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episode12 エクストリーム! Ⅱ

「うわぁー!」

 一気に視界がひらけ、草原が眼下に広がる。

 ややバランスを崩してD-トラッカーは横になった。が、どうにか立て直して、着地。

 リレントレス・クルーエルは楽しそうにそれを眺めていた。

「鬼さんこちら、手のなる方へ」

 人差し指を立てて、倒して立ててを繰り返し、着地し体勢を立て直したD-トラッカーに手招きし、今度は丘を下る。下るといっても、ヒロシとイオムがいたのと反対側に下った。

 リレントレス・クルーエルを追うヒロシの視界に銅像が一体入った。それは竜に乗る竜騎士の銅像だった。

「リレントレス・クルーエル! その銅像に手を出してみろ、ただでは済まさぬぞ!」

 数多の竜騎士が叫ぶ。イオムは息を切らしながら丘を駆け上がって、大世界樹の傘下から丘のふもとを見下ろす。

「ああ、ジョーイと炎の嵐……」

 丘のふもとの銅像は、六百年前、エヴァン・ラニンの人々と別の異世界から侵攻してきた魔族との壮絶な戦いにおいて、我が身を賭して戦いエヴァン・ラニンを救った伝説の竜騎士・ジョーイとその愛竜である炎の嵐の銅像だった。

 彼はこの世界では世界樹にひとしい存在だった。それから二百年のち、いまから四百年前、ふたたび魔族の侵攻があったとき、この炎の嵐が復活しエヴァン・ラニンを救ったという伝説があり、それは今も、これからの時代へと語り継がれている。

 そうとは知らず、ヒロシは銅像をパイロンのようにしてUターンするリレントレス・クルーエルを追って、自分も律儀に銅像を真ん中に円を描くようにターンした。

 無論後輪はスライドし前輪は逆ハン切ってのドリフトでだ。

 D-トラッカーはいざとなればいつでもヒロシを振り落とそうと暴れてコントロールが難しかった。未舗装路でスピードを出しマシンをコントロールするのは、舗装路でマシンをコントロールすることの数倍も神経を使った。

 なにせタイヤがグリップしないのだ。アスファルト舗装ならタイヤも食いついて走れるのだが、今は草と土である。それはタイヤの回転のパワーを受け止めきれず、ふんばらせてくれない。

 ヒロシはこけるかこけないかのギリギリのラインをさぐりつつ、アクセルをコントロールしなければならなかった。

 

 リレントレス・クルーエルは魔法を使い、地形も変えることが出来た。

 ふっ、と不敵な笑みを浮かべれば、ヒロシの目の前で突然地面は盛り上がる。今度は低く、波打つように盛り上がりが連なり、凸凹が行く手を阻んだ。それはまるでウォッシュボードのようだった。

「くっ!」

 ヒロシは腰を浮かし、アクセルをコントロールしウォッシュボードをクリアしてゆく。

 どだだだ! とD-トラッカーは上下に揺れながら突っ走る。振り落とされないようにハンドルを握りしめ、膝でシートを挟む。

「おお、見事だ」

 竜騎士たちは思わず喚声をあげる。リレントレス・クルーエルとの鬼ごっこを受けて立って、大丈夫か、と心配したがなかなかどうして。うまく鉄の馬を操り、リレントレス・クルーエルを追いかけている。

「やるじゃない、じゃあこれはどうかしら!」

 いきなりD-トラッカーの真下の草原が盛り上がり、ヒロシともども宙に放り上げられてしまった。

「うぁ!」

 と思わず悲鳴が上がり、D-トラッカーは宙でウィリーをしヒロシはバランスを崩し、あろうことか思わず手がハンドルを離してしまった。落ちると誰しもが思った。が、シートを咄嗟につかんで身体を引き戻し、シートに腰掛け着地。

 おお、という喚声が上がる。イオムももう、はらはらどきどきだ。

 リレントレス・クルーエルも満足そうだ。その右手が高々と上がった。と思えば、今度は草原は思いっきりへこんだ。それはまるで蟻地獄のように。

 リレントレス・クルーエルは卍フリスビーを操り、蟻地獄の中に突入する。ヒロシのD-トラッカーも続く。

 中は広く、学校の体育館と同じくらいのスペースがあった。リレントレス・クルーエルと卍フリスビーは一旦蟻地獄の底まで駆け下る、下りなので勢いもつく。ヒロシのD-トラッカーも底まで駆け下ると、リレントレス・クルーエルに続き一気に外向かって駆け上がる。

 まるでカタパルトから飛び立とうとするかのように空めがけて加速し、上りきれば、卍フリスビーは一瞬浮き上がった。リレントレス・クルーエルは身体をしなやかに回転させると、再び蟻地獄を駆け下る。それは海面からジャンプして遊ぶシャチを思わせた。 

 ヒロシとD-トラッカーも上りきって一瞬ジャンプした。ただジャンプするのではなく、少し斜めにジャンプし、飛び上がりきったところの一瞬無重力のように浮く一瞬の間、咄嗟に斜めに飛んだ慣性の勢いに乗って身をよじるようにD-トラッカーを「横」に倒すようにマシンのケツを振った。

 D-トラッカーはぶうんとうなりをあげるように勢いよく百八十度横に回り、ケツを振り上げ、真っ逆さまに蟻地獄へと落ち、D-トラッカーはうなりをあげて駆け下ってゆく。

 リレントレス・クルーエルは一瞬振り向き、追うヒロシとD-トラッカーをサングラスに映し出し不敵に笑う。もう楽しくて楽しくてしかたがないようだ。

 それから、蟻地獄を駆け下り駆け上がってジャンプしまた蟻地獄に落ちて……、を何度か繰り返した。

 イオムは杖を強く握りしめ、ヒロシとリレントレス・クルーエルの鬼ごっこを固唾を飲んで見守っている。とともに、ヒロシの走りに目を奪われていた。

(僕はガイアに残って、大きくなったらバイクで走りたい)

 リレントレス・クルーエルを見張り封印するために来たガイアでバイクを知り、知らないうちにその魅力に取り付かれていた。

 リレントレス・クルーエルを追い引越しを繰り返して、また異世界から来たことを知られてはいけないので、友達もできなかった、つくれなかった。イスレにマウリーンはよくしてくれるものの、やはりさびしかった。

 魔法の素質があるから、ガイアでリレントレス・クルーエルの追跡の任に当たるのだが、魔法の素質があっても楽しいと思うことは少なかった。だけど、バイクへの憧れが心の慰めとなり、希望となり、いままで頑張ってこれた。

 だから、隣のヒロシがバイクに乗っていることを知ったときは、すごく嬉しかった。

 ヒロシと友達になりたかった。

 そのヒロシが、強引にエヴァン・ラニンに召喚されたとはいえ、エヴァン・ラニンのために走っている!

「なんという見事な手綱さばき!」

 竜騎士や魔術師たちは、リレントレス・クルーエルを追って極限の走りを見せるヒロシとD-トラッカーに驚いていた。

 ガイアの人間がエヴァン・ラニンのために戦うという前例はなかった。いままで、何人かのガイア人がエヴァン・ラニンに来たが、自分の世界と違いすぎるということで、皆腰を抜かし強い望郷の念に駆られて、とどまることすらしなかった。だからすわやというとき、エヴァン・ラニンのために戦う者も、残念ながらいなかった。

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