四国と阿蘇山目指して駆けた。

 リアに荷物をくくりつけられたD-トラッカーはヒロシの気持ちを代弁するように、機嫌よく咆えていた。

 寝ぼけまなこの両親に「気をつけるのよ」「おみやげお願い」と見送られながら、陽が昇る前に出発した。風は夜の冷気を含んでいたが、日が昇るにつれてむっとする熱気を含んでいった。

 峠を越え山道を走るころミラーに太陽の光が反射して、丁度目に当たってまぶしかった。が、これがツーリングしているという気持ちを盛り上げた。

 やがて瀬戸大橋にいたり、瀬戸大橋を渡り瀬戸の穏やかな島々の景色や瀬戸の工場たちを見下ろし、強い風に気をつけながら、四国の香川県に入ってすぐ見える山の上の教会を見上げつつ、高速道路を走り続け進路を東にとり徳島県を目指した。

 ふと、四枚の葉っぱが目の前に現れた。

 風に乗り目の前をひらひらと横切ってゆく。

「……」

 なぜか、心に沁みる。油断をすれば泣いてしまいそうだった。

 それを振り切るようにアクセルを開けた。

 近代的な中に南国の雰囲気のある徳島県徳島市に着き、日も落ちていっていたのでユースホテルで一泊し、翌朝、徳島市から高知県四万十市へと通じる距離300キロオーバーの酷道439(与作)を走った。

 酷道とは国道でありながら道路状況が酷い道を揶揄ったものだが、ヒロシのような物好きは好んでこの酷さと冒険を求めた。

 しばらく走れば深い山の真っ只中へと突入し標高も高くなり1000メートルを越え、道路状況も、狭く曲がりくねって、なんとも走りづらい。が、それがたまらなく楽しい。

 山が波打つように連なり、深い谷を見下ろし、雲は山のすぐ上で頂上に刺さるかのように山を覆い、まるで別世界にいるような思いで西へ西へと走り。

 高知県に入る直前、京柱峠というところでは、鹿の出迎えを受けた。ヒロシは驚き鹿も驚き、鹿はぴょんぴょん跳ねながら逃げてゆく。その姿は愛嬌があり、バンビという言葉が知らずに浮かぶ。

「逃げなくてもいいのに」

 とつぶやきながら、鹿を見送ったあと、県境をまたぎ猪肉ししにくうどんが食べれるお店があったので猪肉うどんに舌鼓をうち。西と東に広がる展望をたのしんで。西を目指した。

 439は長かった。しかも道もよくないのでペースを上げられず、平均速度は30キロほど。走りきるのに、丸い一日かかった。さすがのヒロシも疲れていた。が、439を走れたという喜びでテンションは高かった。

 四万十市で一泊し、翌朝フェリーで九州に渡った。

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