episode13 エクストリーム! Ⅲ
卍フリスビーとリレントレス・クルーエルは底まで駆け下ると、渦巻きのようにぐるぐると蟻地獄の壁を駆け、ヒロシとD-トラッカーも続いて底まで駆け下るとリレントレス・クルーエルを追って同じく蟻地獄の壁を駆けて渦巻きのようにぐるぐる回りながら上がってゆく。
渦巻きみたいにぐるぐる回りながら上りきって、ジャンプして草原に着地。ふたたび草原での追いかけっことなった。とともに、蟻地獄は姿を消した。
リレントレス・クルーエルは笑っている。彼女の一番の興味は、エヴァン・ラニンやガイアをどうするかよりも、ヒロシとD-トラッカーがどんな走りを見せてくれるかのようだ。
あいかわらずな不敵な笑みをうかべ、ペースを落す。一気に近づき、ヒロシは「勝てるか?」と勝利を急ぐ。が、もうすぐというところで、まんまと逃げる。
「遊びやがって」
ちぇ、と舌打ちし、追撃の手は緩めない。一筋縄でいかないのはわかっていたことだ。
と思えば突然足元が盛り上がり宙に飛ばされる。突然のことに体勢を崩し、腰がシートから離れる。が、咄嗟に足でシートを挟んで元に戻り着地。
「エクストリームってか!」
どうにもリレントレス・クルーエルがヒロシにエクストリームな曲芸走行をさせたがっているのがわかってきた。
しかし、いつまでもこんなことを続けられるわけもない。
リレントレス・クルーエルの操る卍フリスビーも速く、ヒロシも必死になって追いかけるのだがなかなか追いつけない。
その背中は逃げ水のように、近づけば遠ざかってゆく。
D-トラッカーはうなる。空を打つサウンドはスネイフェーレに轟く。イオムに竜騎士、魔術師たちは祈る思いで鬼ごっこを見つめている。
「あっはははははは」
無邪気にリレントレス・クルーエルは笑う。
その無邪気さが、イオムには不思議でもあり怖くもあり。その魔力で遊びたいのはわかるが、それが悪さにつながらなければ、いい遊び相手になったろうに。
追い追われするうちスピードは高くなる。景色は吹き飛び、風を打ち砕き風の破片を感じ、風を抜く。
「もっと楽しいもの見せてよ!」
ハイスピードにもかかわらず、卍フリスビーごと前転をしざま、リレントレス・クルーエルのサングラスひかり、その手が地面を指差せば。
ヒロシの眼前で地面が急激に盛り上がった。
「くそったれー!」
突然のことに避けようもなかった。意を決してヒロシは盛り上がった地面をジャンプ台に飛び上がったが、スピードが出ていたためにかなりの高さを飛んだ。しかも悪いことにバランスを崩して、バイクごとバック転しようとし、足がステップから離れた。
「うわ!」
悲鳴がヘルメットの中響く。
「あ、危ない!」
イオムは思わず目を硬く閉ざした。それこそヒロシが落ちると思ったのだ。今までどうにかリレントレス・クルーエルが地形を変形させるのをしのいできたが、いよいよ年貢のおさめどきか。
「あら、もうお終いかしら」
もう落ちると思い切ってか、リレントレス・クルーエルは逃げるのをやめて高みの見物をしゃれこむ。
D-トラッカーは回転し腹を天向けにしようとしていた。ヒロシはハンドルを握りしめて、バイクにぶら下がっていた。もう、落ちる、と誰しもが思った。
「なんだこのやろー!」
叫んだ。ヒロシは叫んだ。
落ちてたまるか、とハンドルを強く握りしめ、腹を天に向けるD-トラッカーにぶらさがり、万歳のポーズをとる。それから、腹筋にあらん限りの力を込めて足を蹴り上げステップに戻しその勢いでぐるりと回転し体勢を立て直した。
「KISS OF DEATH!」
