泳ぐのが苦手な俺。いや、その前に……
時はルミノース歴885年、ルミノース王国が建国されてから、長い月日が経った。
ルミノース国は多種族国家である。住民は人族、獣人族、魔族、エルフ族と主に四種族で構成される。
獣人族は平均寿命が十五年ととても短命であり、その代わり多産である。
人族はおよそ五十年から六十年とその次に短命であるが、同種族あるいは他種族との繋がりを利用してより豊かになろうとする知恵を持つ。
魔族はその種類によるが、数十年から数百年生き永らえ、あるものは暗闇の中で密かに暮らし、あるものは姿形を変え、他種族との暮らしに馴染んでいる。
そして、エルフ族に関しては、元々が神と同じような存在であるため、基本的に寿命はなく、世界の終わりまで生きると言われている。もしくはその者が生きる気力を失った時に死ぬと。
この物語は、ある一人の人族が幼き頃に冒険者を目指し、
とってもとっても苦手な水泳を克服し、
さらにさらに、ある少女との恋愛を成就するために奮闘する。
そんな物語である。
◇ ◇ ◇
「フィードく〜ん! はい、もっと手をあげて〜!」
これは俺の専属の、水泳担当のナターシャ先生である。
「はーい……先生、これってなんか意味があるんですか〜?」
俺は今、十二歳。そしてナターシャ先生に従って両手を上げている。
水泳の特訓なのだ。なんで特訓をしているかって?
そう……俺はとってもとってもとっても、泳ぐのが苦手なのだ。泳ぐのが苦手なのに、何故特訓をしているかと言うと。
十六歳になって父のような立派な冒険者になるには、水泳のスキルが必須だからだ。いくら力があっても、魔法ができても、戦闘スキルがあったとしても、水泳ができなければ冒険者になることはできない。
そうなんだよ、だから嫌いだけど、頑張ってるの! んで、この水泳の特訓を何故か横から見ている女の子がいる。
「頑張ってよ〜! フィードくんが特訓終わらなかったら、遊びにいけないじゃ〜ん」
いや、勝手にいけよ。俺は一緒に行きたいなんて一言も言ってないぞ。心の中でその女の子に反論をする俺。
女の子の名前はアマリリス。年は俺と同じで、まぁ簡単に言うと幼馴染みたいなやつだな。
ちなみにフィードと呼ばれているけど、俺のちゃんとした名前はフィデリスだ。
このルミノース王国は多種族国家で、俺とかアマちゃんのような人族の他にも、獣人族や魔族やエルフ族もいる。見た目ではわからないけども、各々の種族の混血もきっといると思う。
俺の住む、ルミノース王国の中で一番大きな都市である中央都市マグヌスでは、それなりに統率が取れているからか、あまり種族間のゴタゴタは少ないように思う。
もしあっても、王国騎士団や警備を任されている冒険者達がすぐおさめてくれているのかもしれない。
「アマちゃん、もう少しかかりそうだから、先に遊びに行ってもいいぞ」
「ううん、待っとく」
待っとくんかい。まぁいいか。
俺はこの夏できっと、この箱型水泳特訓装置を……五十往復してみせる!!
バーン!!
だいぶ大きく出てしまったが、今のところ、一往復どころか、片道の半分も泳げていない。
だからこそ、特訓をしているのだが。
「はい、フィードくん! 手をあげて〜! 横にかいて〜! ぐるっと回して、また上げて〜!」
「先生、これって何か意味があるんですか?」
さっきも聞いた質問を、またぶつける。
「この泳ぎ方が、一番の基本だからね。長距離をなるべく疲れないように泳ぐのは、フロッグスイムが一番なのよ」
フロッグスイムってなんだろう。
カエルさんみたいなやつかな。
「先生、俺早く泳げるようになりたいんだけど。実際に装置の中で泳ぎたいです」
「いや、無理でしょ。すぐ溺れるし。つべこべ言わず言われた通りやりなさい」
図星なので何も言えない。
「はーい……先生、水に顔をつけても大丈夫になる訓練ってどうしたらいいですか?」
そうなのだ。俺は泳ぎも苦手だが、顔に水がかかると気持ち悪くて手で顔をすぐ覆ってしまう。だから泳ぐというより、まず水が苦手なのだ。
「え、毎日顔をちゃんと洗ってたら慣れるでしょ?」
え、顔って母親に拭いてもらうものなんじゃないのか。水で洗うなんてしたことないぞ。
そこからか……
俺の水泳特訓は、前途多難であった。