硬く目を閉ざしていたイオムだったが少しあけて見てしまい、思わず叫んだ。ガイアで知ったBSの放送や動画サイトで、バイクで高く飛んでさまざまな曲芸走行を見せるバイクのモト・エクストリームスポーツ、X-GAMESのMOTO・Xを知り、仮面ライダーともども、すごいすごいとよく見ていた。
それを、エヴァン・ラニンで、ヒロシが見せてくれようとは。キス・オブ・デスはその技の名前だ。
D-トラッカーは勢いよく着地しリレントレス・クルーエルを追う。上空の結界の外でも、「おおー!」という喚声が轟いた。
「な、なんて奴なの!」
予想に反しクールにピンチをしのいだヒロシとD-トラッカーに焦ったリレントレス・クルーエルは、またも魔法で地形を変えて、ジャンプ台を出現させた。が、もうヒロシはびびらない。キス・オブ・デスを決めた勢いで怖いものなしでアクセル全開でハイスピードで勇んで飛び上がった。
スピードと勢いにのったD-トラッカーは高く飛び上がり、今度はわざとバイクを回転させようとする。
今度は足をステップにしっかりとつけて全身全霊を賭けて飛び上がるD-トラッカーをぐるりと回転させた。が、着地体勢はとらず、またも回転させようとする。
「あ、今度は……!」
今度は目を閉ざさない。しっかりとヒロシとD-トラッカーを見つめていた。
D-トラッカーはジャンプの頂点に達して落ちようとしながら、回転していた。
「DOUBLE BACK FLIP!」
イオムはまたも叫んだ。高くジャンプし空中でバイクごと二回転する高度な技だ。このダブル・バックフリップはBS放送や動画サイトでよく見て、すごいすごいと思っていたが。ヒロシがこうして見せてくれるなんて夢にも思わなかった。
魔法が使えても未来までは予見できない、とはよく言われていたことだが。それがこういう形で現れた。
リレントレス・クルーエルは自分の障害がことごとくしのがれて、卍フリスビーの上で呆然と立ち尽くしている。そこへ、ヒロシとD-トラッカーが勢いよく迫る。
「!!」
様子がおかしい。ヒロシは急ブレーキをかければ、D-トラッカーは後輪を上げた逆ウィリー、ジャックナイフ状態で前輪を転がしてゆく。
ころころと転がり、後輪着地。リレントレス・クルーエルの眼前まで来たが、彼女は逃げない。
それどころか。ふっ、と不敵な笑みを浮かべて、ヒロシの黒いヘルメットの頭にキスをした。
「な、なんだ」
「あら、勝利の女神からの祝福のキスはおいやかしら?」
リレントレス・クルーエルは今度はシールドをつまんで突然上げて、唇を突き出し鼻柱にキスをした。
ひゃ、とイオムは手で目を隠した。
「……」
ヒロシ呆然。
「見えるわ。あなたの心の青い空が。それは、心に穢れがなければスネイフェーレから天国が見える、という言い伝えのままの、空ね……」
そう言うと後ろに下がり、胸ポケットから葉っぱを二枚とりだし、ふっと息を吹きかけて飛ばす。
そうすれば、二枚の葉っぱは飛びながら人の形になり、それは徐々に大きくなって人間になってゆく。
それは松江豊と寿子、いやイスレとマウリーンだった。
「イスレ、マウリーン!」
イオムは駆け出す。イスレとマウリーンも、元に戻ったのに気づき、我知らずイオムのもとまで駆ける。
リレントレス・クルーエルはサングラスを外したオッドアイでそれを見つめながら、光に包まれて、姿を消す。
同時に結界も消えて、竜騎士や魔術師たちは急いでスネイフェーレに降り立ち、ヒロシとD-トラッカーを取り囲む。
「見事だ!」
と賞賛が惜しみなく送られる。ヒロシは照れて、戸惑っている。
リレントレス・クルーエルはこの負けを素直に認めて、姿を消したようだ。その魔力の気配が消えているのを察し、皆安堵していた。
エヴァン・ラニンは救われたのだ。
イスレにマウリーン、イオムは互いに抱擁しあい、ともに暮らす家族の無事を喜んでいた。




